散歩
一人取り残されてしまった。
このまま立ち尽くしていても仕方がない。
時間がもったいなく感じ、気の向くままに街を歩いてみることにした。
通りには武器屋や防具屋など、冒険者の街ではお馴染みの店が軒を連ねている。
そのほかにも、工具を専門に扱う店や日用品店など、生活を支える商店も数多く並んでいた。
そんな中、一軒のおもちゃ屋が目に留まる。
店先に並ぶ見たこともない玩具の数々に、思わず子どものように胸が躍った。
魔力を込めると、自分の思い描いた通りに駒が動くチェスのような遊戯。
三次元空間で駒を積み重ねながら遊ぶ、立体型のオセロ。
さらに、小さな球体へ魔力を流し込むと、一羽の鳥へと姿を変えて空へ飛び立ち、頭上をくるくると旋回したあと、一定時間が経つと再び手元へ戻って球体へ戻る玩具まである。
「…すげぇな」
どれも魔力を利用することを前提に作られた玩具ばかりで、この世界ならではの発想に思わず見入ってしまう。
気づけば時間を忘れ、子どもたちに混じって夢中になっていた。
「おほんっ!」
不意に、わざとらしい咳払いが聞こえる。
顔を上げると、店主らしき人物が腕を組み、じっとこちらを見つめていた。
どうやら、子ども用のおもちゃを真剣な顔で触っているのを不審に思ったらしい。
「…すみません。これ、ください」
気まずさをごまかすように、先ほど気に入った鳥の形へ変形する球体のおもちゃを手に取る。
「まいどあり」
代金と引き換えに玩具を受け取ると、足早に店を後にした。
おもちゃ屋を出ると、足早で大通り付近まで戻ってきた。
すると、その先には大勢の人だかりができていた。
「…なんだ?」
特に予定もなかった俺は、興味本位で人だかりの方へ歩いていく。
人々は大通りの左右に整然と並び、皆そろって道の先へ視線を向けていた。
その様子は、まるでパレードの行進を今か今かと待っている観客のようだ。
「何か始まるのか?」
胸が高鳴る。
異世界の祭りか、それとも騎士団の行進か。
期待を膨らませながら、人混みの中へ紛れ込んだ。
人混みに紛れて待つこと数十分。
突然、門の方から黄色い歓声が上がった。
「キャーッ!」
どうやら何かが始まったらしい。
いよいよパレードか?
期待に胸を膨らませながら、その方向へ目を向ける。
すると、
「教皇様ー!」
という大きな歓声が聞こえてきた。
教皇?
どうやら、楽しげなパレードや騎士団の行進ではなさそうだ。
少しがっかりした。
とはいえ、ここまで待って今さら帰るのも何となく負けた気がした。
そのまま人波の中で待ち続ける。
やがて、騎士たちに厳重に護衛されながら、一人の男がゆっくりと姿を現した。
沿道の人々へ穏やかに手を振っている。
男は恰幅の良い体つきをしており、身に纏うのは白を基調とした司祭服。
装飾は決して派手ではないが、一目で最高級の品だと分かるほど気品に満ちていた。
あれが教皇か。
周囲は熱狂しているが、正直なところ、
ただの偉そうなおじさんかおじいさんにしか見えない。
あれの何がそんなに人を惹きつけるのだろうか。
そんな疑問を抱きながら、静かにその場を後にした。
「はぁ…何だか期待外れだったなぁ」
昨日と同じように、桃のジェラートを片手に噴水広場までやって来る。
ベンチへ腰を下ろし、一口頬張ると、ひんやりとした甘さが口いっぱいに広がった。
「それにしても、この街は平和でいいなぁ…」
噴水の周りでは、子どもたちが楽しそうに走り回っている。
鬼ごっこをする子、キャッチボールをする子。
あちこちから笑い声が響き、穏やかな時間が流れていた。
その光景があまりにも微笑ましく、自然と目を細める。
「すみませーん!」
元気な声とともに、一つのボールが足元まで転がってきた。
振り向くと、一人の少年が慌てて駆け寄ってくる。
「ほらよ」
ボールを拾い上げると、少年のミット目がけて軽く投げ返した。
「ありがとうございます!」
少年は深々と頭を下げ、友達のもとへ戻ろうとする。
「あっ、ちょっと待って」
呼び止めると、先ほど買った鳥の玩具を懐から取り出した。
この玩具も、俺が持っているより子どもに遊んでもらった方が幸せだろう。
そう思い、少年へ向かって放り投げる。
「わわっ!」
少年は慌てて受け止め、不思議そうに首をかしげた。
「あげるよ」
そう言うと、少年の表情がぱっと明るくなる。
「ありがとうございます!」
満面の笑みで礼を言うと、友達のところへ駆け戻っていった。
早速、玩具に魔力を込める。
球体は一羽の鳥へと姿を変え、青空へ向かって羽ばたいた。
子どもたちは歓声を上げながら、飛び回る鳥にボールを当てようと夢中になっている。
思っていた遊び方とは違ったが、それもまた楽しそうだった。
そんな微笑ましい光景を眺めていると
ドォンッ!!
突然、精霊教会本部の方角から轟音が響き渡った。
穏やかな広場の空気が、一瞬にして凍りついた。




