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極東

短いです


「やっぱり俺の勘は当たりみたいっすね」

 シエルが肩をすくめてそう呟くと、ロード様は眉をひそめた。

『どういうことだ? それに先程、オークは吹き飛ばしたが集落までは焼き払わなかったではないか』

「それっすよ」

 シエルは呆れたように頭を掻く。

「たぶん、ここら辺の教会の連中が絡んでるっすね」

『教会だと?』

「ええ。あいつら俺みたいな珍しい種族とか、勇者候補とか見るとすぐ隷属の指輪だのネックレスだの嵌めたがるんすよ」

「昔なんて、『これで神の導きが受けられます』とか言われて、首輪持って追いかけられたこともあるっす」

『犬かお主は』

「しかも高そうな宝石付きっす。売れば金になったのに」

『そこか!?』

「ちなみに逃げる途中で教皇の髪の毛増やしてひっ転がそうとしてたら聖人認定されかけたっす」

『意味がわからぬ!』

 魔王はぷるぷると震えた。

『我の配下であるお主を教会風情が隷属させようとしただと!?』

『許せぬ! 今すぐ城の軍勢を率いて――』

「いやいやいや、戦争になるっす」

『ならば秘密裏に教皇だけ攫って逆さ吊りに――』

「もっとダメっす!」

 ロード様はむぅ、と頬を膨らませる。

『……しかし腹立たしい』

 そう言うと、ぷるっと震えた身体から小さなゴッドフェニックスが飛び出した。

『緊急伝令である! 魔王城に「シエルいじめた奴リストを作れ」と伝えておけ!』

「やめるっすよ、そんな物騒な名簿!」

 燃える小鳥は「ピヨッ!」と鳴いて北へ飛んでいった。

『して、これからどこへ向かうのだ?』

「極東っすね。エルフの首都っす」

『ほう』

「変な教会も少ないですし、長命種なんで昔の知り合いがまだ生きてるかもしれないっす」

「それに――」

 シエルの顔がにやりと緩む。

「飯が美味いんすよ」

『飯!?』

「エルフ特製の炊き込みご飯に、山鳥の照り焼き、川魚の塩焼き。あと発酵させた豆の汁なんか最高っすね」

『なんと!』

「さらに巨大なキノコを丸焼きにして、溶けたチーズを――」

『行くぞシエル!!』

 ロード様は立ち上がった。

『教会など後回しだ!』

『世界の平和など明日でも守れる!』

『美味い飯が我らを待っている!!』

「いや魔王様、世界の平和は元々守ってないっす」

『そうであった!』

 こうして魔王と死なない商人は、世界の命運など誰も知らぬまま、ただ美味い飯を求めて極東への旅路につくのだった。

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