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20.偶然の再会は割とよくある


 突然襲来したおばさまことレディ・ベアトは、去る時もまた突然だった。数日王都に滞在した後、「あなたが元気にしてるのも確認できたし、次の聖堂の視察があるから」と言ってさっさと王都を発ってしまったのだ。別れ際には「辛くなったらいつでも大聖堂に戻っていらっしゃい」なんて言っていたが。ナタリアなんかは「嵐が去りましたね」とほっとしていた。仕方ない、彼女もまたレックスの件について隠し事をしている身だ。

 そして、おばさまが王都を発ったのと同じころ、モニカもまた魔術都市に帰っていった。「来月の建国祭にはまた来るわ」と言い残して。

 こうして、いつも通りの日常に戻ったかと思った矢先、また懐かしい出会いがあった。




 それはいつものように訓練所に行き、一通り訓練をこなして帰る途中のことだった。ナタリアは用事で珍しく別行動しており、一人になった私は少し寄り道でもして帰るつもりでいつもより一本遠回りの道を歩いていた。

 見覚えのある白い髪が目の前を横切る。老人の乾いた白髪ではなく、若々しさに満ちた艶のある白い髪。あれはもしかして。

 ヴィーカ? と声をかけたら振りむいた。当たりだ。

「おうあんたか、久しぶりだな。元気してたか?」

「おかげさまで元気です」

「そりゃあよかった。ところで、今度はえらく勇ましい格好してるんだな。おまけにまた従者もなしで」

 訓練帰りということもあって、私が着ているのはいつもの青いローブではなく質素で丈の長いチュニックと同じ色の下履きだ。さらに腰にはホルダーを着け、そこには魔法銀のロッドが収められている。

「森の中では動きにくそうな格好だったのに街の中ではやたら動きやすそうな格好って、普通逆じゃないか?」

 ごもっともです。まあ森に入ったときは戦う気なんて毛頭なかったので仕方ないけど。

「ええと、これには色々と事情があるのです」

「おてんばお嬢様のやることだ、いまさら驚きはしないさ」

 そういえばヴィーカには正体を伏せていたんだった。私が聖女だとまだばれていなかったのか。まあばれてないならそのままで行こう。

 ところで何でヴィーカは王都に来てるんだろう。そう思ったとき不意に思い出した。ゲーム中で彼が刺客として登場するのは、建国祭の夜のことだった。

 もう今の現実はゲームのストーリーとは大きく異なってしまっているだろう。けれど、それでも断片的に共通する部分がないとも限らない。つまり、ヴィーカが何らかの理由で私と敵対する可能性はまだあるということだ。

 ならば今私がやるべきことは一つ。ヴィーカの動向をそれとなく探ることだ。何事もなければよし、何事かあるようなら早めに対策を練ればいい。

「あのヴィーカ、今から時間を取れませんか? この間のお礼をしたいのです」

「おう、今は暇だな。礼? いいよ別にそんなの。どうしてもって言うなら飯でもおごってもらえればいいさ」

「でしたらそのように。私も昼食がまだでしたのでご一緒させてください」

「ん、了解。だったら店は俺が決めていいか? あっちにうまい店があるんだよ」

 よし、まずはヴィーカと話す口実が見つかった。このまま探りを入れていこう。




 ヴィーカに連れられて入った店は、素朴な家庭料理を出す居酒屋のようだった。客層は割といいのか、昼間から飲んだくれているような客は見当たらなかった。昼を過ぎて少し経っているが、そこそこ混んでいる。

「ここ、王都に来てから見つけた店なんだけど、結構飯うまいんだ」

 慣れた様子で空いた席を見つけ腰を下ろすヴィーカ。さっさと給仕に注文をしている。私の分の注文も彼にお任せした。

「ヴィーカはいつ王都に来たのですか?」

「一週間くらい前かな。建国祭が近くなると何かと物要りになるせいで、毛皮とかの買値も上がるんだよ。だから手持ちの毛皮を売りに来た。この後はそのまま建国祭を見ていこうかと思ってる」

「そうなのですか。でしたらしばらくは王都にいるのですね」

「ああ。それよりさ、その格好からするとあんた王都のお嬢様だったのか?」

「ええ。魔術都市には旅行で」

 魔物退治のための遠征と旅行とでは大違いだけど、お嬢様が遠出する理由って旅行くらいしか思いつかない。

「旅行先で遭難するなんて、大物だなあんた」

「返す言葉もありません。その際は本当に助かりました」

 ヴィーカと話すのはまだ二度目だけど、やっぱり話しやすい。年も近くて気安い感じだからなのか、それとも聖女であることを伏せているからなのか。

 と、ヴィーカが急に真顔になった。

「なああんた、大森林で別れた後魔物に襲われたりしなかったか?」

 おや、急に話が変わったぞ。

「はい、少しだけ。従者がいてくれたので事なきを得ましたが」

 本当は少しじゃなかったけどね。小さな草原に魔物がひしめいているのは恐ろしい絵面だった。今でも時々夢に出てくる。

「それは大変だったな。なあ、あんたは良い魔物がいるって聞いたら信じるか?」

 ヴィーカは突然突拍子もないことを聞いてきた。良い魔物、か。かつてゲーム中でアルフレッドがそんなことを言っていた記憶があるけれど。

「良い魔物ですか? 想像したこともありませんが」

「まあ普通はそうだよな。だけどさ、もしも人に危害を加える気のない魔物がいたとして、それとたまたま出くわしたら、あんたは従者に魔物を討てと命じるのか?」

 もしもの話をしているにしてはヴィーカの顔は真剣そのものだった。それに、この問いはどこかで聞いた気がする。どこで聞いたか思い出せないのがもどかしい。

 そしてこの問いには、私も真剣に答えなければいけないと思った。なぜかは分からなかったけれど、今嘘やごまかしを口にしてはいけない、そんな気がした。服の下に隠してある天青の首飾りが、それでいい、と重さを増したようだった。

「良い魔物というのが本当にいるのか分かりませんが……もしいるなら、彼らを討つ必要はないと思います。魔物は見た目こそ恐ろしいですが、ただそれだけをもって排除の理由とするのは違うと思うのです」

 私が考え考えそう言うと、ヴィーカは切なそうに微笑んだ。私のこの答えは、彼にどう受け取られたのだろうか

「そっか。あんたの意見が聞けて良かった。飯の前に辛気臭い話して悪かったな。ほら飯もきたし、とっとと食おうぜ」

 ちょうどその時に食事が運ばれてきたので、その話題はそこまでにして私たちは食事に専念することにした。


「しっかしあんた、ちょっと見ない間にたくましくなったなあ。何でまたお嬢様が体鍛えてんだ?」

 私たちは気分を変えて、食事をとりながら和やかに雑談していた。ヴィーカは中々の健啖家で、話の合間に結構な量をたいらげている。それにしてもおいしそうに食べるものだ。

「この前大森林で遭難してから、護身術を身に着けようと思ったんです。護身用の魔法具も取り寄せてもらいました。今日も鍛錬の帰りだったんです」

「それだけでそんなに鍛えるか、普通」

「家の者には鍛えすぎだってよく言われます」

「だよな。俺もそう思う。ただ自分の身は自分で守るって考えは嫌いじゃないな」

「ありがとう。ヴィーカも変わりないようで何よりです」

「ま、とりあえず無事に生きてるぜ」

「そういえばヴィーカこそ、あの後魔物に遭ったりしなかったのですか?」

「……ああ、俺は大丈夫だった。あの日から急に魔物も減ったし、安全に狩りができるようになった。あの日、あんたの従者以外にもたくさん人が森にいたみたいだし、そいつらが魔物狩りでもしてたのかもな」

 この妙な間には覚えがある。大森林で魔物について聞いたときだ。さっきの問いといい、ヴィーカは魔物に何か思うことでもあるのだろうか。

 一つだけ言えるのは、ヴィーカは隠し事が苦手で実直な青年だということだ。結構好感が持てる人物かもしれない。ゲーム中では彼は敵対しているようだったけど、もうこの現実はゲームとは違う。そう思いたかった。彼と敵対する未来はないほうがいい。

 私はひそかにそう祈っていた。ゲームと違う未来を願うなんて、私も変わったものだ。



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