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第79話 間話:メル

「やっぱり年齢差があると、話が合わないみたいね」

「……」


 多分、勧誘が失敗した原因はそこじゃないと思う。

 お姉ちゃんはさっきの失敗をもう忘れて、次のパーティの所に向かっている。

 何でも昔隊長のパーティにいた人達で、年齢的にも近いそうだ。

 知り合いなら話ぐらいは聞いてくれると自信満々だ。


 でも、隊長が愚痴でそのパーティの事を「絶対に許さない!」と言っていた。

 知り合いは知り合いでも、仲が悪い方の知り合いだと思う。

 きっと隊長の名前が出た瞬間に、さっきみたいに追い出される。


「お姉ちゃん、隊長の名前は出さない方がいいかも。凄く仲が悪かったみたいだから」

「大丈夫大丈夫! 男と男は拳で語り合うものよ。喧嘩する程、仲が良い証拠なんだから!」

「さっきのおじさんは殴られたら、凄く怒っていたよ?」

「そこが年齢差なのよ。子供の喧嘩に大人が入ったら駄目でしょ? それと一緒よ」

「よく分かんないです」


 私とお姉ちゃんの間にも年齢差があるみたいだ。

 せっかく教えてあげたのに、お姉ちゃんは拳を素早く振り回して、殴り合いの練習をしている。

 どう考えても仲が悪い人とは、仲が悪いとしか思えない。


 だけど、今度は殴り飛ばしても良いかもしれない。

 ボコボコにすれば、隊長が大喜びしそうだ。


 ドン、ドン、ドン——

 

「すみませーん、すみませーん、すみませーん!」

「お、お姉ちゃん⁉︎」


 さっきので分かったけど、絶対に会う約束はしていない。

 二階建ての大きめの建物に到着すると、お姉ちゃんが扉を馬鹿みたいに叩き出した。

 言葉で謝るつもりがあるなら、今すぐに扉を叩くのをやめて、態度で示した方がいい。

 借金の取立てに来た悪い人じゃないのに、通りすがりの人達がジッと見てくる。


 ドン、ドン、ドン——


「はいはいはーい! 返事してるだろうが! やめろよ!」


 やっぱりうるさいから、建物の中から誰かが怒ってやって来る。

 扉が開いた瞬間に殴り合いが始まりそうだから、ちょっと離れていよう。


「はいはい、何ですか!」


 ガァチャン! 扉が勢いよく開くと、ブチ切れている銀髪のミイラ男が現れた。

 両手足だけをグルグル白い包帯で巻いている。他は包帯が足りなかったのだろうか。


「すみません、強いゴーレムを倒した冒険者様のお家ですか?」

「はい、そうですけど……それがどうかしましたか?」


 ミイラ男はお姉ちゃんの身体を上から下まで見ると、ちょっとだけ冷静になった。

 可愛い服は意外と効果があるみたいだ。私の方は上だけ見て、すぐに終わったけど。

 

「ありがとうございます! あなたは兄の命の恩人です!」

「えっ? 命の恩人?」


 そんな失礼なミイラ男の手を、お姉ちゃんは嬉しいそうに両手で握ると、感謝の言葉を言った、

 さっきまで借金取りだったのに、急に態度も口調も可愛い女の子になっている。


 でも、お姉ちゃんにお兄ちゃんはいない。

 宿屋に隊長と親娘という設定で泊まった時と同じだ。

 私は年の離れた妹役を演じればいいみたいだ。いつもと一緒だから楽な役で助かった。


「もしかして、その大怪我は? あなた様がゴーレムを倒した冒険者様ですか?」

「えっ? あぁー、確かにそんな奴を倒した気がするな。弱過ぎたから、よく覚えてないけど」

「凄い! 是非是非、英雄様のパーティに私達姉妹を入れてください! 荷物持ちでも何でもしますから!」

「いやいや、ちょっと待ってよ! 今、隊長と副隊長がいないから、そういう事は決められない。それに何でもって、本当に何でもしてくれるのか?」


 押しに弱そうなミイラ男を、お姉ちゃんはグイグイ積極的に身体で攻めている。

 褒めて煽てて強引にパーティメンバーになるみたいだけど、何でもはしたくない。

 私もちょっと待ってほしいと思っていると……


「アレン、さっきからうるさいぞ」


 家の中から白い半袖シャツと黒い長ズボンを着た、短い緑髪の大男がやって来た。

 筋肉が凄いから、小さな白シャツが悲鳴を上げている。

 もう少しサイズが上の服を選んだ方がいい。


「いや、俺じゃ——」

「お前達もさっさと帰れ。荷物持ちなら間に合っている」

「じゃあ、戦闘員でいいです。このミイラを倒したら雇ってください」

「えっー! 何で、そう——」

「やれるものやってみろ。出来るものならな」

「じゃあ、やってやります!」


 ミイラ男が何だか可哀想になってきた。

 話そうとしているのに、筋肉とお姉ちゃんが自分勝手に話を進めている。

 多分、筋肉が言っている荷物持ちは、このミイラ男だと思う。

 私でも分かるぐらいに下っ端臭がプンプンする。


「いい加減にしてくれよ! あんたもあんただ。何で命の恩人を倒そうとするんだよ。おかしいだろ?」

「それだけ本気だと言う事です。雇ってくれるまで、何日でも扉を叩き続けます」


 その下っ端ミイラ男が遂にブチ切れたけど、お姉ちゃんは全然止まらない。

 凄い嫌がらせを言った。本当にやりそうな気配しか伝わって来ない。


「絶対にやめろ! 何日叩いても答えは同じだ。いいか、俺達は大規模パーティを組んで、五十階に行く準備で忙しいんだよ! Bランク冒険者じゃないと参加できないんだよ。強くなってから出直して来い」

「それは良かったです。私達も五十階に行きたいので、是非お供させてください。出発は何日ですか?」

「二日後だ」

「ちょっと! 何、答えるん——」

「予定があるので三日後にしてください」


 お姉ちゃんの質問にミイラ男じゃなくて、筋肉が素早く答えた。

 だけど、私達の出発予定と少しズレていたから、お姉ちゃんが日付変更をお願いした。


「それは無理だ。俺達だけの予定じゃない。行きたいのならお前の予定を変えろ」

「こっちも無理です。女の準備は男よりも時間がかかるんです」

「あぁー、もう駄目だ‼︎ もう一言も喋るな! 叩きたいなら好きなだけ叩いてろ! 俺は知らねぇからな!」

「あっ、ちょっと!」


 バァタン‼︎ もう我慢の限界だったみたいだ。ミイラ男が扉を思いっきり閉めた。

 筋肉とお姉ちゃんの板挟み状態で、よく我慢した方だと私は思う。


「はぁ……若いと短気過ぎて駄目ね。全然話を聞いてくれない」

「よく聞いてくれた方だと思うよ」


 玄関から呆れた表情でお姉ちゃんが戻ってきた。扉を叩くつもりはないようだ。

 扉を普通に叩いて呼んでいたら、最低でも家の中でお茶を飲みながら、話せていたと思う。

 ハッキリ言って、お姉ちゃんに勧誘は向いてない。


「まあ、極秘情報を手に入れたから作戦成功ね。これで勧誘活動は終わりよ」

「まだ二つパーティが残っているのにいいんですか?」

「行くだけ無駄よ。私達の出発日を二日後に変更して、後ろを付いて行けばいいんだから」


 確かに勧誘が無駄なのは否定しない。でも、私達の待ち合わせは三日後だ。

 連絡が取れない相手と会えるのだろうか。

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