第87話 間話:ホールド
地下二十九階……
「あの女、どこに行きやがった?」
灼熱の溶岩が流れる洞窟にも、飛んでいく筒と一緒に消えた三人組はいなかった。
あの女の腕力は四十階でも通用するぐらいはあったが、頭の方はここまで通用しなかったようだ。
一緒にいた子供が少し気になるが、これ以上は心配するだけ疲れるだけだな。
「ホールド! どこで休憩するか決めるそうだ! どこがいいんだ?」
「三十階でいい! 流石に休みていぇー!」
「分かった! そう伝えておく!」
考え事をやめた途端、後ろの方からギュンターの神経質な大声が聞こえてきた。
あの金髪の小僧にでも聞かれたんだろう。寝る場所まで一緒じゃないと嫌なようだ。
ああいうタイプの人間は、必要ないところまで細かく決めたがる。
「チッ、やっぱり面倒だな」
「ハハッ! そう言わずに気楽に行こうぜ。そんな顔していると契約破棄されるぜ」
「別に契約なんてどうでもいい。いつも通りに安全第一でいいんだよ」
俺が嫌そうな顔をしていると、前を歩くブラハムが笑いながら言ってきた。
今回の探索には、補給と支援だけの契約で同行している。
報酬は手に入れた素材の購入権と、Aランク冒険者になれた後の一年間だけの素材の独占購入権だ。
四十階から先のモンスター素材は、ギルドが販売しないから手に入れるのに苦労する。
だが、俺達の最高到達階層は四十五階の『異薔薇の森』だ。
ハッキリ言って、金を払わされるだけの契約に魅力は感じない。
多数決で念の為に、契約しておこうという話になっただけだ。俺はまだ反対だ。
「素材よりも腕輪の方が欲しいんだがな」
まあ、文句を言ってもどうせ手に入らない。
それに金髪のガキは多分、五十階に何があるか知らない。
知っていれば、素材の一年間の独占購入権とか馬鹿な話は出てこないだろう。
♢
地下三十六階……
「ああ、包帯男と女二人だろ。男が鉄猫を突き落として、この辺の宝箱を根こそぎ取って行ったぞ」
三十五階にゴーレムが現れたと聞いて、近場の冒険者に聞き込みをした。
そしたら、消えた三人組が再び現れた。
「ほぉ……アイツら、凄えな。こんな所まで来やがるなんて」
「何が凄いんだ? ゴーレムの中からその包帯男が出てきたのなら、三十階で冒険者を襲っていた犯人は決まりだ。子供は分からねぇが、女も仲間だろうよ」
感心したようにパウルが言ったが、どう見ても犯罪者二人組だ。
子供もアイツらの子供なのか、その辺の子供を誘拐したのかも分からない。
おそらく俺達の仕事場に来たのも、金目の物があるかの下見に来たんだろう。
「お前達も見つけたら気をつけろよ。子供を人質に使うかもしれねぇからな」
「へぇーい」
他のパーティの連中にも聞こえるように警告した。
今回は厄介な奴が思ったよりも、多く同行しているみたいだ。
さっさと追いつかないと、宝箱が全部荒らされた後かもしれねぇな。
「んっ?」
崖を素材箱と一緒に飛び降りて、三十七階の階段で休憩していると、ヴァン達が謝りに来た。
「すまない。うちのアレンが倒し損ねたようだ」
「えっ‼︎ 俺じゃないですよ! 副隊長とガイですよ!」
赤髪が無理矢理に、銀髪の小僧の頭を掴んで謝らさせている。
何をやりたいのか知らないが、俺に謝られても何の意味もない。
「嘘をやめましょう。あなたじゃないんだから、そんなヘマしませんよ」
「そんなぁー! 副隊長が死んだって言ったじゃ——」
「ゴチャゴチャうるせい‼︎ パーティのミスは全員のミスだ! 目障りだ消えろ!」
金髪は顔色一つ変えずに否定して、銀髪は動揺した感じにそれを否定している。
こっちは休憩しているのに、目の前でくだらない喧嘩を見せられたら、怒鳴りたくもなる。
パーティの隊長と副隊長が揃って、一番下っ端の所為にするなんて、見ていて気分が悪い。
「すみません、助かりました」
「何だ? まだ用でもあるのか?」
仲間三人が謝った後にすぐに離れていったのに、銀髪の小僧だけがヘラヘラ笑って残っている。
こういう芯が弱そうな奴ほど、いざという時に逃げ出すからタチが悪い。
「その……前から武器作りに興味があったんですよ! あの氷剣とか凄いですよね!」
「興味があるなら、薬品から始めてみるんだな。一階のスライムゼリーと三階の薬草に魔石を使えばいい」
「えっ、そんなに簡単に出来るんですか?」
「薬品製造LV1で作れる。上手く出来たら買取ってやるから店に持って来い」
無理だと分かっているが、武器を作るには複数の製造アビリティのLVを鍛えないといけない。
この銀髪が欲しい氷魔法が付与された剣は、武器・薬品・道具のLVが5は必要だ。
最低でも作るのに四年はかかる。まず途中で逃げ出すだろう。
「それもいいんですけど……まずはAランクにならないと、諦めたみたいでカッコ悪いじゃないですか?」
「別に今すぐ来いなんて言ってねえ。ある程度作って、ついでにLV2になってから来い」
「確かにそうですね。じゃあ、また来ます」
「ああ、頑張れ……」
まあ二度と来ないな。
それに冒険者よりも職人の方を町民は必要としているのに、若いヤツは冒険者にしかなりたがらない。
Bランク冒険者が十人死ぬよりも、職人が一人死ぬ方が町にとっては大損害だ。
この鍛えた製造の腕を戦闘で失くすのだけは勘弁してほしいもんだ。
「フフッ」
でも、あの包帯男の筒はなかなか良く出来ていたな。腕が勿体ねぇから牢屋の中で作らせてみるか。
四十年ぐらいはぶち込まれるだろうから、一流の職人になりそうだ。




