第56話 魔軍大将軍、出陣
――魔王城、円卓の間。
黒い円卓に最高幹部達が揃っている。
並の魔族なら、この場に立っているだけで膝を折るほどの濃密な魔力。
円卓を囲む者達は、それぞれが一国を滅ぼせるほどの実力者ばかりだった。
その沈黙を破ったのは、重く低い一声。
「……報告しろ」
魔軍大将軍ベレス。
その一言だけで、部屋の空気がさらに張り詰める。
「はっ……!ヴァレフォール十番隊隊長ですが……」
魔族の兵が、震えながら跪く。
言葉に詰まる。
「戦死、いたしました……!」
一瞬――誰も動かない。
「……は?」
最初に声を出したのは、四勇騎のルーモス。
椅子にだらしなく座っていた身体を起こし、兵士を見据える。
「おいおい、魔王軍の軍隊長だぞ? ハッ…冗談にしちゃ笑えねぇな。 」
軽い口調だが、目は笑っていない。
「事実だ。現場にいた者は全滅。だが記録は残っている」
ベレスが短く言う。
机に、魔導映像が映る。
そこに映し出されるのは、現場の光景。
荒れ果てた王都。そして――
光を纏った剣士と、崩れ落ちるヴァレフォールの姿。
「……この剣妓はまさか……」
四勇騎のキリヤの目が細くなる。
「ああ、見間違えるはずがねぇな。“あの男”だ」
四勇騎のロッシュヴァリーが、腕を組む。
「……勇者リヒト」
誰かがその名を呟き、空気がさらに冷える。
四勇騎の表情が揺れ、四勇騎のリーダーヴァレリアが静かに目を伏せる。
「……生きていたのね」
どこか感情を抑えた声で呟く。
キリヤは、わずかに歯を食いしばる。
「……師匠」
「おいおい、まだそんな呼び方してんのかよ。」
思わず漏れたその言葉に、ルーモスが横目で笑う。
「黙れ。剣を教えてくれたことに変わりはない。」
キリヤは即座に睨み返す。
「へいへい。だが……厄介なのが戻ってきたな」
ルーモスは肩を竦めた。
「で、どうすんだ、誰が行く?……なんなら俺でもいいぜ?」
ルーモスが挑発するように笑う。
だがキリヤは即座に首を振った。
「お前に師匠の相手は荷が重い。」
「ああ?」
その時、
「――それでしたら適任者がおります。」
静かな声で円卓の奥に佇むメガネの青年――魔王軍参謀のアザゼル。
「そうでしょう、ベレス殿。あなたはかつて彼と戦った事があるとか……」
その視線が――ベレスに向く。
「……いいだろう。」
ベレスが、立ち上がり床が軋む。
「丁度、決着を付けたかった所だ。」
ゆっくりと槍を手に取り、並の兵士なら立っていられない程の圧倒的な殺気を放つ。
「おいおい、ナンバー2様直々かよ……」
ルーモスが、軽い口調で呟く。
「フン、ヤツにはそれだけの価値がある。」
ベレスは、振り返らずに鼻で笑う。
「勇者リヒト、その首を取れるのは――俺だけだ。」
鋭い眼光が闇を貫く。
――ギィィ……
扉が閉まり、静寂が会議室を包む。
その中で、アザゼルだけが小さく微笑んだ。
「……楽しみですね。」
眼鏡の奥で、冷たい光が揺れる。
「勇者と魔の頂点。どちらが勝とうと――」
口元が歪む。
「世界は動く。」
その笑みは、底知れぬ悪意を孕んでいた。




