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第81話 観光船

 十五階で合流した俺達は戦闘もせずに、快適に最後尾を歩き続けている。

 だけど、途中でメルから話を聞いたが、実際の最後尾はヴァン達だった。

 俺達とオルファウス達は無断で、最後尾の後ろを歩いているだけだ。

 

「追い抜くべきか、付いて行くべきか……そこが問題だな」


 二十二階を通過しても、大規模パーティは休憩もせずに進み続けている。

 でも、そろそろ休憩して睡眠を取ってもいいはずだ。

 その時が追い抜く絶好のチャンスになる。


「このままじゃ駄目なんですか?」


 どうするべきかと考えていると、メルが聞いてきた。

 

「ああ、駄目だ。俺は三十五階から先に進めない。先に進むには神金剛石が七個必要なんだ」

「何ですか、それ? 意味が分からないです」

「俺にも意味は分からない。だが、このままだと、神金剛石を探している間に置いて行かれてしまう」

「面倒ですね。どうするんですか、お姉ちゃん?」


 まるで足手纏いのような酷い言い方だが、実際に神金剛石が見つからなければそうなる。

 三十五階で七個手に入らない時は、二人に三十六階から三十九階まで探してもらう必要がある。

 それでも見つからない時は、三十五階に最長一週間の足止め決定だ。


「そうねぇ……アレを借りましょう!」

「……もしかして、荷車を借りるつもりか?」


 口が悪くなっているメルに聞かれて、リエラは少し考えてから前方を指差した。

 指先を目で追っていくと、オヤジ達が引いている四角い荷車が目に入った。


「もちろん! 私とメルちゃんが荷台の中に寝るから、あなたが引いていくの。疲れたら交代よ」

「なるほど。確かに効率は良いかもしれないな」


 四角い金属製の荷車は、オヤジ達が一人一台、全部で十二台も引いている。

「運んでおきます」と荷物持ち風に言えば、一台ぐらいは貸してくれるかもしれない。

 襲ってくるモンスターも、一人で倒せる実力があるなら問題ない。

 意外と良い作戦だ。


 でも、最大の問題がある。俺達が完全な部外者だという事だ。

 普通は知らない人間に、自分の大事な物を貸したりしない。


「大丈夫大丈夫! 数日前に話したばかりだから。ちょっと借りてくるから待ってて!」


 だけど、俺の心配は一切気にせずに、リエラは自信満々に走り出した。

 二十三階の荒野を並んで進んでいる、冒険者達を次々に追い抜いていく。

 そして、ヴァン達をあっという間に追い抜くと、オヤジ達と話し始めた。


「それ一台貸して」

「貸すか、馬鹿野郎!」

「野朗じゃありません。女です」

「そんな事はどうでもいいんだよ! いつまで付いて来るつもりだ!」


 話し声というか怒鳴り声が聞こえてくる。

 交渉が難航しているようだ。


「本当に大丈夫なのか?」

「分からないです。数日前に話したのは本当ですけど、腕相撲して、一人殴り飛ばしていました」

「じゃあ、絶対に無理だな」


 メルに聞いたら、数日前の出来事を素直に教えてくれた。交渉するだけ時間の無駄だ。

 それによく考えたら、俺が岩で荷車っぽいのを作れば借りる必要がない。


 しかも、わざわざ手足で引かなくても、岩製の荷車なら、魔力の連続発射で楽に飛ばす事が出来る。

 殴り合いが始まる前に、メルに頼んで連れ戻して来てもらおう。


「やれやれ小さい男ね。『壊すつもりだろう』って貸してくれなかった」

「それが普通の男だ。形状は船のようにしてみた。これなら俺も乗れるからな」

「へぇー、なかなか頑丈そうね」


 メルに連れ戻されたリエラが文句を言っているが、世の中の男のほとんどがその小さい男だ。

 とりあえず、理不尽な言いがかりは無視して、完成した岩船を見せた。

 名前は地上を走る小船という事で、単純に『グランドボート』と呼ぶ事にする。


 細長い船の船首は矢のように、少し長めに尖らせている。

 地面を走るというよりも、地面スレスレを矢のように飛んでいく感じだ。

 そして、この船は俺にしか操縦できない。

 でも、俺なら不眠不休で飛ばせるから、交代する必要はない。


「さっさと後ろに乗りな。俺が三十五階まで連れていってやるよ」


 親指を立てて、早く船に乗るように指差した。

 少し離されてしまった大規模パーティを、パパッと追い抜いてやる。


「わぁーい!」

「大丈夫なんですか? 途中で壊れたりしませんか?」


 リエラが喜んで船の最後尾に乗り込んだのに、メルは船を不安そうに見て聞いてきた。

 これだと、どっちが大人か子供か分からない。


「壊れる前に修復するから絶対に壊れない。近づいてくるモンスターは貫いていくだけだ。余計な心配はせずに、さっさと乗るんだな」

「そうそう、早く乗らないと置いていくよ!」

「そこまで言うなら……」


 全然信用されてない感じだが、メルはしぶしぶ船に乗り込んだ。

 俺が先頭で、次にメル、最後尾にリエラの順番で、船に足を伸ばした状態で着席した。

 あとは身体を岩で包み込んで、固定すれば安全対策もバッチリだ。


「きゃあ! 船が食べてきます!」


 それは安全対策だから我慢してもらう。

 この船は急停止、急加速が頻繁に起こるから、身体を固定しないと船の外に放り出される。

 乗客の腹まで岩で包み込んで、念の為に船に屋根を作った。


「三十五階まで一気に行くから寝てていいぞ」


 俺と乗客に外の景色が見えるように、覗き穴を何ヶ所か開けた。

 両手は自由にしたから、飲み食いは勝手にしてもらう。

 全ての準備が終わったので、最高速度で船を発射した。

 

 ♢


 順調にグランドボートは地上スレスレを飛んでいく。

 広い荒野は楽々通過した。階段の中は天井ギリギリを飛べば、冒険者とは激突しない。

 墓地は墓標と柵を気にせずに、破壊して進めば問題なかった。


「なかなか興奮するな」


 そして、現在。二十七階の古代林には苦戦中だ。

 複雑な道なので、高い操縦技術が必要になる。

 大木に激突したら、船が突き刺さった状態で停止する。

 トレントに激突したら、船が弾き飛ばされてしまう。


「ここからはジグザグコースだ。舌を噛むなよ!」

「うぐっ、がふっ……もっと上を飛んで、真っ直ぐ飛んだ方が良いと思います」

「それは駄目だ。溶岩洞窟のようにもっと複雑なコースもある。ここでしっかりと練習する」


 木と木の間を直角に縫うように飛んでいく。

 すぐ後ろの乗客から苦情が飛んでくるけど、溶岩の川に落ちたら、ドロドロに溶けてしまう。

 狭い道も針の穴に糸を通すような、精密な操縦で通れるようにならないといけない。


 ドガァン——


「にぁぐぅっ‼︎」

「チッ、バックしないとな」


 ちょっと操縦を失敗してしまった。激突した船の船首が大木に突き刺さっている。

 後ろに向かって船を発射すると、壊れた船首を修復しながら、また進んでいく。

 複雑な道は操縦が難しいようだ。面倒だが、多少スピードを落とさないといけない。

 

「お姉ちゃん! 殺される前に歩こうよ!」

「ダメダメ。歩くよりはこっちの方が安全よ。ほら、もっと飛ばさないとモンスターの餌になるわよ!」

「うぅぅ、痛いし、気持ち悪いよぉ……」


 乗客二人の意見は違うみたいだが、確かにこんなノロノロ操縦だと、緑小竜から蹴り落とされる。

 まあ、ここが最難関コースだから、ここを抜けたら後は楽勝だ。


 溶岩洞窟を抜けた先は『雪原』と『毒沼』の広い場所で、モンスターに飛行系はいない。

 三十五階の『大空洞』は、地面に空いた大穴を壁伝いに下りていくだけだ。

 穴に向かって飛び下りて、地面に激突する前に船を逆発射すれば、超時間短縮になる。


 地下二十九階……


「わぁー! 赤い川が光っています!」

「綺麗な川だが、泳ぐのは生きるのに疲れた時にするんだぞ」


 古代林を抜けて、溶岩洞窟に到着した。

 俺はとっくに来た事があるから、初上陸のメルに観光案内する。


 ここは岩盤浴で人気がある場所だ。

 地面に寝転んでいるだけで、腰痛や肩こりの治療、疲労回復や美肌効果がある。

 疲れが取れた元気な美しいオヤジ達を見たいなら、ここに来るしかない。


「そろそろ雪原だ。皆んなで雪合戦でもするか?」


 階段が見えてきたから、後ろの二人に聞いた。

 この先の雪原は雪が積もっているから、巨大な雪だるまが作れる。

 かなり引き離したから、一時間ぐらいは皆んなで遊べる余裕がある。

 

「いいです。寒いのは昔を思い出すから嫌いです」

「私もいいかな。寒い中で鍋とお酒を飲むのは最高なんだけど、モンスターいるから酔えないでしょ」

「……分かった。このまま三十五階まで行くからな」

「「はぁーい」」


 この船の乗客は船に乗っているのに、ノリが悪い。

 五十階まで生きて辿り着けるか分からないのに、楽しい思い出を作るつもりがない。

 岩でメル人形とリエラ人形でも作って、溶岩の中に投げ入れてやろうか。

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― 新着の感想 ―
[一言] すごく面白かったです‼ しっかりとブックマークもさせて頂きました。 今後も期待してますので、お互いに頑張りましょう‼
2022/01/13 17:46 退会済み
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