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異変

轟音が響いた方へ目を向けると、精霊教会本部の周囲から土煙が立ち上っていた。

次の瞬間

ドォンッ!

ドォンッ!

ドォンッ!

立て続けに三度、爆発音が街中へ響き渡る。

そのうち一つは精霊教会本部。

残る二つは闘技場の方角からだった。

やがて立ち込める土煙の中から、巨大な鳥のような魔物がゆっくりと姿を現す。

その姿を見た人々は一斉に悲鳴を上げ、我先にと逃げ惑い始めた。

子どもの泣き声。

大人たちの叫び声。

さっきまで穏やかだった広場は、一瞬にして地獄へと変わる。

身体は考えるよりも先に動いていた。

逃げてくる人々の波をかき分けながら、魔物のいる方へ駆け出す。

その時だった。

人混みの向こうに、一人の少女の後姿が目に入る。

左右に大きく跳ねたツインテール。

赤いアクセントカラーの入った髪。

見間違えるはずがない。

「ローレル!」

思わず叫ぶ。

ここにいるはずのない彼女が、そこに立っていた。

逃げ惑う人々をよそに、ただ呆然とその光景を眺めている。

ローレルはちらりとこちらを振り返った。

彼女の表情は、どこか退屈そうで、期待外れだと言わんばかりだった。

暗く濁った瞳は、まるで何かに飢えているようにも見える。

思わず足を止めた、その瞬間。

逃げ惑う人々に肩をぶつけられ、身体が大きくよろめいた。

慌てて体勢を立て直し、もう一度ローレルがいた場所へ視線を向ける。

しかし、そこにはもう誰の姿もなかった。

「…見間違いか?」

小さく呟く。

だが、今はそんなことを考えている場合ではない。

気持ちを切り替えると、再び魔物のもとへ向かって駆け出した。


「おかーさーん!」

人混みを抜けた先で、泣きじゃくる少女の姿が目に飛び込んできた。

そのすぐ背後には、一体の魔物が迫っている。

それは、理性など微塵も感じさせない異形の怪物だった。

全身は、闇そのものを形にしたかのような漆黒。

ミノタウロスを思わせる筋骨隆々の肉体が、圧倒的な威圧感を放っている。

その首には狼のような獣の頭が据えられ、剥き出しの鋭い牙が獲物を求めるように鈍く光っていた。

血を流し込んだかのような真紅の瞳は狂気に染まっている。

額からは黒く湾曲した二本の角が突き出ている。

半開きの口からは粘ついた唾液が糸を引きながら滴り落ち、その荒々しい息遣いだけで周囲の空気が震えた。

ただ目の前の命を喰らうという、むき出しの本能だけを感じさせる。

「親は何をしてるんだ!」

魔物が少女へ向かって拳を振り上げる。

考えるより先に、地面を蹴っていた。

不思議なほど身体が軽い。

一瞬で少女との距離を詰めると、その小さな身体を抱き上げる。

そのまま魔物の拳を紙一重でかわし、大きく跳躍した。

しかし、魔物もそれを待っていたかのように大きく口を開く。

ピキピキピキッ!

口内に巨大な氷柱が瞬く間に生成される。

次の瞬間、それは一直線にこちらへ放たれた。

空中に足場を!

以前、リリーとアイリスが見せてくれた動きを思い出す。

水行で足元に氷を生み出し、即席の足場を作る。

その氷を力強く蹴ると、さらに高く跳び上がった。

眼下を巨大な氷柱が轟音とともに突き抜けていく。

間一髪。

魔物の一撃をかわすことに成功した。


「もう大丈夫だよ。安心して」

足元に氷の足場を次々と生み出し、空中を駆けながら魔物の攻撃をかわす。

少女を安心させようと笑顔を向ける。

しかし、少女は恐怖で目を固く閉じたまま、小さな身体を震わせていた。

こちらの声など耳に入っていないのだろう。

早く、この魔物をどうにかしないと。

そう思い、意識を魔物へ向け直す。

「…敵は水行か。それなら!」

以前、ローレルが見せてくれた遠距離攻撃を思い出す。

土行で矢を作るイメージ!

少女を抱えたまま右手を魔物へ向け、魔力を練り上げ発動する。

岩石で出来たバリスタの矢が魔物目掛けて飛んでいく。

その時

「ガアアアアッ!」

魔物が咆哮を上げた。

すると、地面から無数の木の根が勢いよく突き出した。

それらは絡み合い、一枚の巨大な盾となって攻撃を受け止めた。

「…木行まで使えるのか」

思わず眉をひそめる。

予想以上に厄介な相手だ。

次の一手を考えようとした、その時だった。

「不審者! 助けに来たぞ!」

聞き慣れた声が地上から響く。

ルドベックだった。

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