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第84話 名ばかりの王

「すみませーん。遅くなりました」

「ごめんごめん。猫と遊んでいたら、時間かかっちゃった」


 遅い遅いと何度も思いながら、地面に座って待っていると、メルとリエラが戻ってきた。

 猫というのは三十六階の『メタルパンサー』の事だろう。

 黒い金属の身体をした素早い中型の猫で、強靭な足で崖を垂直に移動できるそうだ。


「はぁ……遅いぞ。何時間待たせるつもりだ?」

「五時間でしょ?」


 時計を見せて聞いたら、リエラが素早く答えた。

 正解だが、そういう事を聞きたいわけじゃない。

 俺が納得できる遅くなった理由を聞きたいんだ。


「もういい。例の物をさっさと寄越せ」

「……」


 だが、これ以上は時間の無駄だ。

 緊張感のない二人に神金剛石を早く渡すように言った。

 せっかく不眠不休で飛ばしてきたのに、遊んでいると、すぐに追いつかれてしまう。

 俺達と同じように箱に入って、交代で移動すれば、七時間ぐらいのリードしかない。


「……メルちゃん。これ、階段の中に置いてきて」

「はい、分かりました……」

「おい、何をやっているんだ? 遊んでいる場合じゃないだろう」


 俺に渡せと言っているのに、リエラはメルに渡して、メルは三十六階の階段に神金剛石を持っていく。

 そんな所に置いたら、俺は階段に入れないから取れない。


「さあ、家に帰りましょう」

「はい、この手袋で椅子を作ります」

「待て待て待て待てぇーい‼︎」


 二人が自然に三十四階に行こうとしたから、前に回り込んで両手を広げて止めた。

 ここから先は一歩も通さない。


「えっ、誰ですか?」


 呼び止められて、とぼけた顔でリエラが言ってきたが、さっきまで普通に会話していた。

 コイツらが、俺に対して何がやりたいのか分かっている。


「金が欲しいのか? それとも、この手袋が欲しいのか?」

「貰えるなら、両方欲しいです」

「分かった。四十万ギルでいいな?」


 人の弱みに漬け込むなんて、最低の奴らだ。

 だけど、メルの希望通りに白い革手袋と金貨四十枚を渡した。

 これで文句はないはずだ。


「どうします、お姉ちゃん?」


 一万ギル金貨を一枚ずつ丁寧に数え終えたメルが、リエラに聞いている。

 金を使う予定はないが、まだ、俺の金を巻き上げたいようだ。


「しょうがないなぁー、口の利き方が悪いけど、一回だけ許してやりますか?」

「そうですね。許してあげしょう」


 お前ら、何様だ! やり方が汚い奴らに口の利き方で注意されたくない。

 二人は俺から金と物を脅し取って、やっと満足したのか、階段に神金剛石を取りにいった。


「はい、どうぞ」

「……」


 文句を言いたいけど、言ったら駄目なのは分かる。

 何も言わずにメルから五個の神金剛石を受け取った。


「一個余るな……ちょっと待っててくださいね」


 口の利き方が悪いらしいから、一応丁寧に言ってみた。

 人に見られると困るので、岩の小屋をパパッと作って、その中で進化しよう。


 二人から少し離れて岩小屋に篭城すると、交渉で手に入れた神金剛石を吸収した。

 今回は六分ぐらいで進化は終わるはずだ。

 俺は何もやる事がない状態で、二人を一時間半も待っていた。

 六分、十分程度なら、遅いとは言わないだろう。


 ドクン……


「来たな。ぐぅっ!」


 今回は過剰な叫び声は必要ないので、静かに激痛に耐える事にする。

 あまり叫び過ぎると、親切な冒険者が岩小屋を壊して救出にやってきそうだ。


「ぐぅぅッッ! ぐぉぉッッ!」


 歯を食いしばって、握り締めた拳で地面をドンと強く叩いた。

 今までよりも身体に流れるパワーと痛みが段違いだ。

 もしかすると、俺はとんでもない力を手に入れたのかもしれない。


 十二分後……


「くっ、長すぎだ!」


 痛みが治まったけど、今度の進化は長すぎた。

 途中で女二人が岩小屋を叩いて、「入ってますかぁー?」と苦情を何度も言ってきた。

 パパッと進化を確認して、階段で休憩している二人に合流しよう。

 待たせ過ぎると家に帰りそうだ。


【名前:ゾンビキング 年齢:20歳 性別:ゾンビ 身長:181センチ 体重:66キロ】

【進化素材:暗黒物質七個、神銅七個】

【行動可能階層:5~40階】


「キングか……遂に俺に相応しい位になったな」


 キングになった事で、身体の腐っている部分がかなり減った。

 予想していた名前がやって来たが、正直、国も民も無い王様に価値はない。

 領地はジジイとババアの家に一部屋だけ、民は言う事を聞かない小さな子供一人だけだ。

 俺はこんな名ばかりの王様で終わりたくない。


 とりあえず、キングより偉いのが居るのか気になるが、アビリティを調べよう。

 新しく習得しているアビリティはないが、強化はされているようだ。


『筋力上昇LV6』『物理耐性LV6』『調べるLV6』『剣術LV6』『盾術LV5』『体術LV5』『自然治癒力LV4』『眷属使役LV2』『運LV2』『聖耐性LV2』——


 アビリティだけを見ると、かなり強くなっている。一度に十個も強化されている。

 眷属使役は二匹まで使えるようになっているから、そろそろ護衛に一匹は欲しい。

 でも、その前に左腰に装備している剣を調べたい。

 調べるLV6なら、強化素材が分かるかもしれない。


【ゴーレムブレイカー:長剣ランクC】

【強化素材:暗黒物質三個、神金剛石十個、クリスタルゴーレムの水晶板八枚、キマイラの皮五枚】


「流石に多すぎるな。宝箱を見つけられないと終わりだぞ」


 強化素材が分かって、ホッとひと安心できたが、赤い宝箱の素材が多い。

 それのクリスタルゴーレムは三十八階、キマイラは三十九階、暗黒物質は四十階だ。

 四十階までは、この剣と付き合わないといけない。


 とりあえず、『素早さの靴』『視覚・聴覚・嗅覚の耳飾り』『防御力・火耐性・氷耐性の指輪』『斬撃・打撃の手袋』を強化しながら、四十階を目指すとしよう。


 ♢


 地下三十六階……


 階段で休憩しようと言っている二人の意見は無視して、先に進んだ。

 メタルパンサーに、進化した俺の力が通用するか試させてもらう。


「金属猫の素材なら持っているから、倒さなくていいんじゃない?」


 壁を走り回っているメタルパンサーを見ながら、リエラが聞いてきた。

 二人の前ではゴーレムLV3は使えないので、剣と地魔法だけで倒せるか挑戦したい。


「いいや、ここから先はモンスターの硬度が桁違いに高くなる。俺の攻撃が通用するか調べる」

「へぇー、来たのは初めてなのに硬度とか分かるんだ?」

「もちろんだ。メルは任せたぞ!」


 そんなの分かるわけがない。

 姉貴の手帳に『速い・硬い・乗りたい』という文字が書いてあっただけだ。

 リエラにメルを任せると、メタルパンサーに向かって、壁を飛び降りていく。


 ガッ、ガッ、ガッ——

 

「やはり機動力が違うな」


 剣を抜いて、細い道で待ち構えている俺に向かって、メタルパンサーが壁を走ってやってくる。

 猿が木の上を飛び回るように、重力を無視して、壁を楽々と走れるようだ。

 だが、木の上も壁も足場が悪いというのを忘れている。俺が思い出させてやろう。


「さてと、これはどうかな?」


 幅一メートル程の細い道だが、俺には関係ない。

 周囲を岩で囲まれたこの場所は、俺が一番得意な戦場だ。

 両足を使って、メタルパンサーの進路上の壁に魔力を流した。


 ドゴォン——


「ヒュガァッ……‼︎」


 突然、壁から突き出た複数の岩壁に、メタルパンサーは大空洞の真ん中に弾き飛ばされた。

 地上まで三百五十メートルちょっとある。

 猫は高い所から落ちても平気らしいから、もしかしたら大丈夫かもしれない。

 空中でジタバタしながら、落ちていく金属猫を黙って見送った。


「…………うん、駄目みたいだな」


 ドン! ちょっと確認に時間がかかったが、身体が地面に激突した瞬間にバラバラになった。

 回収するのは面倒だが、突き落とすのが一番効果的なようだ。

 ドンドン突き落としてやろう。

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