6話 明るみにされた事実
辿り着いた店は、シックな雰囲気がよく似合った隠れ家のようなお店だった。
中に入ると外装に更に説得力を加えるように、点々と置かれた観葉植物やテラリウムに机や椅子のダークブラウンの材質やその質感までもが、店自体の魅力を底上げしていた。
彼はここを知っているようで、迷わずに店の奥の方に向かっていった。
彼が気に入りそうなお店ということには納得した。
一般の感性でもこの雰囲気は自身の好みを含む上ではあるけれど、非常にアルベルトさんの持つ人物像に良く似合うのだ。
ここのお店の雰囲気に思わず惹き込まれそうになりながらも後を着いて行くと、辿り着いたカウンターの向こうに立っていたのは、エプロンに身を包んだ少し歳を重ねた女主人だった。
「いらっしゃい。アンタかいアル。……後ろの子は?」
挨拶をしてきたかと思えば、彼女は私の存在に少し目を見開いてそう言いながら、随分と私を物珍しい様子でこちらを見てきた。どこにもよく居る(風に髪は黒染めしているし、背丈も平均ほどしかない)小娘に何が珍しいのだろうと思っていると、自然な様子で彼は会話を続けた。
「まぁ、ちょっと諸事情でね」
そう彼が返すと、彼女はフッと鼻で少し笑ってからこんなことを口にした。
「珍しい。女の子を連れてくるなんて何かあったかと思ったけど、どうもそうでもないようだね?」
「やめてあげてくれ。そうしたらこの子に色々と迷惑被りそうだ。店の奥の席を頼めるかい?」
そう相変わらずの笑みで返した彼の横顔からは、私の前では微かに滲む本音が、完全に和やかな紳士の仮面に見事に隠されていた。
あいよ、と彼女が言った後に注文したいものを聞かれたのでカウンターテーブルに出されたメニュー表を開きながら、取り敢えず目に映ったもので良さそうなものを私は注文させてもらった。
「じゃあ私はこれで」と彼が言った後に女主人は店の奥に行ってしまった。
店の中もそんなに人がいる訳じゃなかったので、席は自由にしてくれということなのかもしれない。
行こうかと言われるがままに連れられて、着いた個室の奥の席に互いに収まったところで彼は、さてから言葉を始めた。
「何から聞きたい?」
「山ほどありますけど……」
聞きたいことは彼と話しながら道中である程度まで頭の中に出していたものの、上手く纏めておけば良かったと後悔している最中だったが、一番最初に思いついたのはこの質問だった。
「私が不死鳥のアルベルトさんを視認してるように、人とは違う"なにか"が見えてるのってなんでなんですか?」
彼は表情は変わっていないものの、普段の和かさとは逆の何故か少し複雑そうな雰囲気を出しながらなんとも言えない沈黙の後にその答えを返した。
「それはね、君がヒュノンに魅入られたからだよ」
ヒュノン?と聞き返した私に彼はこう言葉を続けた。
「僕が彼等の世界を知った時は"人外"。僕はそう区別してた。この人外という呼び方をするようになったのは本当に最近の話だけど……まぁこういう状況になった人間に説明するには矢張り昔の呼び方の方がイメージを掴みやすいだろう。話が逸れたけど、人外に魅入られた人間は、人外を認識できるようになるんだよ」
「なるほど……」
ならば私は人外(?)の誰かに魅入られたということ、なのね……
頭の中に事実を落とし込んでから放った、「次いいですか?」という私の問いかけに対して彼は、「嗚呼」と言葉が返ってきたので私は次の質問に切り替えることにした。
「このペンダントの宝石ってなんで他の人__いや、人間だとただの石にしか見えないんですか?それと、私だけにこれが宝石って分かるのはこのミル……?なんちゃらに選ばれたことに、関係があるんでしょうか?」
私が"選ばれた"と放ったことに関して想定外だったのか、そのことを言った直後に彼は少し面を食らっていた。
すぐにそれは元の表情に戻って、「僕もあまり詳しくはないんだけど……」と言いつつも、彼は律儀に返答をしてくれた。
「それはミルクリスタラと言ってね。別名だと奇跡の欠片とも呼ばれる代物なんだ。別名の通りそれは人外の世界じゃ相当な価値が付けられる」
「どのくらいなんですか」と聞いた時に彼から、大小差があるにせよ最低でも国を2つ程買えるくらいのものだ、と言うので危うくスケールの壮大さに卒倒するところだった。
純粋な好奇心は身を滅ぼすとはまさにこの事である。
そんな私に「まだ本題じゃないぞ」と突っ込みながらも彼は更に言葉を紡ぐ。
「ここからは僕の憶測だけど、その宝石は無垢な存在にだけ本当の価値を現すというものだというのが僕個人の見解なんだ。人間は禍々しい負の感情を抱えているのに加えて、その半分は生まれ持って無垢じゃない。だから本来なら、宝石だとすら気付かないはずなんだよ」
彼は一言間を置いた。
「結論から言おう。君はその宝石…ミルクリスタラに選ばれた__
『選ばれし者』なんだ」
え、私が……?といきなりの事に呆気に取られていると、「驚いているところ申し訳ないがそれだけじゃないんだ」と彼は紡ぐ口を止めようとしなかったので思わず横槍を突っ込んでしまった。
「ちょっと待ってください!?まだあるんですか?」
その問いに関して彼は、「これも伝えるべきことなんだ」と言うので彼のしようとしている事を予測した私は、大人しく聞き手側に戻った。
「過去の様々な記録を遡っても、選ばれし者は人外以外の前例がまずないんだ。今のところ君以外いないんだよ。人間ではね」
「それがどういう意味を指すか、君なら想像できない訳じゃないと思う__」と彼が言ったところで個室にノックの音が3回響いた。
さて、矛盾が発生していると感じている方も多いのではないでしょうか。それはこれから時間をかけて答えを出すつもりなのでどうぞ気長にお待ちください。
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