増援
「放てーっ!」
魔物と対峙していた、その時だった。
鋭い女性の号令が背後から響く。
次の瞬間
赤、青、黄、緑、銀。
五色の魔法が雨のように降り注ぎ、魔物たちを一斉に飲み込んだ。
轟音が連続して響き渡る。
爆炎が舞い、氷が砕け、岩が弾け、木々が絡み、刃の雨が降る。
周囲の建物にまで衝撃が及び、激しい土煙が街を覆った。
「撃ち方、やめ!」
再び女性の声が響く。
魔法の雨はぴたりと止み、静寂が戻った。
「なんだ!?」
慌てて振り返る。
そこには、魔導服に身を包み、杖を構えた魔導士たちが整然と並んでいた。
「こっちにも援軍が来てくれたみたいだねぇ」
団長が口元を緩める。
隊列の先頭から、赤縁眼鏡をかけた黒髪ショートの女性が一歩前へ出た。
「団長。市民の避難はすべて完了いたしました」
「ご苦労さん。でもさぁ…」
団長は頭をぽりぽりとかきながら、周囲を見回す。
崩れた建物や抉れた石畳を見て、小さくため息をついた。
「街まで壊しちゃって。これ、どうすんの?」
「団長が始末書を書けばよろしいのでは?」
女性は表情一つ変えず、淡々と返す。
「えぇ~、それは勘弁してよ」
団長は心底嫌そうな顔をした。
そのやり取りに思わず苦笑していると、
「アスターちゃん! ルドベックちゃん! 二人とも無事だった?」
聞き慣れた声とともに、グラッドが魔導士たちの列から駆け寄ってきた。
「グラッド!」
無事な姿を見て、胸をなで下ろす。
「もしかして…エヒメアの英雄、グラッドさんかい?」
団長が興味深そうに尋ねる。
「あら?英雄だなんて嫌だわ。アタシはただのグラッドよ」
グラッドはさらりと笑って答えた。
「…人違いだったか。失礼したね」
団長は肩をすくめ、小さく頭を下げる。
そして煙管をくるりと回すと、騎士団へ向き直った。
「さて、副団長とも合流できたことだし。ここからは包囲殲滅戦といこうか!」
「おおおおおっ!!」
騎士団と魔導士団の双方から雄叫びが上がる。
団長は満足そうに頷くと、再びいつもの気の抜けた笑みに戻った。
「というわけで、みんなここまでご苦労さん。あとは避難しちゃってよ」
「では、街の外まで護衛を」
副団長がすぐに指示を出そうとする。
しかし、団長は手をひらひらと振った。
「いいよ、いいよ。ルドベックが一人いれば十分さ」
「ですが…」
「それにさぁ。第一騎士団が魔物を撃ち漏らさなければ、良いだけだろ?」
団長は自信満々に笑う。
その言葉に、副団長もそれ以上は何も言わなかった。
「アスターくん。それとグラッドさん。また今度、パウロへ遊びに来てよ」
団長は煙をふかしながら振り返る。
「その時は、ちゃんと表彰してあげるからさ」
そう言い残すと、迫り来る魔物たちへ向かって駆け出していった。
「まったく…」
副団長は小さくため息をつく。
「そういう訳ですのでここから先は、我々第一騎士団にお任せください」
きっぱりと言い切るその姿には、揺るぎない自信があった。
「ですが」
まだ戦える。
そう言おうとした瞬間、グラッドがそっと腕を掴んだ。
「アスターちゃん。ここは任せましょう」
振り返ると、グラッドは穏やかに微笑んでいた。
だが、その表情はどこか硬い。
「それより…気になるものを見たの」
そう言って、眉間に深いしわを寄せた。




