第66話 地下三十階冒険者
まずは軽く歩いて、徐々に速く走っていく。
魔力の放出量でスピードを上げ下げ出来るようだ。左右の手の指も難なく曲げられる。
拳を握ると素早い動きで、パンチとキックを連続で壁に繰り出していく。
最初は優しく、徐々に激しく攻撃する。壁がバラバラと壊れていく。
「ハッ、ハッ、ヤァッー‼︎」
ドガァン‼︎ 最後に気合いを込めた拳の三連突きを決めて、壊れた洞窟の壁に一礼した。
「よし、これだけ動かせれば十分だろう」
免許皆伝したので、操縦訓練は終わりだ。
お待たせしたマグマスライムを覗き穴で確認すると、全力で走った。
そして、マグマスライムの手前で、真上に向かって垂直に高くジャンプした。
約十三メートル。岩肌の覗き穴の位置を変えて、真下に見えるマグマスライムを確認した。
技名はまだ決めてないが、とりあえず『大流星蹴り』でいいだろう。
バラバラにすれば倒せるなら、岩盤ごとバラバラに蹴り砕いてやる。
「オラッー‼︎」
大地を貫く一本の槍になって、両足を真下に向けて、ゴーレムを発射した。
ギューンと巨体が地面に向かって急加速する。
地面を這っている赤い塊の運命はもう終わりしかない。
「‼︎」
ドガァン‼︎ けたたましい音を轟かせて、岩盤が広範囲にバラバラに砕け散った。
プチッと何かを踏み潰したような気もするが、どうでもいい。
この威力なら間違いなく、C級冒険者でも余裕で倒せる。
♢
「モンスター役は初めてだから緊張するな。これが常に命を狙われる緊張感か」
階段を下りて、目的地の地下三十階にやって来た。
レッドゴーレムLV2になって、ドキドキ、ワクワクしながら適当に溶岩洞窟を歩き回る。
遭遇した本物のレッドゴーレムは倒して、襲って来た冒険者も倒していく。
ここはまさに弱肉強食の戦場に相応しい舞台だ。
「おい、ゴーレムがもう一体来たぞ!」
「チッ、二体もいらねんだよ。倒されるなら順番ぐらい守れよ。ボケが」
四人組の冒険者がレッドゴーレム一体と戦闘している。
俺が乱入して混乱しているので、問題を解決してあげよう。
レッドゴーレムに向かって、全力の突撃を開始した。
「ちょっ、速っ‼︎ おい、そっちのゴーレムはいい、こっちだ‼︎」
通常のレッドゴーレムよりも、俺が操るLV2の方が断然速いようだ。
冒険者達が目ん玉が飛び出そうなぐらいに驚いている。だが、驚くのはまだ早い。
攻撃しようとする冒険者を飛び越えて、そのままレッドゴーレムの胴体に右拳を叩き込んだ。
ドガァン——
「グゴオオォー‼︎」
「なっ⁉︎ 殴っただと‼︎」
拳の一撃でレッドゴーレムの胴体がバラバラに砕け散った。
この程度のもろく弱い身体で、この戦場を生き残れると思っているとは笑わせてくれる。
さあ、邪魔者は片付けた。正々堂々と一対四の戦いを始めようか。
「気をつけろよ。このゴーレム、普通のゴーレムじゃないぞ」
「見れば分かる。赤じゃなくて、よく見れば茶色だ。ブラウンゴーレムだ」
「ブラウンゴーレム? そんなゴーレムいるのかよ」
「知らねえよ。とにかくブッ倒して素材を調べれば、何か分かるだろうよ」
冒険者四人が俺を四方向から囲むと話を始めた。
倒す為の作戦ではなさそうだが、俺はレッドゴーレムなくて、ブラウンゴーレムみたいだ。
それは岩の色を変える事が出来ないから仕方ない。
「行くぞ、デカブツ!」
「なるほど、そう来るか……」
誰から襲ってくるのか警戒して待っていると、剣を持った威勢のいい冒険者がやって来た。
だが、コイツは囮だ。魔法使いは魔力の流れが分かる。背後から魔力が足元に流れている。
注意を前に引きつけて、足元から攻撃するようだ。
ならば、やる事は一つだけだ。
魔法攻撃を回避して、ついでに剣の冒険者を瞬殺する。
冒険者に向かって一気に走り出した。
「くっ、勘が良いな。だが、一緒だ。リック、避けろよ!」
「ああ、分かってるよ!」
背後から何か来るみたいだ。剣の冒険者が右に緊急回避した。
だから、俺も左に身体を撃ち出して緊急回避した。
俺の身体があった場所を、十本程の氷柱が通過していくのが見えた。
あれで胴体を串刺しにするつもりだったらしい。
「なっ、テメェーまで付いてくんなよ!」
それは無理だ。言葉が分かる。怒っている剣の冒険者の前に立ち塞がった。
左手を素早く動かすと、剣の冒険者がビクッと反応した。
悪いがそっちはフェイントだ。
ドフッ——
「ぐぼぉ‼︎」
右足の大きな足裏が剣の冒険者の腹にめり込んだ。
冒険者が前蹴りによって、宙を飛ばされている。とりあえず一礼した。
「リック! くそ、本当にゴーレムかよ。人間みたいな動きをしやがる!」
「だったら、デカい人間だと思ってやるしかないでしょう。知っているゴーレムの七倍は速いと思ってやりますよ!」
「おお!」
仲間がやられて、やっと本気になったようだ。
斧、剣、氷魔法の三人が扇状に並んで、俺を取り囲んでいる。
氷魔法が遠距離でゴーレムの手足を破壊するのか、武器持ちがやっているのか戦法は分からない。
だけど、足を破壊するのが、デカい相手の倒した方の一般的なスタイルだ。
だとしたら、次に狙うのは……
「魔法使いだな」
何をしてくるか分からない魔法使いが一番厄介だ。
武器持ちは武器で攻撃するしか手はない。
右手を薄紫色の髪の魔法使いに向けた。『ゴーレムショット』の出番だ。
弾は体内に大量に拳大の丸い小岩があるので、それを使わせてもらう。
ドゴォ——
「ぐごぉ‼︎ あっ、がぁぁ……‼︎」
腹に弾丸を二発命中させた。魔法使いが腹を押さえて、地面に倒れていく。
コロコロと丸い小岩が地面を転がっている。
「どうした、クルート? 大丈夫か⁉︎」
「いま、何か手から飛び出したぞ……」
「はぁ? ゴーレムがそんな事できるわけないだろう!」
仲間二人は何が起きたのか、いまいち分かってないようだ。
二人は俺から目を離さないが、突然倒れた魔法使いを心配している。
片方がかなり動揺しているので、次はお前を狙わせてもらうか。
「ジョン! 右手で狙われているぞ!」
剣を持った方に右手を動かすと、斧の冒険者が叫んだ。
心配するのは本当にそっちでいいのかな。
「チッ、さっさと撃てよ——」
ドゴォ!
「はぐぅ‼︎ あっ、あっ、あぐっ……‼︎」
「おい、マルコム? どうした?」
悪いが膝からも発射できる。隙だらけだったから、倒す順番を変えさせてもらった。
股間を狙った一発の凄まじい弾丸が、斧の冒険者を文字通りに撃沈させた。
「テメェー! 何しやがったぁー!」
最後に残った剣の冒険者が突撃してきた。
勇敢な戦士とは、正々堂々と拳と剣で戦いたいが、万が一にも怪我したくない。
俺は油断しない男だ。左足のスネから弾丸を発射して、男の右足をへし折った。
「ぐがぁぁ‼︎ テメェ、この野朗!」
ドサッと地面に転倒した冒険者が俺を睨みつけている。
この状況で戦意を失わないとは感心するが、冒険者は実力の世界だ。
荷物と装備は俺が大切に預からせてもらうから、腕を磨いて取り返しに来るんだな。




