第77話 眷属使役
「大丈夫そうだな。これで調べられる」
リエラが階段に消えてから、五分が経過した。
俺を油断されておいて、移動した瞬間に新しい手足をへし折るつもりはないようだ。
安全が確認できたので、進化した身体に触れて調べてみた。
【名前:ゾンビロード 年齢:20歳 性別:ゾンビ 身長:178センチ 体重:63キロ】
【進化素材:神金剛石七個、古代結晶七個】
【行動可能階層:10~35階】
「ロードか……キングやプリンスじゃなかったか」
予想した名前じゃなかったけど、身長や体重はどうでもいい。一番気になるのは性別だけだ。
せめて、ゾンビ雄とかゾンビ雌ぐらいには分けてほしい。
進化素材と行動可能階層は予想通りだったので、最後にアビリティの変化を調べてみた。
『地魔法LV7』『調べるLV5』『剣術LV5』『盾術LV4』『体術LV4』『自然治癒力LV3』の六つが強化されていて、『眷属使役LV1』『運LV1』『聖耐性LV1』の三つを新しく覚えていた。
この中なら調べるLV5が一番戦力アップに期待できそうだ。
これでアビリティ装備がいくつか強化できる。
眷属使役は俺が噛むか、俺の血を飲ませて、ゾンビにしないと使えないみたいだ。
噛んでいる最中に頭をカチ割られて死んだら、相当に恥ずかしい。
しかも、眷属にする条件や眷属にした後の条件まである。
まずは格下の相手しかゾンビに出来なくて、生物系のモンスターにしか効果がない。
それに操れるのは一匹だけで、その階層しか操れない。他の階層には連れていけない。
「四日もあるなら、アビリティの練習と装備を強化してくるか」
これから一人で三十五階に行くつもりはないが、十六階には行く。
十六階のフクロウ型モンスター、デスアウルを使役できるか実験だ。
使役が可能ならば、上空から宝箱を見つけさせて、その場所に案内できるか試させる。
ダンジョンの中には、人間以外の生物は入れないから、外から小鳥を連れてくる事は出来ない。
飛行できるモンスターは貴重な存在だ。
それにその階層のモンスターが、違う階層に絶対に移動できないわけじゃない。
それは俺が身を持って経験済みだ。デスアウルが竜水銀を吸収できるか試してみる。
もしも吸収できるなら、進化させて、別の階層に連れていく事が可能かもしれない。
「この大きさだと、デカ過ぎるのは無理だな」
十六階への階段口に到着した。
巨石に開いた長方形の穴の大きさは、縦四メートル、横三メートルぐらいはある。
今まで会った生物系モンスターなら、全部通れそうだが、三十階より下はデカイのが多い。
「使役するなら緑小竜が良いかもな。あの大きさなら、俺を乗せて飛べそうだ」
階段を下りながら、どのモンスターを使役するか選んでみた。
俺が地下三十五階まで行けるなら、二十八階の緑小竜は十分に格下と言える。
気になる点があるとしたら、眷属使役のLVが低い事だ。
LVが上がれば、使役できる数が増えそうだが、その方法が分からない。
使役できるのが一匹だけなら、使わなくなったら殺して、また使役しないといけない。
「まあ、まずはどこまでが格下なのか調べないとな」
階段を下りて、十六階に到着した。
分からないからこそ、実験して調べる意味がある。
「さてと、どうやって生け捕りにすればいいんだ?」
デスアウルを探して森の中を歩き回る。
殺したら魔石に戻るし、噛んでもすぐにはゾンビにならない。
捕獲して岩塊に拘束したら、数回噛んでから様子を見るしかない。
「意外と生け捕りは難しいかもな」
木の上の枝に止まって、こっちを見ているデスアウルを見つけた。
襲う相手を選べる知恵があるのか、もう少し近づかないと駄目なのか……
「襲って来ないか……ククッ。だったら、ゴーレムの出番だな」
どうやら近づいても意味がないらしい。
そっちが襲って来ないなら仕方ない。周囲に冒険者がいないのを確認した。
頑丈な身体のゴーレムで安全に捕獲した後に、岩塊で拘束させてもらう。
その後は血が出るまで深く噛んでやる。
「準備完了だな。生きていればいいなら、翼ぐらいは折ってもいいだろう」
捕獲するだけなので、戦闘用じゃない細い身体のゴーレムにしてみた。
鳥型のゴーレムになって自由に空を飛んでみてもいいが、今回は眷属使役の実験だ。
空中戦闘の練習は緑小竜で試させてもらう。
魔力をゴーレムの全身に血液のように流すと、上に向かって一気に魔力を撃ち出した。
ドン——
「ホォー‼︎」
「逃がさん!」
矢のように急速接近する俺にビビって、デスアウルが木の枝から慌てて飛んで逃げた。
だが、無駄だ。右手を空中のデスアウルに向けると、小さめの弾丸を素早く発射した。
「キュー‼︎」
ドガガッ! 丸い弾丸に全身を強打されて、デスアウルが地面に落下していく。
「やれやれ、手加減してこれか?」
今の俺にはデスアウルは、予想以上の雑魚になってしまったらしい。
地面に落ちると死ぬので、急降下して、翼を掴んで救出した。
地面に無事に着地すると、左右の翼を岩塊で拘束した。
あとは勢いよく胴体に噛み付くだけだ。
「うっ! よく考えると、生きた生肉に噛みつくのは抵抗があるな」
でも、羽根が付いたままの動く生肉は気持ち悪かった。
そもそも生物系でも、硬い鱗や皮で守られているヤツが多い。
緑小竜なんか噛んだりしたら、俺の歯が折れてしまう。
やっぱり血を飲ませる方が良さそうだ。
「痛くはないけど、どのぐらいの量が必要なんだ?」
スパッと左腕の前腕を剣で軽く切ると、赤い血が溢れてきた。
この血を飲ませればいいなら、傷口に垂らしても使役できるかもしれない。
とりあえず今回は口の中から血を流し込んでいく。
「ホォ、ホォ……!」
こういうのは身体の大きさに合わせて、必要な血の量が変わってくる。
まずは百ミリリットルぐらいから試してみるか。
♢
四十分後……
「なるほど。こんな感じになるのか」
暴れていたデスアウルが大人しくなったので、調べるを使ってみた。
状態異常がゾンビ化になっているけど、身体が腐っているようには見えない。
「大人しくするんだぞ。襲ってきたら殺すからな」
「ホォー」
本当に分かっているのは分からないが、岩塊の拘束を壊す前に警告した。
一応鳴いて返事をしたので、使役できていると信じるしかない。
まあ、暴れた場合は撃ち殺せば済む話だ。魔力を流して、翼を拘束する岩塊を壊した。
自由になったデスアウルは、軽く羽ばたいて体勢を直すと、地面に静かに着地した。
そのままジッと俺を見たまま、命令を待つように待機している。
「なるほど、使役は出来ているのか……もしかして、俺か?」
デスアウルに変化がないなら、俺に変化があるのかもしれない。
そう思って、身体に触れて調べてみた。予想通り『眷属使役:デスアウル』とあった。
これで十六階までのモンスターが使役できると分かった。
「さてと、次はコイツを調べないとな」
鞄から余っている竜水銀を一個取り出した。七個はないけど、二個だけある。
クチバシで攻撃しないとは思うが、警戒しつつ、竜水銀を身体に押しつけた。
「やっぱりな」
デスアウルの身体に竜水銀が、スッと吸い込まれるように消えていく。
あと五個集めれば、進化させる事が出来ると思うが、それを調べるつもりはない。
俺と同じなら行動可能階層が二十階になるだけだ。そんな勿体ない事に竜水銀は使えない。
もっと強いモンスターを使役する為に残しておいた方がいい。
「いいか? こんな形の宝箱を見つけて来い。見つけたら、俺の所に戻ってくるんだぞ」
「ホォー」
「よし、行け!」
地面に岩で宝箱を作ると、宝箱を見つけてくるように言い聞かせる。
返事をしたから理解したのだろう。腕を振ると空に飛んでいった。
あとは篭城して寝転んでいるだけでもいいけど、俺は眠れないので暇なだけだ。
「四時間だけ待ってやるか」
時計を確認すると地面に寝転んだ。
四時間以内に戻って来ないなら、アビリティ装備を強化する為に、地下三十五階まで行ってみる。
キチンと準備していないと、四日後にメルの前で恥をかいてしまう。




