4話 救いの灯火
正体を現したところで、女は口を開いた。
「流石、ミルクリスタラに選ばれた人間だけあるねぇ……素直で誰にだって手を差し伸べられる、生まれつきのとんだお人好し」
「あな、たは?」
「なあに?名前が聞きたいのかい?お嬢ちゃんは今そんなことができる分際じゃないのさ」
この時、私は自分の渡世術に驕っていたのを認めざるを得なかった。
人よりも危機管理能力はそれなりにあったと自負はしていたのだ。
それ故に人を騙すというその不自然がこれっぽっちも感じられなかった事実に心底肝が冷えた。
つい先程まで話していて微塵にも気付けなかったのだ。
現実味を帯びない出来事に、頭を整理しようと必死に頭の中を回転させていると、女は更に饒舌に言葉を紡いだ。
「さぁ選ぶんだよ。私と一緒に来るか、ここで喰われるか。お嬢ちゃんを探すのは全く老体に響いたよ。それもこれもあのイモータラーが、そのペンダントに妙な小細工を掛けちまったおかげさ」
女が文句をブツブツと唱えているのはどうでも良いとしたかったが、それどころではないことぐらい私も本能で分かっていた。
喰われる?私を探していた?イモータラーって?
頭の中で様々な言葉を行き交わせながら、何とか私は彼女への問い掛けを絞り出した。
「……それって私が貴方達を認識できることに関係ありますか?」
「それに関しては半分正解だけど正確にゃ違うねぇ」と女は言葉を返す。女はこう言葉を続けた。
「お嬢ちゃんを狙ったのはただ一つ。お嬢ちゃん自体の存在そのものに価値があるのさ」
「何故そう言えるんですか?そうと分かる証拠でも?」
「そのミルクリスタラのペンダントが何よりの証拠さ。普通に生きてるなら、君たち人間の目に留まる価値も無いものだからねぇ。それと、昔から"君ら"はそうだと言われてるのさ。こっち側じゃあ、幼子でも知ってるような常識だよ」
それとねと女は更に続けた。
「人間で選ばれたのが類を見ない例なのさ。ただでさえ、君らという存在は片手程しか史上で見つかっていないというんだ。この謎を解き明かすためにどうしようか……研究者のやりがいがあるってもんよ」
このまま大人しく連れて行かれるのは確実に愚策と頭の中で警鐘を鳴らしていた私は声が多少震えながらも言葉を練り出した。
「私は……行く、つもりはっありま、せん….!私には待たせてる人達が__」
いるんです、と言うつもりだったのに女はその言葉を見事に多い被せてくれた。
「そうかい……なら眠ってもらおうじゃないか。なあに怖いことはしないよ。ただお嬢ちゃんは眠ってればいいだけ__」
私が言葉を被せられたことに、苛立つ間もなくその言葉が紡がれ始めたと同時に、私の意識が体の奥底に引きずり込まれそうになりだした。
正確に全てを聞き取れていたのかどうかも怪しいのでこの台詞は私の憶測に過ぎない。
抵抗は努力できる限界を尽くしたものの、私の知る世界の常識ではどうにも表しようのない摩訶不思議な力は、人間の女の独りの精神力を優越することを頭に刻まれていくばかりだった。
私はこのまま諦めるしかないのか。
脳裏に焼き付くお世話になった人達に自分から別れを告げようと本当に諦めかけたその時だったのだ。
「全く、僕を欺こうとするのなら2000年前から出直してきた方がいいよ」
落ちそうになる意識の中で聞き覚えのある声を聞くと、同時に朦朧としていた意識が一気に鮮明になった。
視界の急な切り替わりに頭が追いつくまでに少し時間がかかったけど、そこで捉えたのは仰向けに倒れて先程の余裕の表情を崩した女と、それを馬乗りになって鳥の足で両腕を拘束していた私の知る声の持ち主であろう彼の姿だった。
人類の知る限り目にすることはまずないであろう黒い炎。
それを纏った大きな両翼。
見た事のないハーピーのような姿だったが間違いようがなかった。
あの日から私の元によく会いにきてくれていた優しい黒い不死鳥。
見間違いようのない彼だった。
今週も本当にすみません。
作者、かなりの機械音痴なため誤作動で色々手を加えている最中に間違って更新してしまう事態が度々起こりますがこちら側の完全なるミスなので謝罪させて下さい。またやらかす可能性が五分五分なのでどうぞお手柔らかに…
追記
句点をちょちょいと消しました。それだけの更新です。
失礼しました。




