第46話 光踏一閃――ルミナス・ステップ!――“届く場所に立て”
「まずはこれだよ。」
リヒトが木剣を軽く構える。
無駄のない動き。
力みも、気負いもない。
ただそこに“立っている”だけなのに、
一切の隙が見えない。
「“届く距離”を体に叩き込む」
「……どういうことですか?」
ケイトが眉をひそめる。
「言葉で説明するより早い」
リヒトは軽く笑うと、ほんのわずかに重心を落とす。
「――よく見てて」
踏み込む、その瞬間。
「……消えた?」
次の瞬間。
――カンッ。
乾いた音。
ケイトの剣は弾かれ、
喉元に木剣が突きつけられていた。
「……え」
一歩も、二歩も動いたようには見えない。
ただ――
“最初からそこにいた”みたいに。
リヒトが、静かに言う。
「速さじゃない、
“最短”で、そこに立ってるだけ」
その言葉が、重く落ちる。
「これは只の移動技じゃない。そのまま攻撃にも繋がる、それが――」
《光踏一閃――ルミナス・ステップ》
静まり返る訓練場。
「すっ……凄い」
ケイトが息を呑む。
「……動きが見えませんでしたわ」
アスティが低く呟く。
「それはちょっと違うで」
後ろでヘカテが笑う。
「見えてないんやなくて――
無駄が無さすぎて“認識できへん”だけや」
「じゃあ――」
リヒトが、一歩だけ前に出る。
「練習してみようか?」
「はっ……はい!!」
ケイトが踏み込む、木剣を振る。
――ガンッ!!
だが強く弾かれ、手が痺れる。
「……くっ!」
「今のは“近すぎる”ね」
リヒトは淡々と言う。
「それじゃ振る前に負けるよ」
その一言が、刺さる。
「遠いと当たらない、近すぎると、潰される」
地面を指で軽く叩く。
「その“ちょうどいい場所”に――立つんだ」
「はっ…はい!!」
ケイトは、ゆっくりと構え直す。
呼吸を整え、足の裏で、地面を感じる。
「……今度こそ!」
思いっきり、踏み込む。
――スカッ。
木剣が空を切る。
「今度は遠いね」
トン、と軽く額を叩かれる。
「……くそ」
歯を食いしばり、もう一度踏み込む。
――ガンッ!
「残念、近すぎだよ」
再び、弾かれ手が震える。
何度も、何度も繰り返す。
「なんでだよ……」
汗が顎から落ちる。
呼吸は荒く腕が重い。
リヒトは、静かに言った。
「焦ってるね」
「……!」
「“当てよう”としてる、だからズレるんだ」
その言葉に、思考が止まる。
リヒトが一歩、近づく。
「焦る必要はない。」
穏やかな声。
「“当てる”んじゃなくて“届く場所”に立つんだ。」
その言葉が、静かに沈む。
(届く場所……当てにいくわけじゃない)
ケイトは、目を閉じ集中する。
相手との距離、重心、呼吸、風の流れを読む。
(ここじゃない、もう一歩――いや、半歩)
そしてほんのわずかに、踏み出す。
――カンッ。
乾いた音、無理のない衝突。
「……!」
初めて、“自然に届いた”。
「それだよ」
リヒトが、わずかに笑う。
「今の一歩、無駄がなかった」
心臓が強く打つ。
「……さぁ、もう一回だ」
声が変わる。
迷いが消えていた。
そこからは、反復だった。
ケイトは何度も倒れそうになりながら、
それでも踏み出し続ける。
「……っ!」
ガンッ。
また弾かれる。
だが、さっきより崩れなくなってきた。
「いいね、動きが変わってきた。」
リヒトが軽く頷く。
やがて。
「……見えた!」
ケイトが呟き、踏み込む。
今度は迷いなく。
――カンッ!!
今までで一番、鋭い音。
「うん。今のは、なかなかいいね」
リヒトが素直に評価する。
その一言が、何より重い。
「いいかい。速さはいらない」
リヒトが言う。
「正確さでも、強者に届く」
ケイトは、静かに頷いた。
気づけば、空は赤く染まっていた。
長く伸びた影が、訓練場に重なる。
「……今日はここまでにしようか」
リヒトが木剣を肩に乗せる。
「これ以上やっても、精度が落ちるだけだからね」
ケイトは、その場に膝をつく。
「はぁ……はぁ……」
全身が重い。
だが――
確かな手応えがあった。
モナカが駆け寄る。
「ケイトさん!大丈夫ですか!?」
「……ああ」
息を整えながら答える。
プラティナが腕を組む。
「いい動きだったわ。最初とは別人ね」
リヒトが最後に一言だけ落とす。
「それと、忘れないでね。今日やったのは“技”だけじゃない」
少しだけ笑う。
「“基礎”だから」
「……!」
ケイトは顔を上げる。
「ここから先、全部これに繋がるよ」
夕焼けの中。
その言葉が、静かに残った。
「はい、ありがとうございました!」




