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第78話 間話:メル

「やっぱり姉弟は似るのかも」


 ダンジョンから家に帰ると、疲れた身体でベッドに寝転んだ。

 ジャンヌお姉ちゃんまで行方不明になってしまった。もう四日も家に帰って来ない。

 ピラミッドまで追いかけたのに、そこにはゾンビのジェイさんしかいなかった。


 でも、まったく無駄な行動じゃなかった。

 ゾンビを閉じ込めている岩の塊には、張り紙が付いていた。

 張り紙には第三者から見た感じの隊長の美談が書かれていた。


 内容はとても信じられないけど、隊長の字に少し似ていた。

 それを家に持って帰って、おじ様とおば様に見せてみた。

 隊長の字に似ていて、いかにも隊長が書きそうな内容だと言っていた。

 少なくとも、最後の瞬間はジェイさんと一緒に居たみたいだ。


「うーん? そこから先が分からないんだよね」


 でも、いくら考えても、そこから先がどうなったのか分からない。

 やっぱり手掛かりが張り紙だけだと、隊長が生きているのか死んでいるのか分からない。

 昨日、ジェイさんがダンジョンから運ばれたから、回復したら詳しい話が聞ける。

 でも、話が出来るまで回復するかは分からないらしい。

 

 ダン、ダン、ダン——


「んっ?」


 階段を誰かが駆け上がってくる。おじ様やおば様はこんな事はしない。

 一瞬隊長かと思ったけど、部屋の扉を勢いよく開けて入ってきたのは、お姉ちゃんだった。

 そして、そのままの勢いで、ベッドに寝ている私の上に乗っかってきた。


「うぐっ!」

「メルちゃん、大変! 大変! 面白い玩具を見つけたよぉー!」

「うぅぅ……お姉ちゃん、お帰りなさい。どこに行ってたんですか?」


 いつものようにペタペタ身体を触りながら、お姉ちゃんがご機嫌で話してくる。

 ちょっと重たいけど、お酒臭くはない。何が大変なのか知らないけど、私も大変だった。

 お姉ちゃんがいないから、一人で宝箱を探さないといけなかった。


「三十階までよ。そこで凄く面白い玩具を見つけたんだから!」

「そんな所まで行ったんですね」


 道理で探しても見つからないはずだ。二十階から先に行く勇気はなかった。

 一階から十八階の間をウロウロしているだけだった。


「最初はモンスターに乗っ取られているのかと思ったけど、あの病的な嘘と自己中心的さは間違いない! 絶対にそうよ!」

「んーっと、よく分からないですけど、ジェイさんが保護されたんです。早く治る方法知りませんか?」

「怪我なんて放っておけば治るから。そんな事よりも、四日後に五十階に向かって出発するよ。準備しておいて」

「えっ? 五十階って私も行くんですか?」

「当たり前でしょ。明日は二人で勧誘に行くから綺麗にしないとね」


 何を言っているのか分からないけど、自己中心的なのはお姉ちゃんも一緒だ。

 私の話を聞かずに好き勝手に楽しく喋り続けている。

 しかも、五十階に行くとか言っている。

 行動が意味不明で何がしたいのか全然分からない。


 ♢


「まずはここよ!」

「……本当に行くんですか?」

「もちろんよ」


 一階から三階が魔導具のお店になっている建物を指差して、やる気を漲らせたお姉ちゃんが言った。

 さっきギルドの換金所に行って、強い冒険者の情報を無理矢理に手に入れた。

 町には四つのBランクパーティがあって、ここは一番パーティの人数が多いらしい。

 四十代や五十代の熟練Bランク冒険者が十二人もいて、手に入れた素材で道具を作って、お店を経営しているそうだ。


「いらっしゃいませ」

「あっ、どうも……わぁー!」


 お店の中に入ると、白色と黄緑色の制服を着た若い女性店員さんに丁寧に挨拶された。

 お店は木張りの濃茶の床や壁で内装されていて、落ち着いた雰囲気が漂っている。

 魔導具で作られた綺麗なランプが、天井や壁から店内を明るく照らしている。


「これ、何だろう? 冷凍包丁?」

 

 商品は謎の長方形の金属の箱から、包丁や鍋などの調理器具、暖かそうな服が並んでいる。

 勧誘とかはいいから、普通に商品を見て買って帰った方が絶対にいい。


「ほら、メルちゃん。社長さんに会わせてくれるらしいから行くよ」

「は、はい……」


 おねしょしても絶対に濡れない敷布団を見ていると、店員さんと話していたお姉ちゃんがやって来た。

 勧誘ならお姉ちゃん一人でやって欲しいけど、可愛い服を着せられてしまった。

 これだとパーティ勧誘というよりも、お誕生日パーティーに来たみたいだ。


「俺が隊長のルドルフ=ジャン=ホールドだ。何の用だ?」


 店員さんに案内された作業部屋に入ると、五人の厳つい顔のおじさん達が邪魔だと言わんばかりに睨んできた。

 その中で金属の工具を持った、黒と灰色の短い髪のおじさんが、威圧感のある声で話してきた。


「私達、ダンジョンの五十階に行きたいんですけど、手伝って——」

「失せろ。ダンジョンは女、子供の遊び場じゃねえ。冒険がしたいなら、町で良い男見つけて、恋の大冒険でもやるんだな」

「す、すみません! お姉ちゃん、早く帰ろう!」


 お姉ちゃんが勧誘を始めようとしたけど、話している途中ですぐに断られてしまった。

 やっぱり、どう考えても場違いだから、つまみ出される前に早く帰った方がいい。


「だったら、良い男のおじ様達が、私達をダンジョンの大冒険に連れてってくれませんか? それとも、おじ様達には若い女二人の相手は荷が重過ぎますか?」

「クッハハハハ! 良い男だってよ、ホールド! 確かに間違いねえ。これは一本取られたな!」

「馬鹿な事言ってんじゃねえよ! さっさと帰れ。良い男は良い女としか付き合わねえ。二十年後に俺が死んでなかったら、もう一度話しに来い。その時は茶ぐらいは付き合ってやる」


 可愛い感じにお姉ちゃんがもう一度頼むと、二人ぐらいのおじさんにはウケたようだ。

 もしかして、引き受けてくれるかもと期待したけど、隊長のおじさんが駄目だった。

 まったく相手にしてくれない。


「まあまあ、そう言わずに腕相撲で私が勝ったら大冒険しましょうよ。力には自信があるんですよ」


 私は早く部屋から出たいのに、自己中お姉ちゃんには無駄みたいだ。

 武器は持っていないし、可愛い服を着て、服越しの見えない力コブを見せても意味がない。

 もう諦めた方がいい。


「はぁ……おい、誰か相手してやれ。腕は折るんじゃねえぞ。治療費を請求されるからな」


 でも、呆れながらも隊長さんは相手をしてくれるようだ。

 部屋にいるおじさん達の誰かに相手するように頼んでいる。


「えっ? 逃げるんですか? 一番強い人同士でやりましょうよ」

「ふんっ。口だけは上手く回るようだ。怪我した時は店員に雇ってやるから安心しな」

「あっ、大丈夫です。怪我しないので」


 だけど、お姉ちゃんは隊長さんとやりたいようだ。

 そして、お姉ちゃんの挑発に隊長さんが乗ってしまった。


「すぐに終わる。適当でいい」


 頑丈そうな作業台の上をおじさん達が手早く片付けていく。

 隊長さんは瞬殺を予告しているけど、A級冒険者のお姉ちゃんと、どっちが強いのか分からない。

 見た目だけなら、隊長さんの方が三十倍ぐらいは強そうに見える。


「一応冒険者みたいだな。ステータスは見せないか」

「乙女の秘密ですから。一回勝負で私が勝ったら手伝ってくださいよ」


 準備が終わると、二人は作業台の上に右腕を乗せて握り合った。

 体格差が大人と子供みたいだ。


「そんな約束はしてねえ。考えてやるだけだ。そこの嬢ちゃん、合図を頼む」

「は、はい! いいですか? よーい、ドン!」


 ドン‼︎ 


「——ッ‼︎」


 これだと『よーい、ドンドン!』だ。

 隊長さんにお願いされて、かけ声を出したけど、すぐに作業台から大きな鈍い音が鳴った。

 腕相撲対決はお姉ちゃんの圧勝だった。隊長さんの右手の甲が作業台に叩きつけられた。


「何だと⁉︎」

「おいおい、ジョン。ワザと負けて若い女と茶でもするつもりか?」

「手伝ってやるつもりなら、最初から素直に言えよ。焦らしている時間なんて俺達にはないんだからよ」

「くっ……冗談だと思うなら、お前達もやってみろ!」


 誰も負けると思わなかったようだ。

 驚いた顔で右手をブルブル震わせている隊長さんを、おじさん達が冷やかしている。

 それに対して隊長さんがブチ切れている。多分、本気でやって、本気で負けたんだ。


「分かった分かった。悪いが姉ちゃん、俺は手加減しないからな」

「よーい、ドン!」

「——ッ‼︎」


 ドン‼︎ 次のおじさんが笑いながら挑戦してきたけど、瞬殺だった。

「本気でやってやる」と言った三人目も、「なかなかやるな」と装備を付けた四人目も瞬殺だった。

 最後の「力だけじゃ、ダンジョンじゃ通用しないぜ」と殴りかかってきたおじさんも倒された。


 本当にBランク冒険者なのか怪しくなってきた。

 ただの魔導具を作る職人さんかもしれない。


「失せろ! 二度と来るな!」

「ちょっ、ちょっ、勝ったじゃない! 話が違うわよ!」

「うるせい! 仕事の邪魔だ!」


 多分、ここの勧誘は失敗したと思う。

 気絶したおじさんを除いた、四人のおじさん達に部屋からも、店からも追い出されてしまった。

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