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33.洞察力の高い人は厄介です


 思っていたよりも話がおおごとになってきた気がする。そもそも私は皇太子について少しばかり聞き出したかっただけなのに、気が付くとアルフレッドの予想外の過去を聞かされて、そして。

 ……どうやらこれは私が話す番なんだろうな……話さずには帰れないだろうな、これ。

「察しておられるとは思いますが……私は魔族と会って話しました。そして十七年前の出来事について、魔族側から見た話を聞かされました」

「ほう、魔族側は何と?」

「魔族と先代の聖女との間で行き違いがあり、先代の聖女は魔族の長を力づくで浄化しようとして力尽きたと。その後魔族は住処を捨て遠くに逃げ、人間に関わらないようにしたと」

 細かく説明しようとすると『黒』やら緑の子やらについて詳しく話をしなくてはならないが、上手く説明できそうにない。シルヴィオならきちんと説明できるんだろうけど。

 いざとなったら最終手段としてシルヴィオとアルフレッドを直接会わせるのも検討しておくべきかもしれない。アルフレッドは魔族に理解があるし、私を間に挟むよりうまく情報伝達できそうだ。

「それで君は王国側からその出来事を調べようとした訳か。真相を知るために」

 一応それで合ってはいるけれど、それだけではない。でもこの先は黙っておこう。今魔族が攻めてくるつもりだということがアルフレッドに知れたら最悪、王国VS魔族大戦争とかになりかねない。

 彼個人としては魔族に理解があっても、彼には王国の貴族で軍務大臣という立場があるし、困ったことに有能だ。魔族の侵攻計画を知ったら確実に先手を打ってくる。いや先手を打ってくれたら打ってくれたで戦争は回避できるけど、そうすると多くの魔族が傷つくことになる。私を信じてくれたシルヴィオがさらに悲しむのかと思うと、なんだか胸が痛い。

「それにしても、君は魔族と話したことですっかり彼らに情が移ってしまったようだな。聖女ともあろうものが困ったことだ、と一応言っておく」

 持って回った言い方をしたアルフレッドは、茶目っ気たっぷりに流し目をよこしてみせた。こんな状況で不謹慎ではあるけれどちょっとときめきかけた。

「ただし私個人としては、その君の考えは好ましいものであることも一応伝えておく。白の浄化に頼りきりで、盲目的に魔物を浄化し続けるよりはずっと良い」

 えっと、これは応援してもらってるってことでいいのかな?

「は、はい。魔物はこれからも倒していきたいとは思いますが……魔族は敵だと思いたくありません。私の会った魔族は、姿形は私たちとは異なっていましたが、その心は私たちと同じだと感じました」

 神々しさを備えながらも無邪気に笑ったり泣いたりしていたシルヴィオ。気さくで話しやすいヴィーカ。彼らも、私の他の知り合いたちと同じように大切だ。

 たかだか一度二度会話しただけの相手にそんな情を抱いていることに驚いた。自分が情に厚いなんて、前世では一度も思ったこともなかったのに。

「そんな思いを抱いていては、陛下の治世は息苦しいだろうな」

 おそらくそれはその通りだとは思うけれど。アルフレッドが何か言外にほのめかしているような気がしてならない。気づかなかったことにしよう。

「そして残念なことに、王太子殿下も魔族には冷たいお方だ。殿下は異形であるということだけで彼らの存在を認められないらしい」

 やはりアルフレッドはそこまで調べていたのか。やっと有益な情報が得られたけど、そうすると次の王は誰が適任なんだろう。

「そこで君に一つ助言しよう。レックスが鍵だ。君は彼と知り合いなのだろう?」

 ……えーと。今聞いてはいけない名前が聞こえた気がする。ちょっと待って頭の中を整理するから。

 確かレックスはアルフレッドのことを「昔ちょっと色々あって知っている」とかそんな風に言っていたような気がする。つまり、アルフレッドがレックスのことを知っているのはおかしくない。

 問題は、私がレックスと知り合いであるということを何故アルフレッドが知っているのか、だ。ああややこしい。

 私が驚きで目を白黒させていると、アルフレッドはまた愉快そうに笑った。今日はよく笑うなあ。

「また図星か。君と話していると、自分が占い師か何かになったような気分になるな。まあ実のところ、レックス本人から君の事を聞いていただけだが」

 あれ、最近アルフレッドはレックスに会っていたのか。レックスはそんなこと言ってたかな。

「言っておくが、私は君とは違って正面から訪ねているからな。と言っても、レックスに面会が許されるのは乳兄弟である私と乳母であった私の母くらいのものだがな」

 今日のアルフレッドは色々暴露しすぎだと思う。驚き続けで顔がつりそうだ。

 ここで唐突に思い出した。そういえばゲーム中のアルフレッド個別ルートで彼が新たな王として担ぎ上げたのが、自分の乳兄弟であるレックスだった。そこではレックスは名前しか出てこないから気づくのがすっかり遅れてしまった。

「レックスは楽しそうだったぞ、最近裏口から訪ねてくる元気のいいお嬢さんたちがいると言ってな。私の知らない間にずいぶん親しくなったものだ」

 まあそれは、強引に師匠になってもらったりしたし。護身術を習い始めたころは連日通い詰めだったし。

「もしも君がレックスを説得できたら、彼の元で君の望むような未来も作れるかもしれないな」

 彼の元で私の望む未来が作れる。その言葉はおそらく、レックスが王となったら、という意味だろう。さっきからアルフレッドが何やらほのめかしていたのは、おそらくこのことだ。現王の元では私の望む魔族と共に生きる未来は作れないし、王太子の元でも駄目だ。

 そしてそのアルフレッドがこう言うのなら、レックスは少なくとも魔族と共存できるような思想を持っているのだろう。ならば、彼を担ぎ出して次の王になってもらえれば何とかなるかもしれない。説得というのが少し引っかかるが。……あれ? この行動、アルフレッドルートにおけるアルフレッドの行動と被ってませんか? 結局私は彼の影から逃れられないのだろうか。




 話が済んで客間に戻ろうとしたら、もう遅いから部屋まで送ると言ってアルフレッドが付いてきてくれた。王城の中なので特に危険もないだろうが、念のためにだそうだ。

 もう深夜近い城内はひっそりと静まり返り、私たちの足音だけが響いている。そういえば、いつも速足のアルフレッドが今はゆっくりと歩いている。私に合わせてくれてるのだろうか。

 それにしても静かだ。静かすぎて何かを話そうという気にならない。さっきまで散々話し合ったばかりでもあるし。私たちの間には沈黙が漂っているが、それが苦にならない。あら、私のアルフレッドに対する好感度がいつの間にか上がっている?

 まあ、今の状況ではそういうのは二の次三の次で、魔族の侵攻を何とかするのが最優先だ。はあ、私はただ第二の人生を幸せに過ごしたかっただけなのに、どんどん状況が深刻になっていく……。


 ちょっと意識を飛ばしている間に、客間についたようだ。ナタリアが出迎えてくれる。

「それでは私は帰るとしよう。聖女殿、頑張りたまえ」

「はい。お話できてよかったです、アルフレッド様」

 短い挨拶を交わして別れるその前の一瞬、私たちは互いの目を見つめあった。次の瞬間、アルフレッドが視線を外して去っていく。

 そのやりとりを横で見ていたナタリアが、まあ、といいながら両手を頬に当てていた。

「セレスティナ様、アルフレッド様とずいぶん親しくなられましたのね」

「そう見えますか?」

「はい。大体、親しくなければ夜になってからお部屋に誘われたりしませんわ」

 ナタリアがうきうきしている。違うんだなあ。内緒話ではあったけどそんな色っぽいやつじゃないんだなあ。

 とはいえ、今はこのナタリアの変わらなさがありがたい。シルヴィオに会って以来、一人になると今後について重苦しく考え込んでしまう癖がついてしまったので、前と変わらず元気なナタリアに私も元気をもらった気分だ。

「ナタリアはいつも前向きね、嬉しいわ」

 たまには思ったままを素直に口にしてみる。

「ありがとうございます! 私、セレスティナ様のためにもっと前向きに頑張りますね!」

 元気はいいけれど建国祭の時のような暴走は控えてくれると嬉しいです。



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