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クソザコナメクジから始まる最弱勇者~スライムすら倒せない俺が世界を救うって本当ですか?~  作者: 小鳥遊 千夜
第三章 本物の勇者編 

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第43話 勇者との邂逅

 

 レギール共和国を出て、三日。

 街道を外れ、緩やかな丘陵地帯へと入る。


 風は穏やかで、空は高い。

 だが人の気配は少なく、どこか静かすぎる場所だった。


「ほんとにこんなとこにいるんですか?」


 モナカが不安そうに周囲を見回す。


「おるで。」


 先頭を歩くヘカテが軽く手を振る。


「むしろ、あの人はこういうとこの方が好きなんや」


「……勇者なのに?」


 アスティが静かに問う。


「……勇者やからや」


 ヘカテのその一言に、全員が少し黙った。



 更にしばらく歩いた後、視界が開けた。


 そこには――


 小さな木造の建物と、簡素な訓練場。


 木剣が何本も立てかけられ、地面には踏み固められた跡が無数に残っている。


「ここなの……?」


 プラティナが眉をひそめる。


 その時。


 ――カンッ!


 鋭い音が響いた。


 皆が視線を向けると、訓練場の中央。


 一人の青年が、剣を弾かれて尻餅をついていた。


「うわっ……!」


「うーん、今のは惜しかったね」


 その声は穏やかで、どこか楽しげだ。


 穏やかに笑みを浮かべた長身の男――


 青い髪が風に揺れる。


 片目には黒い眼帯。右腕は、金属製の義手。


 だが、その立ち姿に一切の隙はない。


「もう一回、いくかい?」


 男が軽く木剣を構えると、空気が張り詰めた。


(……なんだ?)


 直感で分かる。


 この人は――


 今まで会ってきた誰とも違う。



 アスティが小さく呟く。


「ただ者ではありませんわね」



「おーい、リヒトー!」


 ヘカテが手を振る。


 その男――

 リヒト・フォルティスが振り返った。


「あれ、ヘカテじゃないか」


 柔らかく笑う。


「久しぶりだね」


 その笑顔は、どこにでもいそうな優しい大人だった。


 だが――


「……」


 俺は、言葉を失っていた。


(この人が……本物の勇者……)


「ちょっと待っててね」


 リヒトはそう言って、青年に手を差し出す。


「今の、悪くなかったよ」


「ほんとですか……?」


「うん。ただ――」


 軽く地面を叩く。


「踏み込みが浅い。怖がってるね」


「……!」


「大丈夫。剣は、ちゃんと前に出る人間の味方だから」


 その言葉に、青年は強く頷いた。


「はい!」


 去っていく背中を見送ってから、リヒトはこちらに歩いてくる。


「で?」


 にこやかに首を傾げる。


「そっちの子達は?」


「新しい子や」


 ヘカテが軽く言う。


「なかなかおもろいで」


「へぇ」


 興味深そうに俺を見る。


 その視線は穏やかで――


 同時に、すべてを見透かすようでもあった。


「紹介するわ」


 ヘカテが一歩前に出る。



「こっちはケイト。勇者見習いや。」


「……どうも」


 少しだけ緊張しながら頭を下げる。


「それと」


「モナカ、修道女ですっ!」


「アスティ・アストライア・エスペラント・エヴァンジル

 ですわ」


「……プラティナ。騎士よ」



 リヒトは、目を細めた。


「へぇ……中々良いパーティだね」


 その言い方は、どこか懐かしむようだった。


「……っていうか」


 俺は思わずヘカテを見る。


「知り合いって言ってたけど……」


「うん?」


 ヘカテはニヤリと笑う。


「ただの知り合いやないで」


 そして、リヒトを親指で指した。


「昔のパーティーメンバーや」


「……え?」


「17の頃から一緒にやっとった」


 さらっと、とんでもないことを言う。


「魔王倒した時も、一緒や」


「……ええ?」


 思考が止まる。


 リヒトは少し照れたように笑った。


「いやぁ、あの頃は無茶ばっかりだったね」


「アンタが一番無茶やったやろ!」


「前線で突っ込んで、死にかけて、

 そのたびにウチが引っ張り戻してたんやぞ」


「そうだっけ?」


「そうや」


 即答。


「でも……」


 ヘカテの声が、真面目な口調に変わり、


「あの時のコイツは――」


 一瞬だけ、昔を見るような目になる。


「ほんまに“勇者”やった……」


「……ヘカテ。ありがとう。」


「さて、ケイトくんだったね。」


 リヒトが、まっすぐこちらを見る。


 その視線は、優しい。


「君、悩んでるね?」


「……!」


 言葉が詰まる。


 見抜かれていた。


「はい。……俺は」


 絞り出す。


「まだ、勇者なんて呼ばれるような人間じゃないです」


「一人じゃ何もできなかった。そんな俺が勇者なんて…」


「……それでいいんだよ」


 リヒトはあっさり言った。


「……え?」


「勇者っていうのはね」


 少しだけ笑う。


「一人で全部できる人間のことじゃない」


 全員を見る。


「“仲間を信じて、前に出られる人間”のことだ」



「僕もそうだったからね。」


 義手を軽く叩く。


「何度も助けられて、何度も失敗して」


「それでも、前に出続けた」


「だから――」


 穏やかに言う。


「今の君達は、ちゃんと“勇者の道”にいるよ」


「……!」


 胸の奥が、熱くなる。


 その言葉は、静かに胸に落ちた。



「あの……教えてくれませんか?」


 気づけば、そう言っていた。


「俺達に、何が足りないのか」


「どうすれば……ちゃんと戦えるのか」


 リヒトは、少しだけ考える。


 そして――


 にやりと笑った。


「いいよ。」


 木剣を数本、まとめて投げた。


「それじゃ、見てあげよう。キミ達の力を」


「……!」


「……は?」


 モナカが固まる。


「一人ずつじゃ意味ない。パーティなんだからね、」


 その瞬間。


 優しさが消え、圧だけが残る。


「おいで、まとめて相手してあげるよ」


 穏やかな声のまま、ヘカテが後ろで笑う。

「相変わらずやな。」



「……皆、行くぞ!」


 ケイトが、木剣を構える。


 リヒトは、にやりと笑った。


「うん、いいね」


「それじゃあ、全力で来なよ」


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