第59話 勇者は退けない
――ギィィィィンッ!!
剣と槍が激突し、衝撃波が周囲へ吹き荒れた。
石畳が砕け瓦礫が宙を舞う。
ケイト達は思わず腕で顔を庇った。
「見えない……!」
モナカが叫ぶ。
二人は目で追うことが出来ない速さで一瞬で動き、次の瞬間には別の場所で激突している。
――ガァン!!
――ドゴォォン!!
「ハハハハハッ!!いいぞリヒト!!これだ!!この感覚だァ!!」
ベレスが豪快に笑いながら、巨大な槍が唸る。
一振りで周囲の建物が吹き飛んでいく。
リヒトが後方へ飛んだその刹那、ベレスの目が光る。
「逃がさん。」
槍を地面へ突き立てた。
《重槍縛界!グラビティ・フィールド!》
――ズンッ!!
周囲の地盤が沈んだ。
「なっ……!?」
その威力は遠くにいるケイト達の身体までが地面へ引き寄せられていく。
膝が折れ、息が詰まる。
「何これ……!?重い……!」
アスティが驚愕する。
「重力操作や!」
ヘカテが顔をしかめた。
リヒトの身体も一瞬沈む。
だが、静かに笑う。
「相変わらず厄介ですね。」
「その余裕の表情がいつまで持つか…見物だな。」
ベレスも笑う。
その瞬間。
――ドンッ!!
ベレスが重力で拘束された空間の中を自分だけ自由に動きながら槍を構える。
「砕けろォ!!」
≪魔神瞬獄槍!!≫
――ゴォォォォン!!
リヒトが態勢を崩しながらも剣で受け止める。
衝撃で足元が砕けたが、それでもリヒトは崩れない。
「ほう、耐えるか。」
ベレスの口元が歪む。
「伊達に勇者はやっていませんので。」
リヒトが剣を引く。
「今度はこちらが行きますよ。」
その動きは静かだった。
だが、次の瞬間。
――シュン。
リヒトの姿が消え、ベレスの瞳が見開かれた。
「なに?」
《光踏一閃――ルミナス・ステップ!!》
重力場の中で、無理やり加速した。
光のような踏み込み。
「そこです。」
≪閃覇裂光剣!!≫
――ガキィィン!!
ベレスの肩へ剣が走る。
ベレスは咄嗟に魔力障壁を展開するが、僅かに鎧が裂ける。
「そうだ、その剣だ!!」
ベレスが笑う。
まるで強敵との再会を喜ぶ武人のように。
「貴様はそうでなくてはならん。
それでこそ、倒し甲斐があるというものだ。」
ベレスの槍に黒い魔力が集まる。
《天落魔神槍!!≫
重力と魔力を纏った槍が振り下ろされ、 周囲数十メートルが一気に陥没した。
「っ……!」
リヒトの表情が僅かに変わる。
「先生!!!!」
「桁が違う……。こんな化け物、いくら先生でも……」
ケイト達が青ざめる。
煙の中にリヒトが立っていた。
服の一部は裂けているが、まだ笑っている。
「少し痛かったですね。」
「ハハハハ!!その減らず口、変わらんなァ!!」
ベレスが爆笑した。
「あなたもですよ。力任せなのに妙に技術がある。」
リヒトも少し笑う。
「褒め言葉として受け取っておこう。」
ベレスの目が細くなる。
「だが、余興は終わりだ。そろそろ全力でやらせてもらう。」
静かな声。
戦場の空気が変わり、武人の顔になる。
「貴様を倒すために鍛え上げたこの槍であの世に送ってやる!」
ベレスの胸に残る古傷が静かに疼く。
槍を構え、魔力が膨れ上がり、まるで巨大な山が動くような威圧感を放っている。
「魔王軍ナンバー2の貴方にそう言って貰えるのは光栄ですね。ですが…」
穏やかに微笑む。リヒトも剣を構え直す。
「僕も、簡単に負ける気はありません。」
魔力が溢れ、光が舞う。
ベレスが牙を見せて笑う。
「知っている。だから全力で死合おうではないか。」
次の瞬間、両者が同時に踏み込んだ。
――ドォォォン!!
勇者と魔軍大将軍。二つの頂点が激突する。
(やはり強い。でも……)
リヒトの剣を握る手に力が入る。
――守るべき人達がいる、子供達の未来を護りたい。
だから、勇者は退けない。
(ここで負けるわけにはいかない!!)




