第85話 地下三十七階千本亀
「うーん? 効率的だけど、それだと死ぬね」
「はぁ? 何を言ってるんだ。楽勝で倒しているだろう」
順調にメタルパンサーを壁ドンして、崖から突き落として倒していると、リエラが言ってきた。
俺の才能に嫉妬しているようだ。
壁ドンを学習したメタルパンサーが細道を走ってきても、道からの壁ドンで打ち上げる。
そして、流れるような壁からの壁ドンで突き落としている。
俺には油断も死角もまったく存在しない。
「結局、力押しなのよね。デカイハンマーで殴っているか、小さいハンマーで殴っているだけ」
「……それに何か問題でもあるのか? 倒せれば一緒だろ?」
だけど、リエラは説明を理解できる頭を持ってないようだ。
デカイハンマーだろうと小さいハンマーだろうと、高速で振り回せば脅威になる。
地魔法LV7になって、格段に魔法の攻撃速度は上昇している。
今なら五メートル範囲の地面や壁からなら、手足を動かすように、岩杭でも岩壁でも出せる。
「ふぅーん、まあいいわ。行けば分かるから」
「……」
何か含みのある言い方だが、俺の進化した実力を見せれば、無駄な忠告をしていたと分かるだろう。
今の俺の実力は、おそらくBランク冒険者に匹敵する。
♢
地下三十七階……
「わぁー、高そうな場所ですねぇー」
まあ、子供の感想だな。地下三十七階と三十八階は『水晶洞窟』だ。
メルは天井や床から伸びている、大小様々な水晶の柱を見て驚いている。
俺も町に水晶を持って帰れるなら、もっと驚く自信はあるが、それが無理なのは知っている。
「じゃあ、お手並み拝見ね。しっかりと護衛して」
「任せておけ。そっちもモンスターと宝箱を見逃すなよ」
「大丈夫ですよ。一個も見逃しませんから」
さて、探索開始だ。メルの宝箱探知で宝箱の数が四個あるのは分かった。
リエラのモンスター探知で、モンスターの位置も余裕で分かる。
俺の仕事は二人をモンスターから守りながら、全ての宝箱を手に入れる事だ。
地下三十七階に出現するモンスターは、『千本亀』というらしい。
簡単に言えば、巨大な亀の甲羅に、針ネズミのような無数の針が生えているだけだ。
「地魔法って、やっぱり地味だと思うのよ。水晶みたいに綺麗に出来ないの?」
水晶の森を進んでいると、何気ない感じにリエラが言ってきた。
それが出来たら、町で水晶の置き物や宝石の置き物でも作って売っている。
それに出来たとしても、水晶の塊で攻撃する事で攻撃力が上がるとは思えない。
「私は金属の方が良いと思います。岩のハンマーよりも鉄のハンマーです」
「確かに岩を圧縮したら出来そうね。ちょっとやってみてよ?」
俺が黙って聞いていると、魔法使いでもない二人が色々と言ってくる。
水魔法と氷魔法が違うように、岩と鉄は似ているようで違う。
「圧縮はもうしている。硬度は鉄以上だ。余計な口は開かずに、針亀の位置だけを教えてくれ」
「まったく……弱いからアドバイスしてあげているのに駄目ね。学ぶ姿勢がないと強くなれないわよ」
「そうですよ。グランドさんの攻撃方法はワンパターンなんです。もっと改良しないと」
「……分かった。二人の意見は後で、じっくりと参考にさせてもらうよ」
何がワンパターンだ。分かったような事言いやがって。
俺の魔法は改良に改良を重ねたから、これ以上無駄な部分が一切存在しない。
まさに俺と同じ完璧な存在だ。
二人の迷惑な助言は、頭の隅っこにあるゴミ箱に投げ捨ててやる。
「そろそろ見えるはずよ。一匹だけだから、ササッと倒してね」
「準備オッケーだ。いつでもどうぞ」
千本亀が近くにいるとリエラが教えてきた。言われなくても分かっている。
俺の耳にも水晶にカツン、カツンと硬い何かが当たる音が聞こえている。
しばらく指示通りに歩いていくと、水晶柱を避けるように動く大きな塊と遭遇した。
「デカイな……」
「私達は離れているから、気をつけてね」
現れた千本亀と姉貴の手帳の絵とソックリだった。まあ、直線を描ければ誰でもソックリだ。
無数に生えている黒茶色の針の長さは二メートルはある。横幅は六メートル近くはあるだろう。
身体の大きさは小さな家ぐらいで、頭も足も針に隠れて見えない。
「とりあえず、デカイのから撃ちますか」
リエラとメルは三十メートル程離れた水晶柱の裏に避難した。
弾丸の連続発射でもいいが、地面から縦横二メートル程の岩壁を出して、千本亀に向かって発射した。
予想される結果は、岩壁が針をへし折る、岩壁に針が突き刺さる、岩壁が壊されるの三つだ。
ドスッ——
「キュー⁉︎」
地面を高速で滑るように発射された岩壁は、針に激突して突き刺さって止まった。
でも、針というよりも触手に近いようだ。
岩壁を貫いた針が動いて、岩壁を引き千切ってバラバラに壊した。
「迂闊に近づくのは危険だな」
多分、針で身体を隠し過ぎて、千本亀は前が見えていない。
攻撃されたのに、のんびりと移動を再開しているぐらいだ。
炎魔法なら針を気にせずに丸焼きに出来そうだが、使えないから無理だ。
針が見えない腹の下から攻撃するしかないだろう。
久し振りに広範囲攻撃の出番になる。
針には岩杭で対抗したいが、今回は石柱のハンマーで破壊させてもらう。
少しだけ接近すると、両手足で魔力を千本亀の周囲の地面と、真下の地面に分けて集めていく。
今回は特別に二段階攻撃だ。
最初は周囲三百六十度から、次に真下からの極太石柱による攻撃で、針も腹も破壊する。
「潰れろ」
棺桶の準備は終わった。魔法を発動させた。
ドゴォン——
「キュー⁉︎」
最初の爆発で千本亀の周囲三百六十度から、縦横一メートル程の石柱が斜め上に向かって突き出した。
強靭な針は分厚い石柱を深く貫いていくが、今度は針を動かして破壊するのは無理だ。
隣同士の石柱が密着していれば、動かす余裕もなければ、無理矢理動かすにも力がいる。
そして、動かす時間も与えない。二撃目を発動させて、腹下全体を石柱で強打させた。
ドゴゴォン——
「ギュー‼︎」
「完璧だな」
巨大な千本亀が宙高くに打ち上げられた。
石柱に刺さっていた針が、バキバキと音を鳴らしてへし折れていく。
短く折れた針の先に、黒茶色の亀の甲羅模様が見えたが、顔はどこにも見えない。
驚いて甲羅の中に引っ込めたのだろう。
だが、どうでもいい事だ。一発では倒せないようだから、二発目の準備が必要になる。
針が折られ、防御力が低下した状態で、二発目は耐えきれないだろう。
地面に千本亀が落下したので、容赦なく二発目の準備を始めて、発動させた。
ドゴォン‼︎ 一撃目で残った針がへし折れ、石柱が甲羅全体に激突した。
甲羅が石柱に押し潰されて変形しているが、まだ耐えきれるようだ。
トドメの一撃を腹下に食らわせてやろう。
「おーい! 倒したぞ!」
石柱に打ち上げられ、地面に落下した千本亀が消えていく。勝つのは最初から分かっていた。
戦闘が終わったので、水晶柱の裏に隠れている二人を呼んだ。
死ぬとか、弱いとか、ワンパターンとか、色々言っていたが、これが俺の実力だ。
「ノロマな亀相手に一分十一秒? 雑魚ね。私なら三秒で倒せるのに」
「私も四十秒あれば倒せそうです」
「……」
やって来た二人は時計を見せながら、もっと早く倒せたと堂々と大嘘を言っている。
アドバイスも含めて、コイツらは俺に適当な事を言うのが好きみたいだ。
そんなに自信があるなら、もう倒してもらうしかない。
「出来るものなら、やってみろよ」
「フフッ。そこまで言うなら仕方ないですね。ちょっとお手本を見せてあげますか?」
「仕方ないですね。一回だけですよ」
「……」
二人がどうしようかと顔を見合わせた後に、メルが右手の人差し指を一本立てて言ってきた。
どうやら、どっちが俺を本気で怒らせる事が出来るかで遊んでいるようだ。
三秒は絶対に無理だと思うけど、お手並み拝見させてもらおう。




