第58話 墓荒らし
「やはり遠距離攻撃だな。間違いない」
襲ってきた白獅子を尖った岩塊で蜂の巣にした。
実戦結果から小型でも大型でも、とにかく撃ちまくれば倒せる。
一発なら避けられるが、百発なら避けられない。
「やれやれ強くなり過ぎたみたいだな」
二十五階への階段に向かって余裕で歩いていく。これなら次の『骸骨双剣士』も余裕で倒せる。
ヴァン達との五人組パーティでも、二十五階までしか行った事がない。
つまり二十五階を一人で探索できるようになれば、あの時の俺を超えた事を意味する。
だが、俺は油断しない超一流冒険者だ。そろそろ冒険者達に聞き込みをしても問題ないはずだ。
命結晶を持っている冒険者を、襲っている凶悪犯がいると教えれば、喜んで売ってくれる。
より確実な勝利を手にする為に、進化という手段が必要だ。
「なぁ、二十二階でヤバイ奴が冒険者を襲っているらしいんだ。命結晶を持ってないか?」
「んっ? ちょっと分かんないんだが、その冒険者と命結晶に何の関係があるんだ?」
「俺も詳しくは分からないんだが、持っていると襲われるそうだ」
「へぇー、そうなのか。それよりもその顔の怪我はどうしたんだ? さっさと治療した方がいいぞ」
階段に到着すると、階段で休んでいる冒険者と通る冒険者に聞き込みを始めた。
いちいち最初から説明するのは面倒だが、それっぽい話を作って聞いていく。
命結晶の相場は六万ギルだから、七万ギルも払えば売ってくれる。
「ああ、あるぞ。一個だけ」
「おっ! 良かったら、七万ギルで売ってくれないか?」
「ああ、いいぞ。ほら」
しばらく聞き込みを続けていると、やっと当たりが来た。
階段を上ってきた四人組パーティに聞くと、六角柱の透明な水晶を見せてきた。
こっちも用意していた一万ギル硬貨を七枚見せて交換した。
「よしよし、残り四個だな」
やはり騒ぎを起こさずに、金で解決する方が楽だ。
一万ギル硬貨はまだ九十六枚もあるから、金に汚いクソ野朗が現れない限りは十分に足りる。
こんな事なら、千ギル硬貨も記念に回収しておけばよかった。
「あぁー、暇だな……」
のんびりと階段を上がってくる冒険者を待っているが、流石に一階や十階と比べると人通りが少ない。
買取った命結晶は三個になる。残りは二個だ。
このまま暇そうに待つよりも、二十五階の宝箱を探しながら骸骨を倒したい。
「よし、行くか」
階段から立ち上がると、二十五階の『墓地』に向かった。
♢
「多分、墓の中にあるな」
暗く湿った空気が漂う墓地を歩いていく。
濃茶色の地面に、上が楕円形の灰色の墓石が規則正しく大量に並んでいる。
墓石には名前が書いてあり、死んだ冒険者の名前が書かれていると噂されている。
メルがいれば、宝箱が埋まっていそうな場所が分かるのに肝心な時にいない。
多分、俺が死んだ事になっているから、今頃はババアの家で可愛がられている。
俺が逆の立場なら、今も二十階を探し回っているのに、恩知らずで薄情な奴だ。
ダンジョンから出られたら、真っ先に会いに行かないといけない。
「それにしても、結構人がいる。俺が倒す分は残っているのか?」
墓地を適当に歩きながら、チラッと骸骨双剣士と戦闘中の冒険者三人を見た。
「武器を落とせば楽勝だぞ!」
「退いてろ! 墓石をぶつけてやるぜ! オラッー!」
「グゴォ‼︎」
「ヒャヒャヒャ! よしっ、今だぁー!」
罰当たりな冒険者が骸骨双剣士に向かって、墓石を投げまくっている。
ダンジョン半分の二十五階まで来る冒険者は、ちょっと頭がイカれた奴らが多い。
町では関わり合いになりたくないタイプの人間だが、命結晶を持っている可能性がある。
戦闘が終わったようなので、近づいていって話しかけた。
「やぁ、ちょっといいか?」
「ああ、いいぜ。お前一人か? この辺は一人歩きはやめた方がいいぜ」
「ハッハッ。そうだぜ。地面から骸骨の腕が伸びてきて、引き摺り込まれるからな」
職業が重戦士だと言わんばかりのデカい男達に話しかけると、まともな反応が返ってきた。
てっきり酔っ払いみたいな反応が返ってくると予想したが、話は通じるみたいだ。
それらしい事情を話した後に、命結晶を持っているか聞いてみた。
「……それで命結晶を持っている冒険者を探しているんだよ。あんた達は持ってないか?」
「なるほどな。上ではそんな面白い事が起きてんのか。どうする? 行ってみるか?」
「別にいいんじゃないのか。探してるなら、ここまで来るだろうから待っていようぜ」
「ああ、そうだな。そうしようぜ」
俺の質問には答えずに、何故か三人で上に見物に行くか話し合いを始めた。
結局、行かない事に決定したみたいだが、そんなのはどうでもいいから、持っているのか教えてほしい。
「それで持っているのか?」
「んっ? ああ、武器を強化するのに集めているから四個持っているぜ」
面倒だが、もう一度持っているのか聞くと、四個も持っていると言ってきた。
二個しか必要ないが、この場合は話の都合上、四個全部買うしかない。
「それは良かった。だったら——」
早速買取り交渉を始めようとしたが、俺の言葉を聞くつもりはないらしい。
喋ろうとすると、手で制して止められてしまった。
「おっと! でも、売るつもりはないぜ。持っていたら襲われるなら、俺達で返り討ちにしてやるよ!」
「ガッハハハ! ついでに墓の下にも埋めといてやるか! 色々と手間が省けて助かるだろうよ!」
「はぁ?」
ブチッ! 仲良し脳筋三人組は俺がやって来たら、返り討ちにして墓に埋めるそうだ。
やれるもんなら、今すぐにやってもらおうか。
三人から見えないように後ろを向くと、右手で封印していた仮面を作り出して、顔に装着した。
両手の指の太さが五センチ程の岩の手になると、これで準備完了だ。振り返ると話しかけた。
「さあ、返り討ちにしてもらおうか?」
「えっ、何だって? ぐぼぉ……ぬぼぉ……ぶっ……ぐがぁー‼︎」
ドガガガガッ‼︎ 俺からの話しは一切ない。拳で語らせてもらう。
一番デカいのに高速の拳を連続で叩き込んでいく。
殴られた衝撃でデカいのが飛んでいくが、俺も高速パンチで飛んで追いかける。
四発目のトドメの一撃をぶち込んで、墓石に向かって吹き飛ばした。
「お、お前、まさか……!」
「安心しろ。首だけ出して墓に埋めてやるよ」
残り二人が仮面を付けた俺を見て動揺している。やっと俺の正体に気づいたようだ。
だが、もう遅い。素直に買取り交渉をすれば良かったと、墓場で後悔しろ。




