第80話 近況報告
四日後……
「あの女、何者だ?」
約束の時間、約束の待ち合わせ場所に行くと、ゾロゾロと大量の冒険者が階段を下りてくる。
しかも、雑魚冒険者じゃなくて、Bランクパーティに所属している冒険者達だ。
行列の先頭は魔法使いだけで構成された、魔法双剣士クォークが隊長の四人組だ。
次が魔導具の製造が趣味のオヤジ集団で、十二人全員がいるみたいだ。
車輪の付いた四角いデカい空箱を引いている。
モンスター素材を大量に詰め込んで、町に帰るつもりだろう。
「ヤバッ‼︎」
ヴァン達の姿が見えた瞬間に目を逸らした。顔に包帯を巻いているけど、何となくヤバそうだ。
山脈洞窟の山肌にくっ付いて、山道を譲る冒険者の人混みに紛れ込んだ。
「副隊長、本当にいいんですか? まだ、付いて来てますよ。俺が一発ブン殴って帰らせましょうか?」
「別に構わないでしょう。どこまで付いて来れるか、皆んなで賭けでもしましょうか?」
「おっ! 良いですね! じゃあ、俺は十七階で」
アビリティ装備で強化された聴覚のお陰で、アレンとロビンの会話が聞こえてくる。
アレンは後ろの方を指差して、嫌そうな顔をしている。
ロビンは後ろを振り向きもせずに、賭けを始めようとしている。
「五十階です」
「五十階だな」
「五十階だ」
「いやいや、ちょっと違いますって! 一番後ろにいる女と子供の事ですよ!」
アレン以外の三人全員の答えが一致した。やっぱり嫌われているようだ。
だけど、答えに不満があるアレンはカーブするように、列の最後尾を指差している。
どうやら、アレンが言っている人間とヴァン達が言っている人間は違うようだ。
「オルファウスか……姉貴のパーティから追い出された問題児もいるのかよ」
俺も最後尾の女二人はどうでもいい。アレン達の後ろには三人組の冒険者がいる。
その中の一人、青黒い服を着た、長い黒髪をポニーテイルにしている男は信用できない。
ダンジョンの中で決闘という方法で、無理矢理に冒険者達から素材や装備を奪い取っている。
実力がある冒険者が、弱い者イジメするとか信じられない。
「とりあえず合流するか」
目の前を二十人以上の冒険者が通り過ぎていった。
そろそろ見物人はやめていいだろう。最後尾のリエラとメルに近づいた。
「凄いじゃないか。この人数を集めるなんて、どんな魔法を使ったんだ?」
「あれ? まだ三日しか経ってないのに、ズッとここで待ってたの?」
「何を言っているんだ? 少し早いが別れて四日後だ」
俺が近づいて話しかけると、リエラが不思議そうな顔をしている。
でも、何を言っているのか全然分からない。
「えっ? 町には三日しかいなかったから、まだ三日後でしょ」
「はぁ?」
別れてから四日後じゃなくて、町に着いてから四日後なら、待ち合わせは六日後ぐらいになる。
非常識な女の常識に合わせていたら、俺が非常識になりそうだ。
久し振りに会ったメルに挨拶でもしよう。
一ヶ月間で少し髪が伸びている。
服装は茶色を基盤にした、赤、白、黒が混ざった長袖長ズボンを着ている。
背中には明らかに高そうな短い弓矢を背負っている。
「俺はグランドだ。よろしく頼む」
「えっ? はい、よろしくお願いします。あっ、メルです」
「分かっている」
「はい?」
ポールという偽りの名前はもう捨てた。新しい名前はグランドマスターから、グランドにした。
戸惑っているメルと握手すると、ついでに『調べる』で成長を確かめた。
肝心の宝箱探知はLV4になっていた。これなら大丈夫そうだ。
「はい、靴。それよりもポールじゃなかったの?」
「あの頃の俺はもういない。生まれ変わったんだ」
「名前を変えただけじゃ、生まれ変われないでしょ」
メルとの簡単な自己紹介を終わらせると、リエラが靴を渡してきた。
今履いている岩の靴とはお別れになる。岩の靴を壊して、茶色い革靴を履いた。
「グランドさん、隊長と同じ剣です。それに魔法まで同じです」
「でしょ。面白いでしょ!」
「でも、身長が違います。声は似ているけど」
「一体誰の話をしているんだ?」
自己紹介を終わらせると、再び行列の最後尾を歩き始めた。
メルとリエラが知っている人物の話をしているが、俺は隊長なんて人は知らない。
俺は三人の仲間を失った、呪われた男グランドだ。
「私の知っている人がダンジョンで、一ヶ月前に行方不明になったんです。探しているのに全然見つからなくて」
「ああ、あれか。何でも凄腕の冒険者が二十階で行方不明になったらしいな。心配しなくても大丈夫だろう。あれ程の腕だ。簡単に死ぬはずがない」
俺が言うんだから間違いない。それにメルはまだ俺を探しているようだ。
周囲を見回しても気づかないだけで、意外と近くにいるかもしれないぞ。
「あれ? もしかして、グランドさんは隊長の事を知っているんですか?」
「ああ、前にパーティに誘われたんだが、俺の腕では足元にも及ばないから、断らさせてもらったんだ。あれ程の才能と実力を持っている冒険者は俺は知らない」
「へぇー、隊長はそんなに凄い冒険者だったんですね。初めて聞きました」
メルが元俺について聞いてきたので、俺が知っている限りの行方不明の隊長の話をしてあげた。
まだまだ新しい伝説も色々とあるが、それはA級冒険者になった後に話してやろう。
「ふふふっ。何、その大嘘? ただのEランク冒険者でしょう?」
「脳ある鷹は爪を隠すんだよ! 彼は実力を隠していただけだ!」
だけど、知り合いでも何でもないリエラが馬鹿にするように笑って、俺の話を否定した。
信憑性もない噂話で俺の実力を評価して笑っているのなら、それはただの悪口だ。
「まあ、確かに実力は隠していたみたいね。本当の実力が分かると困るでしょうから」
「どういう意味だ? 彼の代わりに俺が相手をしてもいいんだぞ」
生意気な口を黙らせる為に、ちょっとだけ剣を鞘から抜いた。
強化素材が分かっているアビリティ装備は、四日の間に強化してきた。
今の俺の実力はCランク上位に匹敵する。
Bランク冒険者相手でも、怪我ぐらいはさせられる自信がある。
「あの……どうして、グランドさんが隊長の事で怒るんですか?」
「怒ってない。事実を言っただけだ。大嘘じゃない」
だけど、メルの言葉で少し冷静になると、剣を鞘に引っ込めた。
他人の悪口に過剰に反応して怒るのは、流石に変だ。
「大嘘よぉー。今のメルちゃんなら瞬殺できるんじゃない?」
「うーん? ちょっと分からないですけど、出来るかもしれないです」
「お前、ブチ殺——」
何とか全部は言わずに途中で我慢した。小さな子供に「お前、ブチ殺すぞ!」はマズイ。
それに俺がメル如きに倒されるわけがない。子供の冗談を本気にする大人はいない。
とりあえず俺が居なくなって、メルが調子に乗っている事は分かった。
馬鹿みたいなLVのアビリティ装備を身に付けていて、俺のよりも性能が上だ。
こんな高額装備をジジイは用意できない。少し考えれば、誰が用意したのか分かる。
装備品の事を聞いてみたら、予想通りに姉貴の名前がメルの口から出てきた。
「まったく、子供にこんな凄い弓矢を渡してどうするつもりだ。武器の力を自分の力だと勘違いするだけだぞ」
「そういえば、隊長も凄い剣を持っていました。でも、私はああはならないから大丈夫です」
「それはどういう意味だ?」
「そのままの意味です。失敗しないという事です」
ブチ殺……俺の正体に気づいているかのように、メルがいちいち喧嘩を売ってくる。
反応しない方がいいのに、俺の怒りの感情が燃え上がってしまう。
「まあまあ、メルちゃん。死んだ人を悪く言うものじゃないよ。二十階に行ったら、このお花をお供えしないとね」
「はい。隊長が好きだったパンも用意しました」
「——ッ‼︎」
ブチ殺……駄目だ。もう反応したら駄目だ。
探していると言いながら、何で花とパンを用意するのか意味が分からない。
もしかして、俺の正体を四日で調べ上げて、実は俺がカナンだと知っているんじゃないだろうか。
だとしたら、平常心で対応しないといけない。ポケットの財布から一万ギル硬貨を取り出した。
「じゃあ、俺はあの世で困らないように金を置いてやるか」
「わぁー、ありがとうございます。隊長の仮お葬式に人が全然来なかったから、隊長も喜びます」
「あっははは。仮のお葬式なら仕方ないよ」
「ああ、でも、近所の人達が義理で来てくれたので、おじ様とおば様は喜んでました」
「そうそう、義理と人情は大切にしないと駄目だぞ。お世話になった人には、キチンと感謝しないと駄目だ。その隊長さんにも、しっかりと感謝するんだよ」
「はい、そうします」
うんうん。我慢して付き合ったら、何となく良い話で終わってくれた。
あとで気づかれないように花は踏み潰して、パンは食べて、金は財布に回収してやる。
今は笑顔で我慢してやる。




