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クソザコナメクジから始まる最弱勇者~スライムすら倒せない俺が世界を救うって本当ですか?~  作者: 小鳥遊 千夜
第三章 本物の勇者編 

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第52話 《魔王軍十番隊》ヴァレフォール

 

 その頃――レギール共和国、王都外郭。

 城壁の上では、慌ただしく兵士達が駆け回っていた。


「急げ急げ!!」

「南側に魔力反応!」

「数は!?」

「……少数です!」

「あっ……あれは……魔王軍だ!!」


 兵士達にざわめきが広がる。

 砂煙の向こうに、黒い影が揺れていた。


「総員、持ち場を守れ!!」


 隊長が剣を抜き、怒鳴る。


「魔王軍とはいえ、敵は少数!落ち着いて迎撃すれば勝てる!」


 その声で、兵士達が無理やり恐怖を押し込める。


「弓兵、構え!」

「魔導部隊、詠唱開始!!」


 弓が引き絞られる共に、

 魔法陣が次々に展開され、淡い光が城壁を照らした。


 煙の向こうで、黒い影がゆっくり近づいてくる。


「……来るぞ」


 誰かが呟いた、次の瞬間。


 ――ドンッ!!


 轟音と共に城壁の一部が、内側から吹き飛んだ。


「なっ――!?」


 石材が砕け散り、兵士達が宙を舞う。


 悲鳴と土煙が飛び交う中――崩れた壁の中心から、“それ”が現れる。


「……おせぇなァ」


 獣の唸りのように掠れた声。

 その声の主がゆっくりと、影が姿を見せる。


 灰色の毛並みに全身を覆う、鋼線のように硬そうな筋肉。

 人間より頭一つ大きい巨躯、裂けた口元から覗く獣の牙。


 そしてなにより――赤黒く濁った瞳。

 

 “殺し”そのものを楽しむ目した人物こそ魔王軍十番隊軍隊長。

 ワーウルフの”ヴァレフォール”。


 その姿は、戦士というより“飢えた獣”だ。


「これが国の防衛かよ?」


 ボキ、ボキッと首を鳴らす。


「期待外れだなァ、オイ」


「ひ、怯むな!!撃てぇぇぇぇ!!」

 隊長が叫ぶ。


 矢が放たれ、無数の魔法弾が空を裂き、一斉にヴァレフォールへ直撃した。


 激しい爆煙に包まれる――


「やったか!?」


 兵士の一人が叫ぶ。


 だが――


「はは…ヌルい攻撃だなァ」


「……っ!?」


 兵士達の顔が凍りつく。


 かろうじて矢は刺さっているが浅く、

 身体には魔法の焦げ跡すら、まともに残っていない。


 ヴァレフォールは刺さった矢を一本抜き取り、つまらなそうに捨てた。


「お前らさァ…本気で俺サマを止められると思ってんの?」


 次の瞬間、ヴァレフォールの身体が消えた。



「え――」


 その直後、最前列の兵士が、胴ごと吹き飛ぶ。


「がはっ!?」


 鎧がへこみ、血を撒き散らしながら壁へ激突する。


「ケッ…遅ぇよ。」

 そう言ってヴァレフォールは笑う。


 ――まるで遊んでいるように。


「な…なんてヤツだ――」


 ――バキッ!!


 今度は蹴りで兵士の身体が、不自然な方向へ折れる。


「おらよォ!!」


 倒れた兵士を軽々と片手で掴み引き裂く。


「ぎゃあああああ!!」


 壊れた人形のように投げ捨てられた兵士から、血飛沫が舞う。


「ひ、ひるむな!!」

「囲め!! 囲めぇ!!」


 残った兵士達が震えながらも包囲。


 槍を向け、剣を構える。


 だが――ヴァレフォールは、楽しそうに笑った。


「ははっ…いいねぇ。」


 舌で牙についた血を舐め取る。


「もっとビビれよ」


 その直後。ヴァレフォールの姿が――消えた。


「どこ――」


 兵士達が振り向く間もなく、一人、二人…と倒れていく。


「ぎゃああああああ」


「たっ…助け…」


 誰も見えなかった。

 

「馬鹿な…一瞬であれだけの兵士を…」


 残ったのは隊長ただ一人。


 だが――


「はぁ…拍子抜けだなァ…」


 背後から声に隊長の背筋が凍りつく。

 いつの間にか、耳元にヴァレフォールがいたからだ。


「戦う気あんの?」


 牙が、首元へ近づく。


「や、やめ――」


 ――ガリッ。


 鈍い音と共に悲鳴は途中で途切れ力なく崩れ落ちる。


 ヴァレフォールは退屈そうに血を払った。


「……つまんねぇなァ」


 ため息混じりに呟く。


「もうちょいマシなのいねぇのか?」


 その時――

 階段を駆け上がってきたヴァレフォール部下が叫ぶ。


「ヴァレフォール様!内部の侵入経路を見つけました。」


 ヴァレフォールの耳が、ぴくりと動く。

「へぇ、面白そうじゃねぇか」


 地面を蹴り、ヴァレフォールは、城壁の向こうへ飛び去っていた。


 その先――王都でも悲鳴が響いていた。


「いやあああああ!!」

「助けて!!」


 民衆が逃げ惑う。


 荷車が倒れ、建物が崩れていく。


 その中を――


「はははははっ!!」


 ヴァレフォールが駆ける。


「逃げろ逃げろォ!!」


 建物の壁を蹴り砕き瓦礫が降り注ぐ。


 ――ドガァン!!


「捕まったら終わりだぞォ!?」


 民衆が怯え逃げ惑う姿を見るたびに、ヴァレフォールは笑う。


「……最高だなァ!!弱ぇ奴らを潰すのってよォ」


 この“災厄”には―

 兵士も、魔導士も、誰も止める事は出来ず――


 そして、この地獄をケイト達はまだ知らない。



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