第86話 嘘っぽい助言
口だけの二人の為に、千本亀探しが始まった。
といっても、わざわざ宝箱探しを後回しにするつもりはない。
遭遇したら、二人に三秒と四十秒で倒してもらうだけだ。
「今なら出来ないと言って謝れば、さっきの笑えない冗談は聞かなかった事にするぞ?」
「えっ? あれ、冗談だと思ってたの? 私の中だと三秒でも遅い方だったんだけど……ごめんね」
「もういい。出来なかったら、二人とも飯抜きだからな」
許してやるつもりだったが、もう絶対に許さない。
可哀想な人を見る目で、リエラが両手を合わせて謝ってきた。
謝るべき内容が違うし、謝り方も気に入らない。
「まあまあ、怒らない怒らない。せっかく魔力量が多いのに手数が多すぎるのよ。一撃の威力が低いと自覚してるんでしょ?」
「下に進むと、モンスターが強くなるから当たり前だろ?」
「強くなっているのは、あんたも一緒でしょ。でも、威力が変わってないのよ。キチンと全力出さないと」
「……全力なら出してるよ」
色々と的外れな指摘をしてくるけど、確かに全力は出していない。
秘密兵器のゴーレムLV4を使えば、大剣で針ごと甲羅を三秒で両断できたかもしれない。
「嘘ね。全力を出してるなら三秒で倒せるはずよ。体力で考えてみて。百キロ走れる体力があるとしても、百キロを一秒では走れないでしょ?」
「……まあ、そうだな」
「それと同じよ。魔力が百あっても、一度に百は出せないの! でも、体力と魔力は違うでしょ。さっきの亀も何十発も攻撃しなくても、一発に何十発分の魔力を込めれば倒せるのよ」
「そうかもしれないな。でも、俺には無理だ」
歩きながら、何故か変な授業が始まってしまった。
でも、当たり前の事を自信満々に言っているようにしか聞こえない。
俺に自分が馬鹿だと教えてくれているのなら、もう十分に分かった。
それに何か偉そうに教える前に、さっき俺が言った事を忘れないでほしい。
魔力を岩に圧縮して込めるのは、さっき限界だと言ったばかりだ。
いくら俺が天才でも、可能と不可能の境界線ぐらいはある。
カツン、カツン……
「んっ? 来たわね。メルちゃん、出番よ!」
「はい、任せてください!」
「おいおい、本気でやらせるつもりか?」
授業の途中だったが……まあ、俺の中では終わっていたが、千本亀が現れたようだ。
リエラが前方を指差して、やる気いっぱいのメルが弓矢を前方に構えた。
誰に習ったのか知らないが、矢は一度に五、六本もまとめて持って射たない。
「もちろん! メルちゃん、頑張って四十秒で倒すのよ!」
「はい、頑張ります!」
二人は最近会ったばかりのはずなのに、えらく仲が良すぎる。
無理矢理に止めても、あとで文句言われるだけだから、とりあえず好きにやらせてみよう。
メルが失敗したら、二人とも少しは大人しくなる。
カツン、カツン……
さっきと同じように水晶柱に針をぶつけて、千本亀がやって来た。
メルのアビリティと弓矢の性能から、約20~25メートルが射程範囲だと思う。
俺の岩弾の最長が約70メートルぐらいだから、三分の一ぐらいの距離は届くだろう。
「はぁ……とりあえず準備するか」
俺の予想通りにメルとリエラは千本亀に近づいていく。
矢が届く距離まで移動するようだ。俺も一緒に移動すると、二人の後ろで待機した。
リエラの武器は剣だ。あの長針には相性が悪い。当然、俺の魔法の出番になる。
泣いて助けを求めてきたら、即座に倒して、格の違いを見せつけてやるとしよう。
「行きますよぉー!」
ギリギリと弓矢の弦を引っ張って、メルが言ってきた。ここから戦闘開始みたいだ。
ヒューンと右手から離れた矢の束が、千本亀の身体の中央、地面から高い位置に真っ直ぐ飛んでいく。
「ほぉー、当たりそうだな」
真っ直ぐは射てるようだが、強靭な針に当たれば矢が弾かれて終わりだ。
そう思っていたんだが……
「ギュー‼︎」
「何だと?」
ドパァン‼︎ 針山の中に矢が消えた瞬間、数十本の針が爆発するように飛び散った。
千本亀が痛がるように仰け反った後に、身体を振り回して暴れている
「効いてるよ! どんどん射って、矢で二千本亀にしちゃいなさい!」
「分かりました! エイッ!」
そんなに矢はないだろう。
「それにしても、どういう事だ?」
信じられない茶番劇を見せられている気分だが、確かにメルの攻撃が効いている。
明らかに千本亀は痛がっている。
俺とメルの実力は俺の方が上だ。それは間違いない。
だとしたら、このおかしな茶番劇の原因は武器の性能差しかない。
メルの弓矢の武器ランクはBだ。一点特化の矢の攻撃なら、ダメージを与えられるのだろう。
「くっ、結局は武器か」
三十五階のキラーマンティスも、ゴーレムの大剣で攻撃したのに、切れずに押し潰しただけだった。
この剣が使えないから、ほとんど魔法攻撃だけで倒している。
やっぱり武器を強化するのが、強くなる一番の近道で間違いない。
「よぉーし、あとは私に任せて! パパッと倒すから!」
「はい!」
五十本近くあった矢を使い切ったから、交代するようだ。
剣を二本抜いたリエラが亀に向かって走っていった。
「それにしても……あの剣は何だ?」
ズパァン——
「セィッ、ヤァッ!」
「ギュー‼︎」
刀身が届いていないのに、リエラが剣を振るだけで、千本亀の針や甲羅が切断されていく。
固定された低威力の魔法属性が付与されている『魔剣』もあるが、あそこまでの高威力は出せない。
「とりあえず、一本借りてみるか」
理由は分からないが、四十秒は過ぎているし、二本あるから一本ぐらいは貸してくれるはずだ。
二本じゃないと駄目なら、俺の剣と交換するから文句はないだろう。
「四十秒過ぎているぞ。俺の剣と交換しろ」
「はい?」
倒した千本亀の甲羅を持って、俺の所にやって来た二人に剣を差し出した。
用件は手短な方が分かりやすくていいだろう。
二人は意味不明だと言わんばかりの顔をしているが、もう多数決は通用しない。
「メルは一分二十秒、リエラは四秒はかかっていた。俺に謝るか、俺の剣とその剣を交換するか選べ」
「「……ごめんなさい」」
「くっ‼︎」
どっちか一つを選ばせるべきじゃなかった。
二人は顔を見合わせた後に軽く頷き合うと、素直に謝ってきた。
剣が貰えないなら仕方ない。言うべき事だけは言ってやる。
「いいか。お前達が使っている武器を使えば、誰でも簡単に倒せるんだ。武器の性能を自分の性能だと勘違いするなよ。分かったな?」
二度と俺に大嘘と舐めた口が聞けないように、しっかりと叱りつけた。
二人は黙って聞いていたけど、反省する気持ちはないようだ。
すぐに謝罪ではなく、反抗的な言葉を口に出してきた。
「フフッ。誰でもは無理でしょ? 赤ちゃんは持てないし」
「そうですよ。攻撃力を上げるアビリティを頑張って習得したんです。武器だけの力じゃないです」
「地魔法はLV7でもう上がらないんだから、射撃か打撃か魔力を上げないと、攻撃力は上がらないわよ」
矢が切れているから、二人で矢継ぎ早に言いたい事を言ってくる。
屁理屈だし、射撃と打撃のアビリティは素材を集めて強化する予定だから、余計な助言でしかない。
でも、そんなに教えるのが好きなら、どっちがいいのかぐらいは教えてもらおうか。
「じゃあ、手っ取り早く攻撃力を上げるなら、射撃と打撃のどっちのアビリティを強化すればいいんだ?」
「そうね……まずは射撃の手袋をはめて、射撃のアビリティを習得したら、打撃の手袋をはめるのが一番ね」
「んっ? どういう意味だ?」
ためになる助言を頼んでみたら、意味の分からない助言を言ってきた。
「だから、射撃のアビリティを習得するでしょ。次に打撃のアビリティを習得するの。最後に斬撃も習得したら完璧ね」
「おい、一つ増えているぞ。結局、全部のアビリティを強化すればいいだけなんだろう?」
自信満々に言っているけど、何が完璧なのか分からない。
さっき言った事とほとんど内容が同じだ。
「はぁ……頭悪すぎ。射撃の手袋をはめて、射撃を使っていたら、『射撃』のアビリティを習得するでしょ? そしたら、射撃の手袋をする意味がなくなるから、打撃の手袋をはめるの」
「はい?」
「だから——」
ちょっとリエラの説明が下手すぎて、何を言っているのか分からなかったが、何とか理解できた。
ようするに、アビリティ装備はアビリティを習得する為の装備らしい。
剣術のアビリティの指輪をはめて、剣を振り回していたら、『剣術』のアビリティを習得できるそうだ。
「——製造系の職人も手袋をはめているのは、最初だけよ。アビリティを習得したら外すのが基本。いちいち違うアビリティの手袋に、はめかえるのは素人なんだから」
「……ようするに習得したアビリティ装備は外した方が良いのか」
「そういうこと。射撃のアビリティを習得したら、とりあえず撃ちまくれば、すぐにLVは上がるわよ」
「なるほど。そうだったのか……」
ヤバイな。聞けば聞くほどに嘘臭く感じる。
メルが「うんうん」と頷いているのが、余計に嘘っぽく見える。
絶対に俺に負けた腹いせだな。
仕方ない。可哀想な奴らの為に、騙されたフリをしてやろう。
お互い心の中で騙されていると、笑い合えばいい。




