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第76話 神様のお告げ

「よろしくお願いします」


 通りすがりの冒険者に多めにお金を渡すと、喜んで町に買い物に行ってくれた。

 リエラが行ってくれれば一番だが、見張りも付けずに俺を置いていくはずがない。


「これで二十四時間以内に町に帰れますよ。通れない理由が他になければ」

「大丈夫です。きっと仲間達が許してくれるはずです」


 顔は笑っているけど、余計な手間をかけさせやがって、という心情が声から伝わってくる。

 神鉄が届いたら十五階は通れるとは思うけど、所詮は一時凌ぎだ。

 今度は十階から先が通れないはずだ。


 神鉄が届いて進化して、町に戻れるのが一番だが、それはあり得ない希望だ。

 人質を取って逃げるという手もあるが、やる意味がない。

 リエラの目の前で犯罪を犯して、現行犯で捕まるだけだ。


 むしろ、余計な事はせずに、呪われた男を救う為の、進化を手伝ってもらった方がいい。

 三十階より先に行くには、四十階に行った経験がある冒険者の協力が必要だ。


 そして、俺が進化していけば、当然、実力は逆転する。それで全ての問題が解決する。

 短絡的な思考で短気を起こすよりは、長期的な計画を立てて、我慢した方が良いという事だ。


「もしかすると、神鉄だけじゃ足りないかもしれない。死んだ仲間達と約束したんだ。『五十階に行くまで絶対に冒険者は辞めない』って……」


 作戦開始だ。ポケットから三枚の冒険者カードを取り出した。

 それを真剣な顔で見つめて、深刻な声で話し始めた。


「もしかすると、俺に五十階まで行って欲しくて、ダンジョンに引き止めているのかもしれない」

「へぇー、よくある話ですね。本当に閉じ込められている人は初めて見ましたけど」

「それだけ俺達は本気だったんだ」


 俺にとって都合の良い遺言や約束なので、リエラはまったく信じていない。

 だけど、神鉄が届いたら嫌でも信じるはずだ。俺の身体には呪われた証拠がある。


「実はリエラには隠している事があるんだ。この足を見てくれ」


 右手で両足の包帯を解いていくと、リエラに呪われた岩の足を見せた。


「硬そうな足ですね」


 それが本気の感想だとしたら、頭がイカれている証拠だ。

 でも、まあいい。俺の岩の右腕を引き抜いても、悲鳴一つ上げなかった女だ。

 それに取れた右腕は無事にくっ付けたから問題ない。


「仲間の死体を溶岩に投げ捨てた後に、石化してしまったんだ。きっとバチが当たったんだと思う」

「その程度で呪われますか? 仲間を殺して、溶岩に捨てたのなら分かりますけど」

「俺も最初は何が起きたのか分からなかった。でも、結界にぶつかった時に三人の声が聞こえたんだ。『約束を守れ』という声が」

「本当ですか? 私には何も聞こえませんでしたよ」


 予想はしていたが、やっぱり信じようとしない。

 まあ、それっぽい話を聞かせられたから、これでいい。進化すれば身体に変化が起きる。

 俺の言葉は信じられなくても、目の前で起きる奇跡は信じられるはずだ。


 ♢


 十二時間後……


「ハァ、ハァ……買ってきたぞ!」


 お使いを頼んだ冒険者が、予想よりもかなり早く帰ってきた。

 十階で神鉄を売っていた冒険者がいたのだろう。


「助かったよ。早かったけど、十階で売っていたのか?」

「いや、メルちゃんが八階にいたんだよ。じゃあな」

「メルだと?」


 冒険者から神鉄が入った袋を受け取ると、早く買ってこれた理由を聞いた。

 そしたら、意外な人物の名前を言ってから、階段を駆け上がっていった。


 まだ、メルが冒険者を続けていたとは思わなかった。

 それに神鉄を持っているという事は、最低でも十階までは来れるようになったという証だ。

 もしかすると、どこかのパーティに入ったのかもしれないな。


「その神鉄を持っていれば、階段を通れるようになるの?」

「多分違うと思う。きっとサムソンに許してほしいと祈る事で、何かが起きると思うんだ」


 リエラが聞いてきたが、階段を通るには神鉄を吸収しないと駄目だ。

 適当な方法を教えると、とりあえず地面に跪いて、袋から神鉄を取り出した。


 その神鉄を祈るように額に押し当てると、スッと身体の中に消えていく。

 これを見れば、人を信じる心を失った者にも、奇跡が起きていると分かるだろう。


 ドクン……


「うぐっ、こ、この痛みはサムソンなのか?」

「どうかしたの?」


 神鉄七個を身体に取り込むと、進化の痛みがやってきた。

 だが、今回は特別版で、無念のまま死んだサムソンの恨みが、俺を苦しめている事にする。


「ぐわあああ! 俺が悪かった、許してくれ! ごがあ、ごががああ!」

「ちょっと大丈夫なの⁉︎」


 進化が始まると、岩の手足と岩のギプスが木っ端微塵に壊れた。

 ギプスから解放された左手で頭を押さえて、地面を転がり回って叫び続ける。

 リエラが少し心配しているが、半分以上は過剰な演出なので問題ない。


 五分後……


「うぅぅ……サムソン、許してくれてありがとう」


 天国に登っていったサムソンに、手を合わせて感謝した。

 進化の時間がまた少し長くなったけど、予想通りに手足が復活した。

 残念ながら、手足の腐った部分は減ったけど、青白いままだ。

 とりあえず手足の異常は、呪いが完全に解けてない証だと言えばいい。


「手足の石化が解けたみたいね。これなら五十階まで行かなくていいんじゃない?」


 リエラは呪いが解けて、町に帰れると思っているようだが、そんなに簡単ならとっくに帰れている。


「いや、まだ駄目みたいだ。実は神様からお告げがあったんだ。メルという七歳の少女を連れて、リエラと五十階を目指すように言われたんだ」

「私が? どうして、私とその少女が行かないといけないの?」


 流石に神のお告げを信じさせるのは難しいようだ。理由を聞いてきた。

 そんなのは俺が戦力と宝箱探知器が欲しいからに決まっている、とは言えない。

 包帯を巻いているけど、真剣な顔と声で、冗談ではないと主張するしかない。


「それは俺にも分からない……ただ声が聞こえたんだ。すまない、メルという少女を探して来てくれないか? ついでに靴と靴下、神銅と古代結晶を七個ずつ買ってきて欲しい」

「へぇー、その神様は私に靴と靴下を買ってくるように言ったんだ?」

「いや、靴と靴下は俺だ。でも、神銅と古代結晶は神様の声だった。嘘じゃない。信じてくれ」

「……」


 俺が逆の立場で、突然こんな事を言われたら、今すぐにブン殴って病院に放り込むと思う。

 でも、奇跡の目撃者ならば信じてくれるはずだ。

 リエラは口を閉じて黙ってしまったが、すぐに口を開いて聞いてきた。


「子供を連れて五十階まで行くのは大変よ。あなたにそれが出来るの?」

「もう仲間を置いて逃げたりしない。俺の命に代えても絶対に守ってみせる!」


 俺の覚悟を聞いてきたので、ドンと胸を強く叩いて約束した。


「はぁ……気持ちじゃなくて、実力を聞きたいんだけど。まあ、無理でしょうね」


 でも、実際に聞いたのは気持ちじゃなくて、実力だった。だったらもっと問題ない。


「死んだ仲間の力が俺の身体に宿ったみたいだ。今の俺なら五十階まで一人で行ける!」

「そこまで言うなら、行ける所まで付き合うけど。五十階に行くなら人は多い方がいいでしょ?」


 明らかに俺の実力を信じていないが、確かにパーティメンバーは多い方がいい。


「それはもちろんだが、最低でもBランク冒険者じゃないと危険過ぎる」

「分かってる。だから、四日だけ時間をちょうだい。一緒に行ってくれる人を探してみるから」

「四日か……分かった。ここで待っているから、最低でもメルだけは連れて来てほしい」

「大丈夫大丈夫。四日もあれば十分だから!」


 四日待つだけで、Bランク冒険者を最低でも一人連れてくるなら待つに決まっている。

 リエラは随分と自信があるようだから、これなら任せておけば安心だ。

 それに、どうせ俺は三十五階から先に行けないから、必要な進化素材がなかなか集まらない。

 どう考えても取りに行ってくれる人間が必要になる。

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