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第59話 地下二十六階黒妖犬

「クックッ。これで完璧だな」


 口だけ筋肉だけの雑魚三人を瞬殺すると、地面に首だけ出して埋めてやった。

 三人のDランク冒険者の冒険者カードを見て、名前付きの豪華な墓石もサービスで作ってやった。


「さて、遊びはこの辺にするか……」


 鞄から見つけた命結晶四個のうち、二個を手の甲に押しつけて吸収させる。

 すでに命結晶五個と竜水銀七個は吸収しているので、これで進化できる。


 ドクン……


「ぐっ、来たな……」


 前の進化の時と同じように、身体を強烈な熱と痛みが襲ってきた。

 数分で痛みは収まるのは知っているので、とりあえず地面に寝る事にした。


「ぐおおおっ! ぐあああっ!」


 ゴロゴロと地面を転がり回って叫びまくる。肉が膨れ上がり、骨が変形している。

 人型のままだと思っていたけど、頭が二つ、腕が四本になる可能性もある。

 素直にジェイゾンビと一緒に、治療して貰えば良かったかもしれない。


 三分後……


「ハァ、ハァ……前回より少し長かったぞ」


 手足の感覚は今まで通りだ。隣から誰かが話しかけても来ない。

 ちょっと服のサイズが小さくてキツイが、気になるのはそのぐらいだ。

 右手で頭を掴んで、『調べる』を使ってみた。


【名前:ゾンビナイト 年齢:20歳 性別:ゾンビ 身長:175センチ 体重:61キロ】

【進化素材:紅蓮石七個、神鉄七個】

【行動可能階層:15~30階】


「三センチ伸びただけで、三キロ増加は太り過ぎだな。それにソルジャーの次がナイトとかって……次はプリンスかキングか?」


 適当な成長と適当な名前に色々と言いたい事はあるが、キチンと調べるとアビリティは成長していた。

 剣術LV4、盾術LV3、筋力上昇LV5、物理耐性LV5、体術LV3の五つが強化されている。

 盾術は新しいアビリティだが、ナイトなら盾も使えという事だろうか。

 まあ、盾はそこまで使わないから、あまり意味がないアビリティだ。


「さてと、次はどうするべきか……」


 まだ進化できるみたいだが、この辺で神鉄を持っている冒険者はいない。

 上に行くなら、念の為に神銅や古代結晶も手に入れたい。

 おそらく、次の進化で行動可能階層は10~35階になる。

 つまり、あと三回の進化で外に出られるという事だ。


 俺の驚異的な頭脳がそう言っている気がする。多分、間違いない。

 だとしたら、やる事は戦力強化と紅蓮石集めが出来る三十階を目指すしかない。

 アビリティ装備の強化素材のモンスターがいるから、今装備しているアビリティを強化できる。


「さて、やる事は決まった。ついでに一階ごとに一パーティぐらいは襲っておくか。バレないだろう」


 目標は決まった。あとは行動するだけだ。そして、俺は超一流冒険者だ。

 油断せずに新しいアビリティ装備も入手する。この辺の冒険者なら倒したら手に入る。

 もちろん、もう倒しまくったりはしない。俺は失敗からキチンと学習する男だ。


 ♢


「やっぱり初めて来る場所はワクワクするな」


 二十六階は初上陸だ。景色は墓地のままだが、出現するモンスター『黒妖犬』とは初めて会う。

 黒妖犬は地下五階のウルフよりも身体が大きく、口から炎を吐き出すそうだ。

 黒い体毛で暗い墓地の中だと姿が見えにくく、真っ赤な赤い目だけが見えるそうだ。


「……普通に見えるな」


 どう見ても赤い目以外にも、竜と犬のハーフのような、細く筋肉質な身体付きの黒妖犬が見える。

 口からは白い湯気が出ているし、唸り声も上げている。

 これで気づかない奴がいたら、注意力が足りないだけだ。


「さて、お前の出番だぞ」


 久し振りに鞘から剣を抜いた。

 このまま永遠に出番はないと思ったが、進化していけば剣術のLVが上がりそうだ。

 当然、この剣の威力も上昇するから、本来の切れ味に近づく。使わないのは損だ。


「グルゥ、グルゥ……」


 黒妖犬は俺を警戒しているのか、それとも自分の間合いがあるのか襲って来ない。

 俺もゾンビの丸焼けになりたくないから、迂闊に斬りかかるつもりはない。


「ヒューーーー」

「来るか」


 黒妖犬が大きく息を吸い込み始めた。口から出ていた湯気が吸い込まれていく。

 何か来るのは間違いない。身体の力を抜いて、どの方向にも回避できるように準備する。

 そして、「ガアッ‼︎」という唸り声を上げて、黒妖犬が口を開いた。


 ゴウウウウッッ——


「くっ、範囲攻撃かよ!」


 炎の息が勢いよく口から噴き出される。

 真っ直ぐに向かってきた炎の息を左に避けたが、黒妖犬が首を動かして、炎の息で俺を追いかける。

 距離を取ろうとしたら、今度は自分が走ってきた。


「この野朗、生肉は食べたくないのかよ!」


 やはり遠距離攻撃の岩塊乱れ撃ちで倒した方が楽そうだ。

 剣を左手に持ち替えると、走りながら右手で、焼肉好きの犬に岩塊を発射していく。

 俺はハンバーグが好きだから、お前にはひき肉になってもらう。


 ダッ、ダッ、ダッ——


「ガルッ、ガルッ、ガルッ!」

 

 もう息が切れたのか、黒妖犬は炎を吐き出すのをやめて、俺の岩塊を素早く走って避けていく。

 俺の岩塊が墓石を壊しまくっているが、一週間もあれば元通りに修復される。


「チッ、速いな。攻め方を変えるか」


 黒妖犬は岩塊が当たらないように、間合いをキチンと取っている。

 賢くて素早い相手には、このまま攻撃を続けていても時間の無駄だ。

 犬が走り疲れるのを待つつもりはない。


 遠距離攻撃をやめて、剣が握れる程度の厚みに両手を岩の手に変えていく。

 やはり男の戦いは、剣と拳の接近戦と相場は決まっている。

 右手に剣を持って戦って、隙あらば左手で流星拳を叩き込んでやる。


「んっ? 何だ、これは?」


 これから流星拳で素早く飛んで、間合いを詰める予定だったのだが、予定外の事が起きた。

 右手に握っている剣が少しデカくなっている。これだと鞘に剣が入らない。


「あぁー、そういう事か……」


 何が起きたのか一瞬理解できなかったが、この剣は神器だ。

 持ち主の手の大きさに合わせて、剣の大きさが適切なサイズに変わる。

 つまりは俺の岩の手の大きさに合わせて、剣が大きくなってしまっただけだ。


「ハッハッ。何だ、そういう事か……振りにくいな」


 原因が分かってひと安心したが、岩の手をデカくし過ぎると、剣が縦と横にしか振れなくなる。

 とりあえず刀身が二十センチ伸びる程度なら問題じゃない。

 気にせずに流星拳で飛んで、黒妖犬との間合いを数メートルに詰めた。


「待たせたな。もう現実から逃げるのはやめにしようか? お前は俺に——」

「ガアッ!」

「くっ!」


 数メートルの距離で睨み合いながら話していると、いきなり馬鹿犬が口から炎球を飛ばしてきた。

 慌てて剣の腹でガードしたが、馬鹿犬が口を開けて飛び掛かってきた。


「テメェーはこれでも食ってろ‼︎」


 急いで刀身を水平に構えて、刀身を左手で掴んだ。

 そして、馬鹿犬の口に照準を合わせて、左右の拳から流星拳を同時発動させた。


 ズパァン——


「グガァ、ゴベェ……‼︎」


 両腕を前に突き出した状態で矢のように飛んで、黒妖犬の身体を頭から尻尾に向かって剣で切っていく。

 尻尾まで行かずに、背中の途中で刀身は外に出てしまったが、結果は同じだ。

 お前は俺に倒されるだけの存在だ。

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