第48話 光導予測――ルミナス・プレディクト!――未来に立つ者
「今日は次の基礎。“読み合い”をやっていこう」
朝の訓練場。
乾いた風が土を撫でる中、リヒトは木剣を肩に担いだまま言った。
「昨日の一歩は良かった。
正直、あそこまで詰めてくるとは思わなかったよ」
ちらりとケイトを見る。
「……ありがとうございます」
ケイトは素直に頭を下げる。だがすぐに表情が引き締まる。
「でもね――」
リヒトは木剣をすっと下ろし、軽く構えた。
その瞬間、空気がわずかに張り詰める。
「当たらなきゃ意味がない、そうだろう?」
「……はい」
短く返事をする。
「だからこれだ」
リヒトが静かに告げる。
《光導予測――《ルミナス・プレディクト》
「相手の“次”を読む技だ」
ケイトが眉をひそめた。
「……読むって、癖とかですか?
例えば肩が動いたとか、目線が流れたとか……」
リヒトは、少しだけ笑う。
「それだけじゃ、まだ足りないね。読むのは…」
一歩、踏み込む。
「――未来だよ」
「……え?」
思わず間の抜けた声が出る。
「未来って……」
「フフッ…こいうことさ」
リヒトはそれ以上説明せず、静かに構えた。
無駄のない姿勢。だが隙も一切ない。
「さあ、好きなように打ってごらん?」
軽い口調。
だが逃げ場はない。
「……いきます!!」
ケイトは地面を蹴り
踏み込み、間合いを詰める。
(今だ――)
大きく振りかぶる。
その瞬間――
――カンッ。
乾いた音。
「……え?」
目を見開く。
まだ、振っていない。
だが――
自分の剣は、すでに止められていた。
「分かったかな?」
静かな一言。
「君が“踏み込む前”に――」
すっと体を寄せる。
いつの間にか、完全に懐の内側。
「そこに来るって、分かってたからね」
ケイトの背筋に、ぞくりとしたものが走る。
「……そんなの、どうやって」
「“相手の先回りする”」
リヒトが淡々と言う。
「それがこの技の力さ」
「……っ」
言葉が出ない。
「凄い。もう一回、お願いします!」
「……いいよ!何回でも打ち込んできなよ。」
食い気味に返し、再び構える。
(今度は……フェイントを混ぜて――)
角度を変え軌道をズラし踏み込む。
――カンッ。
「なっ……!」
また、同じ。
「くそ……もう一回!」
何度も、何度も。
――カンッ。
――スカッ。
――弾かれる。
「……はぁ……っ」
膝に手をつく。
呼吸が荒く視界が揺れる。
「くそ……本当に……」
「全部、見えてるのかよ……」
リヒトは、肩をすくめた。
「見えてるっていうより――」
少しだけ考えてから、
「決まってるんだよ、君の動きが」
「……決まってる?」
「うん」
木剣を軽く回す。
「踏み込みの癖、呼吸のタイミング、視線」
「全部が“次”を教えてくれる」
「だから――」
一歩、距離を詰める。
「こうやって、先に置くだけ」
「……」
言葉が出ない。
「まぁ、すぐに身に付くものじゃないからね」
リヒトはあっさりと言った。
「簡単にはいかないさ」
「……っ」
悔しさが、胸に溜まる。
「でも」
声が、少しだけ柔らぐ。
「見て、考えて、負け続ければ――」
ケイトをまっすぐ見る。
「いずれ君にも届く」
その言葉が、静かに落ちる。
「……」
リヒトは、いつもの軽い笑みを浮かべた。
「だから、頑張ろうね」
その一言で。今日の訓練は終わった。




