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21.試し斬りしたくなるのは人の性


 その日、私は軍務大臣補佐としてアルフレッドに呼び出された。誰だ形式だけの役職って言ったやつは。

「実戦練習、ですか?」

「そうだ。君は順調に腕を上げており、また君の武器も強化されたと聞く。ならばここで少しくらい実戦経験を積んでおいたほうがいいだろう」

「そうですね、では、どこで何と戦いましょう?」

「すっかり勇ましくなってしまったな聖女殿は」

 張り切って返事をする私と、こめかみに手をあてるアルフレッド。最近私が彼の頭痛の種になってしまっているようだ。済まなく思う気持ちと、アルフレッドも人の子なんだなあと思う気持ちとが半々だ。実のところそんなに反省してません、てへ。

「気を取り直して、今回君に倒してもらうのは王都の南西の森にいる小型の魔物だ。前から住み着いていたようだが、最近数が増えてきているのでな」

 小型の魔物。それならいけるかもしれない。

「ただ小型の魔物といっても、包囲されてしまえば無傷とはいかないだろう。そこで」

 ここでアルフレッドは言葉を切り、軽く咳払いをして続けた。

「騎士団の半数を森に差し向け、残り半数は君とともに森の外に待機する。騎士団に追われ森から飛び出した魔物を外の騎士で包囲し、君が倒す」

 私知ってる、それって追い込み漁っていうんだよね。というか何だその無駄に手間がかかる上に超過保護な作戦は!

「分かっているだろうが、今回の作戦は君の身の安全が第一だ。それに、ある意味君は初陣だからな」

 そんな訳で、私の初陣となる過保護大作戦は幕を開けたのだった。




 アルフレッドとの会話から五日後、王都の郊外。すぐ前には森、後ろには遠くに王都。そんな場所で私は騎士たちと共に魔物を待っていた。これから戦闘なのに、なんとも緊張感に欠ける。

 前方の森はわあわあがさがさと騒がしい。森に入った騎士たちが一生懸命魔物を探している音だ。魔物って、こんな必死で探すものだったかな……? そもそも動員してる騎士の数が多すぎないか? 半分、いや四分の一もいれば十分な気がするんだけど。

 自分の状況を客観視すると空しくなってくるので、私は現実逃避を兼ねてロッドの確認を始めた。一方の端には「衝撃」の石を、他方の端には「炎」の石をはめてある。危ないから対魔物用にしておけとモニカに念を押されていた「炎」、やっと使う機会に恵まれた。おそらく魔物が立て続けに出てくることはないだろうから、途中で「刃」に交換しようと思っている。

 石といえば、ナタリアに作ってもらった替え石用ポーチ、かわいいし使いやすいし最高なのだ。ロッドを腰につるすホルダーと一体化させてあって着け心地もいいし。

 そろそろ待ちくたびれてきた。いい加減出てこい魔物!


 私の雑な祈りが通じたのか、一匹の魔物が森から飛び出してきた。特大の牙が上あごから大きく突き出た狸のような魔物だ。牙には黒いもやがまとわりついている。怖いのか怖くないのかやや微妙な魔物だ。

 私は落ち着いてロッドを構え、「炎」を発動させてみる。ロッドの一端から炎が噴き出した。その長さは私の身長ほど。思ったより火力が強く、これではまるで火炎放射器だ。

 火柱をその大きさに保ったまま、そっとその先を魔狸に接触させてみた。魔狸は一瞬ひるんだが、すぐに後ろに大きく跳んで回避する。大した傷にはなっていないようで、鼻にしわを寄せて唸ると大きく口を開けて私に飛びかかってくる。周囲を取り囲む騎士たちに緊張が走った。

 しかしこの程度の攻撃、私にとっては大したことがない。何分普段から騎士たちの攻撃を受けまくっているのだ。こんな単純な攻撃、余裕でかわせてしまう。そのまま今度はロッドそのもので殴り掛かった。まずは「衝撃」のみで。ロッドが当たると確かな手ごたえと共に魔狸がひるみ後ずさる。その後「炎」のみで殴ってみる。思ったより手ごたえがない。魔法を使わずに素で殴るのとあまり違わない気がする。

 ふと思いついて、「衝撃」と「炎」を同時に発動してみた。驚いたことに「衝撃」のみの時より威力が大幅に増している。「炎」のエネルギーが「衝撃」に加算されているとかそういう感じだろうか。よし、そのイメージでやってみよう。

 狙いは上手くいき、魔狸に大打撃を与えることに成功した。そのまま二、三発殴ると、魔狸は倒れ黒い霧となって消えていった。

 魔狸は速度に長けた魔物のようだったが、ここまであっさり勝てたのには理由があった。こういう動きの速い相手との立ち回りはフィニアンとアドリアンで慣れていたのだ。ちなみにフィニアンは常に動き回りながら真っすぐに剣を振るってくる傾向があり、アドリアンは緩急はっきりしている上にトリッキーな攻撃を繰り出してくる中々の曲者だ。

 ところで、こうして魔物を自分の手で倒した訳だけど。聖女様がか弱い魔物を撲殺って、結構えげつない響きだと思う。さらにその聖女様を体格のいい騎士たちが取り囲んで褒めたたえているのだから余計にシュールだ。接待ゴルフとかに連れていかれたらこんな気分になるのかもしれない。




 魔狸を一匹倒したが、まだ次の魔物は現れそうにないので、この隙にロッドの石を交換することにした。予定通りに「炎」と「刃」を交換する。

 しばらくして、二匹目の魔物が現れた。大型犬くらいの小ぶりな鹿のような魔物、ただし角は額に一本だけ。漆黒の角だ。

 魔物が遠くにいるうちから色々試してみたが、「刃」は「炎」のように発動したままにしておくことはできないようだ。ならばとばかりに、さっそく直接殴ってみる。ロッドが当たる瞬間に、刃が魔物に当たるイメージを……ロッドが当たったところがすっぱりと切れ、血が噴き出した。中々にえぐい。騎士たちはいつもこんなのを間近で見てるのか。

 さらにふと思いついて「刃」と「衝撃」とを同時に発動してみたのだが、これは完全に失敗だった。といっても威力的には問題なかった、むしろ強かった。けれどすっぱり切れた傷口が間髪入れずにぐちゃっと潰れるので、見た目がかなりよろしくなかったのだ。ちょっと気分が悪くなってきた……。


 そうやって魔鹿も危なげなく倒し、そして思う。今までに出た魔物はどちらも結構弱い。このあたりにいる魔物は小さくて弱いとアルフレッドも言っていた。だったら防御を捨てて「炎」と「刃」の組み合わせを試しても大丈夫なのではないか、と。ちなみに「光」と「起動」の組み合わせはやってみたことがある。打ち出した魔力の塊がきれいに光って照明弾みたいだった。

 試していいかな? 試していいよね?

 調子に乗って石を交換し、わくわくしながら魔物を待ち構えた。




 人間、調子に乗るとろくなことになりません。

 間もなく森からまた魔物が飛び出してきたが、これが誰一人予想だにしていなかった大物だった。それは腕が四本ある全身真っ黒の熊だった。しかも二頭。この前の大森林で見た魔物たちと比べても大きい方だ。魔熊を追いかけてきた三人の騎士と私を包囲していた騎士たちが、全員で魔熊に立ち向かう。あっという間に大乱戦になってしまった。

 もっとも、騎士の数がやたらと多いので魔熊は一方的に殴られまくっている。私は調子に乗った結果防御がろくにできなくなっているが、ジークがそばにべったり張り付いてガードしているので問題はない。この隙に石をまた交換しようかとも思ったが、魔熊から目を離すのも危なそうなのでやめておくことにした。あれはこのまま騎士たちに任せよう。

 あの熊強そうだな。でも騎士たちに容赦なくサンドバックにされているな。いいな私もちょっとだけ混ざりたい。

 ジークに目で「行っちゃだめかな?」と聞いてみたが、「駄目です」とばかりに首を横に振られた。

 しかしこうして待っているだけというのも暇だし、ロッドの試し振りでもしてみようか。魔熊殴り会場からはそこそこ離れているし、暴発してもみんなには迷惑はかからないだろう。

 まず「炎」を発動させる。さっきと同じようにロッドの一端から炎が吹き出した。今度は威力を調整しているので、ロッドの全長の半分くらいの控えめな火柱だ。そこに「刃」を合わせてみる。見た目は何も変わらない。そもそも「刃」は目に見えない効果のようだし、試し斬りしないと効果が分からないなあ。

 ちらちらとジークの隙を伺うが、彼は一瞬たりとも私から目を離してたまるかという顔をしている。隙を突いて飛び出すのはどうあがいても無理だ。ならば正攻法だ。

「ジーク、あの一撃だけ入れてみたいのですが」

 上目遣いで小首をかしげつつちょっぴり甘えた声で攻めてみた。ぶりっ子と呼ぶなら呼べ! 目的のためなら手段は選ばん! あれ私ちょっとアルフレッドっぽくなっているかも。

 しかしどうやらこの攻撃は効いたようで、目に見えてジークが動揺している。こういうのにひっかかるようだと将来苦労するよ。

「……仕方ありません。このままではあなたは引かないでしょうし……私が援護しますので一撃だけ加えてすぐに離脱してください」

 しぶしぶジークが承諾したので、私は嬉々として魔熊殴りに参加した。魔狸の時と同じように、炎の先で魔熊の背中を軽く撫でてみる。すぐ離脱しないといけないのでロッドがぎりぎり届く距離までしか近づけないのだ。

 と、炎の当たったところが大きくすっぱり裂けた。さらに傷とその周囲の肉が焼けただれている。ああこれヒートカッターなんだ。攻撃系の石を二つ合わせただけあって威力はかなりのものだ。射程も伸びてるし。

 しかしその攻撃が魔熊の怒りを買ってしまったらしく、魔熊がこっちを振り向いた。わあすごい迫力だ。そして命の危険。

 などと呆けていたら、ジークが左手でさっと私を抱き寄せ、その魔熊を一撃で切り伏せた。前から思ってたけどジーク強すぎる。

「これで気は済みましたね?」

 そう言うと、ジークはあれよあれよという間に私を安全な後方に引きずっていった。

 こうして、私の初陣は無事に終わったのだった。




 ところで、これまでたくさんの魔物を見てきたけれど、前に王が言っていた「人型の魔物」は一度も見たことがない。本当にいるのだろうか。疑問になったのでジークに聞いてみた。

「人型の魔物ですか。昔はたくさんいたそうですね。人型の魔物は通常の魔物より凶悪なので優先して討伐すべし、と陛下は常々おっしゃっています。もっとも、私も見たことはないのですが」

 昔はいた、というのは狩りすぎて絶滅危惧種になってしまったとかそういうことだろうか。魔物なら絶滅しても問題ないとは思うけど。それにしても人型の魔物か、どんなのだろう。ゴブリンとかオーガとかそういう感じのものだろうか。まあ、凶悪なら遭遇しないに越したことはないね。



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