8話 これこそが事の顛末
ここからが、本当の意味で一生で幾つ経験できるのか分からないほどの怒涛の2日間だった。
まずはカランコさんに事情報告という名の結婚報告をしに行ったのだが、これがまあ驚嘆に留まらなかったので大変だった。
それはそうだ。
今まで一切の色沙汰の一文字の欠片も出さなかった少女が、いきなり万人受けする伊達男を捕まえてきて、電撃過ぎる結婚報告をしに来たのだから。
提案したのは私なのに関わらず、如何にも正式に手順を踏んでいる恋人のように魅せるアルベルトさんのナチュラル過ぎる演技力と、それによく染み付いている計算高さ(これについては長い付き合いがない限り気付かないだろう)にも度肝を抜きつつ、私は私なりに頑張っていた。
予め「僕に合わせてくれれば大丈夫だから」と言ってくれたのは大変頼もしいと思ってはいたものの、知り合いの中でも一番一筋縄では行かなそうだったカランコさんの警戒を早い段階で解くことに成功しているという事実には、味方で良かったと心底思った。
次に母の元に足を運んだのだが、一先ず面会して事情を話すのは私だけということにした。
中々アルベルトさんが行くと聞かなかったのだが、ただでさえ事が事なのに加え、アルベルトさんの存在が美の暴力で刺激が過ぎるので母の病状を拗らせないためにもということである。
これはアルベルトさん本人のためにも、言わないに越したことはない。
この説得に実に半日もかかったが、私の知る彼との付き合いの中では新記録だ。
病室の扉を開けて中に入ると、私の姿に気付いた母は少し口角を上げてこちらを向いた。
「1ヶ月ぶりね?」
「久しぶりお母さん。いきなりごめんね」
「いいのよ……ここの人たちとの生活は好きよ?」
「それでもさ、私はお母さんの娘だもの。定期的に顔見せなきゃ」
そうして仲睦まじい何気ない会話を繰り広げていると、「本題があるんでしょ?」と母に言われたので、私は意を決して母に本題を打ち明けた。
すると、母は口に水を含みながら聞いていたので案の定咳き込んだ。
「母さん! ちょっと……いつも言ってるじゃん!?大事な報告の時は水飲んじゃダメだって……」
「分かってるわよ……ゴホっゲホッ……そういう時にっ……限ってゴホっ……喉が乾いちゃうだけ……っなの」
全くといっていいほど台詞に説得力がないな、と思いつつも最早何時ものことなので、そこで何とか私は感情に折り合いをつけた。
こういったものを世界では分かっていないと言う。
と、母に何度この数年言ったことか。
「分かってるんだったら気をつけてってば……」
それに対して母は「はいはい」と分かっているとでも言いたげな空返事を私に返したあと、少し黙ってから返ってきた言葉にはギクリとしかできなかった。
「そういう貴方こそ何か隠してるんじゃなくて?」
その言葉を言われてから一気に部屋が支配する空気の質が変わった。
「……え」と思わず1文字零れてしまった。
今思えば、私の母に隠し事なんて最初から負け戦を申し込みに自ら白旗を挙げに行ったようなものだったのだ。
「貴方がこういとも簡単に恋愛に手を出したがらない性分、なのに急に心変わり? 私の娘なんだからそんなことないはずよ……運の良いことに、性格とかの諸々も完全に私に似たんだから」
「隠し事はできないわよ」と、こういう時に限って何をしてでも折れない母にキッパリ言われてしまったため、観念して一部だけ真実を言うことにした。
言ったのは2つだけ。
まずは恋愛結婚ではなく、合意の上で訳あって利害婚したということ。
そしてその人とは昔から交流があって仲の良い友であること。
それを聞くと母は納得して「そう……」と一言。
「ちなみにその人は今どこに?」と母が全然目が笑っていない笑みを浮かべながらそう言うので、「今度会わせるから!」と必死に弁明したまでである。
さっきも似たようなことを言ったような気がするが、人間でいうところの三十路にあたるらしい(本人談である)男の美貌と色気は、はっきり言って刺激が強すぎる故に心の準備をしてもらってから会わせたいからだ。
彼から聞いた事で衝撃だったのは、彼の髪の毛先の方にかけてグラデーションで混じっている白の髪も大部分を占めている黒髪も染め髪じゃなく全て地毛だったということだ。
これはてっきり敢えて染め残しを見せるスタイルなのかと、当時の年相応の突飛な考えで私はとんでもなく失礼なことを言ったのだと、それを聞いた時は顔が青ざめてしまったのが自分でもよく分かった。
「歳を考えると、少なくとも数百年は経ってるから人間じゃ長生きなんて域じゃないけどね」と、笑い混じりに言うそのハートの強さは人生経験の賜物なのだろうか、もしくは元々なのか判別が私でもつかなかった。
つく日が来るのかは……考えないでおこう。
見習わせてくださいと言ったら、「君には君のやり方があるから。参考程度にしておきなさい」と返されてしまった。
そんなことはないと反論したかったが、言うタイミングを見失ったのである。
カフェで説得の攻防中に逸らされた話の内のそちらに思考を傾けていると母に、「いつその人を連れて会いに来てくれるのか、ちゃんと連絡してちょうだいね?」と躙り寄られてしまったので「決まったら手紙で連絡するから……」ということはちゃんと伝えてから部屋を後にした。
面会の時間切れである。
街の人達にはカランコさんの口から伝えてもらうということにして、私は急いで荷造りをしてアルベルトさんの自宅に引っ越しさせて貰ったということなのだ。
次週。アルベルトの視界が垣間見えます。
章の区切りごとにアルベルト視点が入り込みますが、これは彼がこの物語の裏主人公である名残り……かもしれません。
彼が一体どんな人なのか……それを一緒に覗きましょうか。




