第56話 臨時パーティ
「くそ、血が出ている。痛みがないと逆に分からないな」
身体には切り傷や刺し傷が多数ある。ゾンビの身体でも怪我はする。
二十二階の階段下まで冒険者を倒しながら進んだが、途中で逃げ出した冒険者達がいた。
きっと貴重品を持って逃げたに決まっている。
仕方ないので半殺し状態の冒険者達から、アビリティ装備を回収していく。
逃げた奴らが命結晶を持っていれば、交換に使えるだろう。
「弓術は要らないけど、短剣術と槍術は填めておくか」
倒れている冒険者の指から指輪を抜いていく。両手の指の空きは残り一本しかない。
変わったアビリティを探しているのに、同じアビリティしか見つからない。
それでも何も取らないという選択肢はない。
俺の戦力アップは出来ないが、敵の戦力ダウンは確実に出来ている。
「さてと、絶対にまた階段の所に待ち構えているぞ。面倒くさいなぁー」
一通り戦利品の回収は終わったが、このまま二十三階行きの階段に向かうのはマズイ。
おそらく対策を用意して、同じ人数が待ち構えているはずだ。
しかも、さっきよりも下の階だから、冒険者の実力が少し上がっている。
明らかに状況は不利になっている。このまま戦えば奇跡が起きて、俺が負けるかもしれない。
「チッ、駄目か……」
一応『調べる』を使って、俺の身体に奇跡が起きてないか調べてみた。
地魔法はLV6のままだった。あれだけ戦って倒しても成長してない。
「仕方ない。水中を進むか」
これから一ヶ月間も修業するつもりはない。
豊富な水がある地形を利用させてもらう。
バシャン! まずは姿を隠す為に水の中に飛び込んだ。
水中には槍を持った、水色のスマートな魚人がいるが問題ない。
俺には肺呼吸もエラ呼吸も必要ない。
水中で両手を岩で覆うと、流星拳で水中を高速クロールで泳いでいく。
このまま階段近くまで、誰にも邪魔されずにひと泳ぎする。
相手が待ち伏せするつもりなら、こっちは水中を泳いで素通りさせてもらう。
気づいてしまった冒険者は水中に引き摺り込んでやる。
♢
「全然来ないな」
「階段に倒れて、やられた冒険者のフリをしてるんじゃないのか?」
「うわぁー、あり得そうだな」
それはあり得ない。何故なら俺はここに居るからだ。
水中を進んでいくと予想通り、二十三階の階段近くに待ち伏せ中の冒険者がいた。
このまま立ち話をしているアホ見張り三人を倒させてもらう。
ザァバン——
「ぐはぁ‼︎」
「何だ! ぐがぁ‼︎」
水中で加速して、勢いよく水面に飛び出すと、通路でお喋り中の雑魚を殴り飛ばした。
残り二人も騒がれる前に高速パンチで殴り倒した。
「フッフッ。お前達に名誉を与えてやる」
だが、お前達の仕事はまだ終わりじゃない。お前達には俺の臨時の仲間になってもらう。
ほら、プレゼントの仮面を着けて、指輪も填めてやろう。さあ、皆んなに紹介してやる。
ズルズルと倒れている二人を引き摺って、冒険者達が待ち構えている大広間に向かう。
もちろん俺の顔に着いている仮面は取って、顔には血を染み込ませた包帯を巻いた。
名誉の負傷という事で顔出しは拒否させてもらう。
「おい、まさか倒したのか⁉︎」
「ああ、何とか返り討ちにしてやった。やっぱり犯人は複数いたぞ」
「やっぱりか!」
「他にもいるかもしれない。お前達も気をつけろ」
通路の途中で出会う見張りの冒険者達が、引き摺られる凶悪犯二人に驚いている。
今のところ作戦は上手くいっているようだ。
このまま二人には俺の代わりにボコボコにされて、牢屋で寝泊りしてもらう。
「ハァ、ハァ……犯人を連れて来たぞ」
「くそぉー、俺達の出番は無しかよ!」
「いいから、さっさと正体を見ようぜ」
大広間まで到着すると、大広間の中央に凶悪犯二人を置いた。
ざっと数えて五十人以上の冒険者が集まってくる。
後始末は集まった皆さんに任せて、俺は手薄になった階段を下りさせてもらう。
「犯人の名前はジェイコブとトムソンだ! 誰か知っているヤツはいるか?」
「待て待て! 二人とも地魔法のアビリティを持ってないぞ!」
「くそ! 主犯がまだ何処かに隠れてやがる!」
役に立たない臨時の仲間だ。もう注目を集める力もないらしい。
呼び止められる前に階段に入りたいが、ここで走ると怪しまれる。
焦らず走らず、階段から出てくる冒険者の流れに逆らって進んでいく。
しばらくは地魔法を使える冒険者を探すはずだから、逃げる時間は稼げる。
大広間に地魔法を使える冒険者がいたら、絶対に捕まって徹底的に調べられる。
俺の場合はゾンビだから問答無用で殺されてしまう。
「……ふぅー、助かった」
無事に階段に入る事が出来た。このまま二十五階まで避難しよう。
そこまで俺を探しに来る冒険者はいないはずだ。
今度は騒ぎが起きないように、命結晶を静かに集めるとしよう。




