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クソザコナメクジから始まる最弱勇者~スライムすら倒せない俺が世界を救うって本当ですか?~  作者: 小鳥遊 千夜
第三章 本物の勇者編 

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第49話 見えない先、掴んだ一瞬

 

 日も落ちた夜――焚き火の前。

 ぱちぱち、と薪が弾ける音だけが静かに響く。


 ケイトは無言で肘を膝に乗せて座り、炎をじっと見つめている。

 その目は、どこか遠い。


「難航しておりますわね」


 ふわり、と。

 隣にアスティが浮かび降りる。


「……ああ」

 ケイトは視線を動かさずに答える。


「正直――読める気がしない」


「……」

 アスティは何も言わず、続きを待つ。


「動く前にいるって、なんだよ……」


 小石を拾う。

 指先で転がし――焚き火に投げると

 ぱちっ、と小さく弾ける。


「移動は分かってきた。

 “届く場所に立つ”ってのも、なんとなく掴めてきた」


「でもこれは――」


 首を横に振る。


「……別物だ」

 その言葉に、アスティは少しだけ目を細めた。


「当然ですわ。“未来”など、そう簡単に見えるものではありません」


「……だよな」

 ケイトは自嘲気味に苦笑する。


「どんなに頑張っても、才能もない俺にはこれが限界なのかな」

 少しだけ視線を落とす。


 その言葉にほんの少しだけ――空気が止まった。


 アスティの表情が、わずかに曇る。


「……ケイト様」


 声の温度が、少しだけ変わる。


「“見えない”のではなく、“まだ見ていない”だけですわ」


「……?」


 ケイトが顔を上げる。


 アスティが優しく言葉を続ける。


 「最後まで諦めずに”前を見続ける者”だけが…」


 ケイトをまっすぐ見て言う。


「先を読むことを許されますの」

 

 静かながらも芯のある言葉だった。


「一日で出来るなら――誰も苦労しませんわ」

 くすり、と微笑む。


 焚き火が、ゆらりと揺れ

 ケイトは、その炎をしばらく見つめていた。


 やがて――


「……そうだな」


 小さく、頷く。

 その声は、さっきより少しだけ軽かった。


 ――深夜。誰もいない訓練場。

 虫の音すら遠く、静寂だけが広がる。


 その中央で――


 ケイトは一人、立っていた。


「……もう一回だ。」


 木剣を握り直し、ゆっくりと構える。


(相手の次を――読む)


 踏み込む。


 ――スカッ。


「違う……!」


 空を切る音だけが響く。

 想像の中のリヒト先生は、もうそこにはいない。


「今のは……遅い」


 自分で呟く。


(じゃあ、こっちか――)


 角度を変え踏み込み直し木剣を振る。


 だが――空振り。


「くそ……!」


 何度も、何度も、振る。

 

 振り続ける。


 それでも――当たらない。


「……っ」


 呼吸が荒くなり額から汗が落ち、地面に染みる。


(見えない、何も……見えない)


 剣を下ろし、その場に立ち尽くす。


 その時――


 ふと、アスティの言葉が浮かぶ。


「……前を見る、か」


 ぽつりと呟き、再び構える。

 だが――今度は振らない。


 ただ、静かに立ち想像する。


(リヒト先生なら……どう動く)


(今、踏み込むなら――)


「右足……」


 小さく呟く。


(なら――次は、流れる)


 一歩ずれ、半歩だけ。

 ほんのわずかに踏み出す。


 ――カンッ。


 小さく、だが確かな音。

 ケイトの目が見開かれる。


「……今の……」


 剣先が、ほんの少しだけ“合った”。


 完全ではなく偶然に近い。


 それでも。確かに――


「……っ」


 握る手に力がこもり、胸が強く打つ。


(今……先にいた)


 ほんの一瞬だけ、だが確かに。


 “未来”に触れた気がした。


 そんな様子を物陰でアスティが、ずぅと見ていた。


(……それで良いのです)


 小さく微笑む。


()()()()()()はこうして磨かれていく。)


 夜風が、ふわりとアスティの髪を揺らす。


 ケイトは再び構え、もう一度。

 夜はまだ終わらず、まだ技の完成までは遠い。


 それでも――

 確かに、ケイトは、一歩だけ。

 

 “未来”に触れていた。


(あなたは、間違っていない。“光”は、強さではなく――意思に宿るものですわ)


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