第60話 未来の勇者たちへ
――ドォォォォンッ!!
槍と剣が激突し、衝撃が王都を揺らす。
何度目かも分からない激突。
しかし、少しずつ戦況が傾き始めていた。
――ガキィィン!!
「ぐっ……!」
リヒトが後方へ弾き飛ばされ、石畳を削りながら数十メートル滑る。
「先生!!」
ケイトが叫ぶ。
リヒトは立ち上がるが、額から汗が流れ義手からは火花が散っている。
槍を肩に担ぎながら、ベレスがそれを見て目を細めた。
「……やはりな。貴様もそろそろ限界か。」
「年は取りましたからね。」
リヒトは苦笑する。
「違う。後遺症の方だ。」
ベレスが首を振る。
ケイト達が息を呑む中で、ベレスは続ける。
「その片腕に加えて、前魔王との戦いで受けた傷、それに伴い失った魔力回路…。」
槍を向ける。
「全盛期のお前なら、今頃地面に転がっていたのは、俺の方だっただろう。」
リヒトは否定できなかった。
「だが、俺は違う。」
ベレスが笑い、魔力が膨れ上がる。
「貴様と別れてから今日まで、強くなることだけを考えてきた。」
――ドンッ!!
大地が沈み、重力がさらに増す。
「勇者リヒト。今の貴様では、俺には届かん。」
ベレスが突撃し槍が閃く。
――ガァァァン!!
リヒトは剣で受けるが、足が沈み押されていく。
「っ……!」
「先生……。」
モナカの顔が青くなり、ヘカテも唇を噛む。
「これは、まずいで……。」
「リヒトさん……。」
アスティが震える声を出す。
――ガガガガガッ!!
ベレスの猛攻は止まらない。
「どうしたァ!!これで終わりか勇者ァァァ!!」
――ドォォン!!
槍の衝撃でリヒトの身体が吹き飛び、瓦礫へ激突する。
土煙の中からゆっくりと、リヒトが立ち上がる。
だが、全身は傷だらけ――そんな姿を見てベレスが笑う。
「それでこそだ!勇者リヒト、俺はまだ満足していない。」
リヒトは息を整え、剣を握る。
「……ええ、まだ終わりではありません。」
剣に光が集まり始める。
その瞬間、ベレスの目が変わった。
「ほう…来るか。」
リヒトが剣を構え、王都を照らすほどの光で剣が輝く。
「はい。これで終わらせます。」
《リヒト流最終奥義!破邪の剣》
巨大な光の一閃がベレスに放たれる。
その姿に誰もが息を呑んで見守る中で、ヘカテだけが心配そうな表情を浮かべる。
「あかん……。これは……。」
勇者最大の奥義にして、かつて魔王を討った一撃。
だが、ヘカテには気付いていた。
――今のリヒトの身体でこの技を放つのは寿命を削るのと同じことだと…
「ガハハッ!それが貴様の最強技か、ならば俺も最強技にて迎え討とう!!」
槍を握り、魔力が爆発する。
《魔槍究極奥義!重界絶槍》
槍が振り下ろされ重力の奔流。
光と闇が衝突する。
――――ドォォォォォォォォンッ!!!
世界が白く染まった。
そして煙が晴れると、そこに立っていたのは――ベレスだった。
肩から血を流しながら、それでも立っていた。
「……見事だ。」
ベレスが低く笑う。
「だが、届かなかったな。」
「そんな…」
ケイト達の顔から血の気が引く。
「うそ……。」
モナカが震える声を漏らす。
「今の……今の一撃を……?受け切った……?」
アスティが青ざめる。
「そんな……。」
ヘカテも目を見開いたまま動けない。
リヒトの剣が地面へ落ち、膝が崩れる。
ドサッ。
「先生!!」
ケイトが駆け出そうとする。
ヘカテが咄嗟に腕を掴んだ。
「待つんや!!」
「でも……!」
「…その通りです。それにまだ勝負は終わっていませんから!」
リヒトは膝をつき、魔力はほぼ空。
体力も限界で義手は完全に停止している。
それでも、彼は顔を上げた。
ベレスが静かに近付く。
「終わっていないだと…?」
リヒトは俯き息を整えると、ケイト達を見る。
その姿を見て、少しだけ笑う。
(そう…まだ終わっていない。大丈夫だ、未来はある。)
ゆっくり立ち上がると、ベレスが眉をひそめた。
「…まだ立つか。」
「ええ、勇者ですから。」
リヒトは微笑む。
「…未来を守る。それが役目です。」
「先生……!」
ケイトが叫ぶ。
「ケイト。聞いてください。」
リヒトは振り返らずにケイト達に語りかける。
「君は優しい、そして君を想う心強い仲間もいる、…だから大丈夫。」
「先生……。」
「これから先、どんな困難が来ても逃げないでください。」
拳を握り、リヒトの身体から、かすかな光が漏れ始める。
「……貴様。まさか……。」
ベレスの表情が変わった。
「だめや、リヒト!その技はッ…!!」
ヘカテが悲痛な叫びをあげる。
身体から強く光を放ちながらリヒトは笑う。
昔と同じ、優しい笑顔だった。
「ヘカテ、今までありがとう。後は……任せましたよ。
彼らの…未来の勇者達の支えになぅってあげて下さい。」
その言葉に、ケイト達の胸が嫌な予感で締め付けられる。
「……っ!先生、まさか……!」
リヒトの身体から光が爆発的に膨れ上がる。
ベレスが初めて声を荒げた。
「貴様ァァァ!!やめろォォォ!!」
その瞬間、ケイトの目が見開かれる。
リヒトが最後の構えを取りながら、ベレスへと迫る。
これは己の魔力と命を文字通り燃やす最後の大技だ。
《極大終焉魔法!!終焉聖断!!》
「先生ッーーーー!!」
ケイトの叫びが遅れて響く。
だが、もう止まらず目の前の世界が、眩く輝き始めた。




