5話 再会と積もる話
私は下に叩きつけられた体を擦って起こしながら、彼等の方を見た。後ろ姿だったのでよく分からなかったが、彼はいつの間にか両翼を人間の腕に変えたのか、手には何かを持ちながら女を問いただしているようだった。
その時はまだ頭がまだぼうっとしていて詳しくは聞き取れなかったものの、声色は確実に怒らせてはいけない獣の唸り声の類に限りなく近かったことを感じ取れたのは確かだった。
段々と私の意識もはっきりしてきたと同時に、しばらくそのままで女が動かなくなったのを確認した後に、彼は立ち上がった。
「怪我はないかい」と言いながら私の方を向くその姿は、あの魔法を見た日と変わらない和かな笑顔の似合う紳士の姿だった。
「やあ。この姿で会うのは久しいね」
さっきの事から推測するに、不死鳥さんとこの人は同じってことでいいんだよねという結論をつけた後に、彼に言葉を返した。
「はい。大丈夫、です。アルベルト……さん?で合ってますよね?」
彼が歳上と分かった以上、今までのような軽い接し方でいいのかと戸惑いながらも私がそう言うと、彼は眉尻を僅かに下げて一瞬だけ間を空けてから言葉を続けた。
「……今まで通りアルベルトでいいさ」
「歳上の人くらい敬わせて下さい。それとこれじゃ話が別なので……」
「困ったなぁ。僕はこの距離感好きだったんだけど」
なんてことを言いながらも微笑んでいる彼。
そんな形で久しぶりのちゃんとした再会に互いに心が弾んだのか、あれやこれやと話し込んでいると、そうだと言う風に彼は声のトーンを一段階下げた。
「君に話す時が来てしまったね。とりあえず場所を変えていいかい?」
「……あ。そのことについてなんですけど……」とこの問に関して即答ではいと言いたいところではあったものの、お使いを頼まれていたことをすっかり忘れていたので、一先ずそれを先に済ませてからということにさせてもらった。
「……一先ず来た道を戻りましょう?」
「ああ」
彼の軽い返事の後に、元来た道を戻ろうと歩み出してから、不意に私の頭にある疑問が浮かんだ。
何故ペンダントを握らずとも、私が危うかったということを知ることができ、且つ駆けつけて貰えたのか。
そうしなければ故意にでもなにかしない限り…いや、彼に限ってそれはないか、とその思考をすぐさま投げ捨てそれについて彼に聞いた。
すると、「あぁ、ここの森に用があっただけだよ。材料を補充したかったから来てたんだけど、同族の禍々しい気配がしたから何事かと思って来てみたら君がいたんだ……良かったよ本当に」と安堵した声色で返された。
「ありがとうございます……頭が上がりません」
「全く……そんな大したことじゃないから。君も元よりも更に品格に磨きがかかったね?」
そんなことを言われて、「いえいえ」と謙遜を添えつつも昔の彼について思いを馳せていた。
昔から話題が思いつかない時に「お話して!」と言うと、植物(主に薬草)の話を面白く分かりやすくしてよく話してくれた。
そこについてはただの物知りな不死鳥さん、とか呑気に思っていた私がちょっと浅はかだったかもしれなかった、と感じざるをえなかった。
そう思いながらも私は質問を続けた。
「アルベルトさん、今ので思ったんですけどもしかして薬学とかに知識があったりするんですか?」
「まぁ……"嘗て"はそっちが専門だったかな。今は別の分野だよ。」
それに補足を付けるように、「今の分野には、ぶっちゃけ薬学で身に着けたその知識に助けられた」と彼は言った。
「まさか君が僕のくだらない話にも、幼ながらに付き合ってくれるとは微塵にも思わなかったから、あの時間は楽しかった」と更に付け加えられる、とまでは予想だにしなかったが。
「あれはだって、アルベルトさんが子どもの私にも分かりやすい言葉で説明してくれたので……」
「だからといって、あれだけの説明を君かなり覚えてたよね?」
それは、と言うところで私は言葉を紡ぐ口を止めてしまった。
私だってあの些細な時間が、何よりの人生の思い出の半数近くは占めていたのだ。
元より強い大人になりたかった私には、情報も知識も全て武器にしたかったというのもあるのかもしれないが、大事にしたいと思うものを手放すほど私は阿呆でもない。
「……まぁ、君にとってくだらない訳じゃないっていう感じなら、僕は嬉しいよ」
私が思わず閉口していると、会話の投げ合いを持たせるためなのか彼がフォローしてくれた。
本当に昔から話していて、彼のしてくれるさり気ないその癖は、勝手ながら有難いと思っている。
そんなこんなで会話をしながら歩み続けていたら、あっという間に目的地の花屋の前に着いてしまった。
カランコさんには友達とご飯を食べてくるということで店の中で話をつけて、外で待たせていた彼に合流した後に、彼が場所を選びたかったようだったので彼の後に私は大人しく着いて行った。




