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クソザコナメクジから始まる最弱勇者~スライムすら倒せない俺が世界を救うって本当ですか?~  作者: 小鳥遊 千夜
第三章 本物の勇者編 

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第53話 最強の教師、戦場へ

 

 ――リヒトの修行場。


 乾いた風が、訓練場を吹き抜け

 木剣がぶつかり合う音だけが、静かに響いていた。


 ――カンッ。


「遅い…。今のじゃ読まれてるよ」

 リヒトの木剣が、軽くケイトの剣を弾く。


「……っ!」

 ケイトは歯を食いしばる。


 額から汗が流れ落ち、呼吸も荒い。

 それでも木剣を握り直し、再び踏み込もうとした、その時だった。


 ――バチッ。


 空中に、小さな魔法陣が浮かび、激しいノイズが走る。


『ザザッ…ケイト!! 聞こえとるか!?』


「ヘカテ!?」

 ケイトが目を見開く。

 

 その声は普段と違い焦りが伝わってくる。


『最悪や! 時間ないで!!』


「どうした!? 何があったんだ?」


 魔法陣が激しく乱れ

 向こう側では爆発音が鳴り響き、悲鳴まで聞こえてくる。


『レギールが――魔王軍に襲われとる!!』


 空気が凍り付いた。


「……っ!?」


「そんな……!」


 仲間達も息を呑む。


『ウチも今、現地おる!!』

 ヘカテは叫ぶ。


 後ろでは、誰かの悲鳴に建物が崩れる轟音。


『防衛線はほぼ崩壊や!!兵士じゃ、全然止められてへん!!

 このままやと街ごと潰される!!』

 

 ケイトの拳が震える。


「リヒト先生……!どうしたら……!」


 しかしその時にはリヒトは、

 もう木剣ではなく、自らの剣を静かに手に取っていた。

  

 鞘から僅かに覗く刃が光を反射する。


「決まっているでしょう。困っている人がいるなら助ける、それが勇者の役目ですから。」

 その横顔には迷いがなく、リヒトは四人へ視線を向けた。


「ですが、あなた達は――」


 ――危険ですから、待っていて下さい。


 そう言いかける。


 だが、その言葉は途中で止まった。


「俺も……行きます!」

 ケイトが一歩前へ出て拳を強く握る。


「わわ…私も!」

 モナカも続く。


「当然ね。騎士として見捨てるなんてできないわ。」

 プラティナが頷く。


「ええ。助けられる命があるなら戦いますわ。」

 アスティも静かに口を開く。


『……さすが、未来の勇者やな。』

 四人の声が重なり、その返事にヘカテが小さく笑う。


「全く……君達は、そういう子達だったね。」

 リヒトは小さく息をつきながらも、少しだけ微笑む。


「なら、先生として、一つだけ約束してください。

 絶対に生きて帰ること。それだけは、守ってください。」


「……はい!」


 四人の返事が重なり、リヒトは安心したように微笑む。

「それでこそ、僕の教え子です。」


『よし、ほな――』


 魔法陣が大きく広がり紫色の光が地面一面へ魔法陣を描いていく。


『無理やりやけど、転移繋ぐで。』


「無理って……!大丈夫なのか!?」

 ケイトが慌てる。


『大丈夫なわけないやろ。』

 ヘカテは即答した。


「えぇ!?」


『今のウチ、まともに魔法使われへんねんで?』


 その言葉に全員が固まる。


『せやけどな……。』


 ヘカテの声色が変わる。


『守るもんある時に、出し惜しみしてる暇はないんや!』


 魔法陣の光が、一気に輝きを増した。


『歯ぁ食いしばりや、落ちたら洒落ならんで。』


 ニヤリと笑う気配。


「ちょっ……待っ――」


 光が全員を包み込んだ。


 ――転移。



 ――レギール共和国・王都


 眩しい光が消え視界が戻る。


「……っ!」

 ケイトは息を呑んだ。


 目の前に広がっていたのは、地獄だった。


 黒煙が空を覆い、建物は崩れ、炎が街を飲み込み

 人々が泣き叫びながら逃げ惑っている。


「いやぁぁぁぁ!!」

「助けて!!」

「誰かぁぁ!!」


 焦げ臭い匂いに血の匂い。

 全てが混ざり合っていた。


「……成功して……なにより……や。」


 少し離れた場所でヘカテが膝をつき、肩で息をしていた。


「ヘカテっ…大丈夫か!?」

 ケイトが駆け寄る。


「大丈夫や……。まぁ……ギリギリやけどな。」


 苦笑し、立ち上がろうとするヘカテの足が少し震えていて

 無理な転移だったことは、一目で分かる。


「これ……。」

 ケイトが街を見回す。


「全部、あいつがやったのか?」

 拳を握る。


 「あぁ……あいつや。」

 ヘカテの表情から笑みは消えていた。


 ヘカテが指差す、瓦礫の向こうにと巨大な影が立っている。


「戦い方も性格もクソ、最悪の相手やで。」


 その時だった。


「あァ?」


 ヴァレフォールがこちらに気付き、ゆっくり振り向く。


「なんだァ……。雑魚が増えたのか?」

 鼻を鳴らし、赤い目でケイト達を睨む。

 そして、その目がリヒトの前でピタリと止まる。


「……ほぉ?…どうやら"マシ"なのが来たな。」


 獣の本能が強者を見つけて笑う。


 リヒトは静かに一歩前へ出て、ゆっくりと剣を抜く。


「……君がこの街を、や(・)っ(・)た(・)の(・)か(・)?」


「それがどうした?」

 ヴァレフォールは肩をすくめる。


「弱ぇから死ぬ。当たり前だろ?」


 ヘカテが小さく呟く。

「……気ぃつけや。あいつ……。魔王軍軍隊長レベルや。」


 リヒトは静かに頷いた。


「そのようだね。……でも、大丈夫。」


 優しく笑う。


「僕は負けませんから。」


 その一言には、不思議と全員を安心させる力があった。


 ヘカテが目を閉じ、小さく息を吐く。


「……頼むで、リヒト。」


 ケイト達も自然と後ろへ下がる。


「リヒト先生!!」


 ケイトが叫ぶ、だがリヒトは振り返らずに穏やかに答えた。


「僕は大丈夫です。キミ達は、逃げ遅れた人達を助けてあげて下さい。」


「でも……!」


「これは先生の仕事です。」


 その一言で、ケイトは口を閉じた。


「はは…別れは済んだかァ?」

 ヴァレフォールが笑う。


 炎が揺れ、熱風が二人の間を吹き抜ける。


 勇者と魔王軍軍隊長が静かに向き合う。


 この王都を揺るがす戦いの火蓋が――、切られようとしていた。


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