第33話 オヤジの紹介
「今日は休みにするか……」
目標を全て達成して町に帰ってきたのが、月曜日の午前一時だった。
疲れた身体で宿屋に向かって歩いていく。
メルの筋力上昇LV2と体力上昇LV2の神器を強化したら、今日はスライムでも倒させよう。
そろそろ一人でも倒せるだろうし、冒険者登録させておけば魔石の換金も出来る。
ついでにスライムを倒している間は、俺も休めるからちょうどいい。
「すまない。娘を起こしたくないから、部屋を開けてくれないか?」
「申し訳ありません、お客様。お手数ですが、お子様を起こして扉を開けてもらってください」
「あっそ……」
宿屋に到着すると、受付カウンターにいた男に頼んで、スペアキーで部屋の扉を開けてもらった。
最初は断ってきたが、「夜中に扉を大声で叫んで叩きまくったら、他のお客さんに迷惑になるんじゃないのかな?」と教えたら、素直に開けてくれた。
こっちは疲れているんだから、余計な労力を使わせないで欲しいもんだ。
「寝ているな……」
部屋に入ると、メルは奥の方のベッドで寝ていた。ババアの家には帰らなかったようだ。
部屋に置いてある鞄から着替えの服を取り出して、起こさないように静かにシャワー室に入った。
さっさと身体から疲れと汚れを落として寝るとしよう。
♢
「隊長、隊長……」
「うっ……くっ……」
ベッドで熟睡しているのに、頭を手で揺さぶられて起こされる。
昼頃に俺が起きるまで待つという優しさは無いらしい。
面倒くさいけど、一回だけ起きる事にした。
神器を強化して、スライムを倒しに行かせよう。
「ふわぁー……メル、俺は今日は疲れているから休む。お前には日頃の修行の成果を見る為に、スライムを二十匹倒してもらう。二十匹倒したらここに戻ってこい。いいな?」
手で欠伸を隠して、今日の訓練メニューを教えた。
あとは神器を強化して、借りていた素早さ上昇の靴を返して、部屋から追い出すだけだ。
その予定だったのに、メルが予想外の事を言ってきた。
「それならもう大丈夫です。土曜日と日曜日にスライムを百匹以上も倒しました」
「何?」
嘘だと思ったが、証拠だと言わんばかりに綺麗な冒険者カードを見せてきた。
俺の言いつけを守らずに、一人でダンジョンに行ったようだ。
だが、怒るよりも反省の意味も込めて、このままやらせた方が都合が良い。
「……そうか、だったら今日も百匹倒してこい。指輪と手袋を強化するから楽勝だろ?」
百匹なら五時間ぐらいはかかるはずだ。ぐっすりと二度寝が出来る。
そう思ったんだが、まだ俺の二度寝の邪魔をしたいようだ。
「それは無理です。隊長が帰ってきたら、換金所に連れてくるように言われたんです」
「換金所? 一体誰に何の用で俺が行かないといけないんだ?」
「換金所のおじさんがパーティを紹介してくれたんです。私一人でダンジョンに入るのは危ないからって」
「ふーん、なるほどね……」
メルの話を聞いて事情はだいたい分かった。
メルが一人でスライムを倒しているのを見つけた冒険者パーティがいて、換金所に連れていたんだろう。
それで保護者の俺を、どこかの雑魚新人冒険者パーティが説教したいらしい。
俺は親でもなければ、行くなとキチンと注意していた。
説教される筋合いはないが、会いたいのなら会ってやる。
十階までの宝箱発掘作業員としてこき使ってやる。
それぐらいの役にも立たない奴に文句は言わせない。
♢
「あのおじさんです」
「何だ、赤毛オヤジかよ」
待ち合わせ時間を聞いたら、昼頃までに来て欲しいという事だったので、ギリギリまで寝てから向かった。
メルの言う換金所のおじさんが、赤毛猿オヤジだったのが気になるが、まあいい。
コイツが人を選んで仕事しているのがよく分かった。
「おい、オヤジ。来てやったぞ。俺にパーティを紹介したいんだろう?」
「おお! よく来てくれたな、カナン! こんな小さな女の子と二人だけで、ダンジョンに入っていると知っていれば、仕事なんて放り出して、もっと早く紹介できたのにすまなかった!」
カウンターまで行って声をかけると、オヤジが頭を下げて謝ってきた。
何か言い訳しているけど、俺には仕事を放り出す価値がないと言っているだけだ。
さっさと雑魚冒険者を紹介してもらおう。
「そんなのはどうでもいい。紹介する奴は十階ぐらいまでは潜れるんだろうな?」
「もちろんだ! Dランクパーティの三人組で二十六階まで行った事がある」
「へぇー、それは凄いな」
Dランクで三人組なら、俺が最後にパーティを組んでいた奴らとほとんど同じ実力だ。
オヤジのくせに本当に良いパーティを見つけたみたいだ。
パーティメンバーを聞くと、斧使いの重戦士、索敵担当の狩人、炎の魔術師だと答えた。
三人全員が上位職だから、かなりの戦力だ。十階なんかで宝箱を探していたら、鼻で笑われてしまう。
つまり、オヤジの本当の狙いは、メルの前で凄い冒険者達の実力を見せて、俺に恥をかかせる事だ。
良いオヤジ面して、あとでメルに「あんな雑魚魔法使いよりも、この三人組のパーティに入りなさい」とか言うのだろう。
性格の捻じ曲がったクソオヤジは、職場で俺に恥をかかされたから、嫌がらせをしたいらしい。
そんな時間があるなら、かけ算でも覚えて、もっと早く換金できるようになればいい。
「どうだ、カナン? 物は試しだと言うだろう。コイツらとパーティを組んでみないか?」
「ああ、実力は悪くないな。あとは人柄だな。そっちも良いのか?」
オヤジが気持ち悪い猫撫で声で聞いてきたが、顔面を殴らずに興味があると答えた。
「当たり前だ。タチの悪い連中を女の子連れのお前に紹介なんてしない。人柄は俺が保証する」
「分かった。そういう事なら一回会ってみるか。いま会えるのか?」
このオヤジの保証はほとんどないようなものだ。
実際に会って、俺の審査基準で実力と人柄は再評価させてもらう。
そうしないと、安心して背中は任せられない。
「それは良かった。家の住所を教えるから行ってみてくれ。三人一緒に住んでいるらしい。家が気に入ったら、お前達も一緒に住んでいいと思うぞ」
「野郎臭い家に住めるか。ほら、仕事だ。魔石と素材があるから換金してくれ」
「分かった。大至急終わらせるから、ちょっと待ってくれよ……」
住所が書かれた紙を受け取ると、代わりに魔石と素材が入った鞄をカウンターに置いた。
これで金は手に入るけど、手土産とかはいらないだろう。
それだと俺がパーティに入れてもらうみたいに見える。




