表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/47

11.魔術師というもの


 次の日も自由行動だ。ラファエルには今日と明日が空いていると伝えたけど、彼はいつ来るんだろう。特に何も言ってこないということは今日来るのかな。ここで待っていればいいのだろうか。

 などと考えていると、窓の外に人影がすっと降りてきた。こんなところからやってくるのは……やっぱりラファエルか。

「おはようございますセレスティナ、今日は空いていると聞いたのでお誘いに来ました。良ければこれから付き合ってくれませんか。あなたの力について研究を進めたいんです」

 モニカには申し訳ないと少しばかり思わなくもないが、こちらも命がかかってるので即承諾する。うん、ラファエルも研究だって言ってるし、やましいことは何もない。

 一昨日と同じようにラファエルに連れられて塔の上に上がる。前は夜だったから特に気にならなかったけれど、明るい中この高さまで飛ぶのは結構怖い。思わずラファエルの腕をつかむと、彼は苦笑しながら首をかしげていた。

「魔術師以外の人たちって、なぜか飛ぶと怖がるんですよね。別に危なくないのに」

 こんな高さでけろっとしていることといい、塔があんなとんでもない状態になってるのにそのまま放置して普通に生活していることといい、魔術師って図太いのかそれとも頭のネジが飛んでるのか。

「なんなら塔のてっぺんに行ってみます? 見晴らしいいですよ」

 拒否する間もなくそのまま塔の頂上へ連れていかれた。柵はない。むしろ足場すらない。本音を言うとラファエルに抱きつきたいところだが、精神力の全てをもって腕にしがみつくにとどめておく。さっきより距離が近いって? 近くもなるよ、ここ怖すぎるもの。吊り橋効果ってあったよね、怖くて心拍数が上がってるのを恋のときめきと勘違いするってやつ。まずいこのままだとラファエルと恋に落ちてしまう。駄目だ落ち着け私。

 落ち着こうと努力している私を見ると、ラファエルはしみじみとつぶやいた。

「聖女って、あんなにすごい浄化を使えるんだからきっと何か特別なものがあるんだろうなって想像してたんですけどね……確かにあなたは聖女ですし、それは見れば分かるんですが……ごく普通の人にしか見えませんよね、あなたは」

「幻滅しましたか?」

「いいえ。ぱっと見て分からないだけで、あなたには確実に他の人と違う何かがあります。それが何かが分からなくても、それがどういう働きをするのかが分かればそれだけでも魔物との戦いは格段に有利になります。あなたは僕の希望です、セレスティナ」

 ひどく真剣な目をしたラファエルが真っすぐに私を見た。こんな状況でなければ愛の告白ととれてしまうような目だった。

 もっとも、ろくに立つことすらできない塔のてっぺんって告白の舞台としては最悪級だよね。まあそもそもこれは告白ではないのだけど。




 「それでは、これに触れてみてくれませんか」

 改めてラファエルの研究室に連れて行かれた私に、ラファエルは黒い粉が入った皿を渡してきた。なんだろうこれ。とりあえず言われた通り触ってみよう。

 その黒い粉は、私の指先が触れたところから透き通り消えていく。あれ、どっかで見たなこの感じ。

「ああ、予想した通りでした。あなたは常に微弱な浄化の力を帯びていますね」

「微弱な浄化、ですか? あのラファエル、気になっているのですがこの粉は何でしょうか」

「魔物を普通に倒すと黒い塵に変化するのですが、見たことはありますか? この粉はその塵を魔法で固めて集めたものです」

 なんてものを触らせるんだ。道理で消え方に見覚えがあるはずだ、白の浄化を発動したときに魔物がこんな感じで消えていってたよ。

 そう伝えると、ラファエルは顔を輝かせた。

「ということは、白の浄化はあなたが本来持つ力を生命力で増幅したものか……ならば生命力と魔力の互換性をどうにかできれば……いやしかし規模が大きいな……消費する魔力が膨大になりすぎる……だったら浄化の力自体を再現する方が簡単だろうか……小規模の浄化を幾重にも重ねて……」

 小声かつ早口で難しそうなことをつぶやき続けるラファエル。言ってることが全く理解できないけれど楽しそうでなによりかな?

 ひとしきりつぶやき続けた後、ラファエルはにっこり笑って頭を下げた。

「ありがとうございます、おかげで色々なことを思いつきました」

 少し頭をあげると上目遣いで苦笑してみせるラファエル。

「ですが、やはり一度白の浄化を実際に見てみたいですね。きっとそこから得られるものはとても大きいですから。なので一つお願いがあります」

「なんでしょうか」

「次の大森林での作戦、僕に白の浄化を見せてください。僕の目の届くところで白の浄化を発動させて欲しいんです」

「はい、私としてもあなたの研究が進むのは好ましいことですから。可能な限りそうしますね」

 ラファエルは研究を進めるため、私は白の浄化に殺されないため。利益が一致した私たちは互いにうなずきあうのだった。




 それからしばらくラファエルの実験に付き合った。と言っても、言われるがまま何かを触ったり、指定された場所に立ったり。私には訳が分からないけど、ラファエルはいちいち満足そうな顔をしていた。

「少し休憩にしましょうか」

 そう言ってラファエルが私を座らせる。陶器の壺から二つの盃に銀色の液体を注ぎ、私に勧めた。飲めということか? どう見ても食用じゃない色だよ?

「これ、調合を研究してる同僚から分けてもらったんです。疲労回復にいいんですよ。ちょっと酸っぱいけど」

 そう言ってラファエルは自分の分を一気に飲んだ。仕方ない、覚悟を決めて私も飲むか。

 ……きりりとした酸っぱさとまろやかなコクを備え、ほのかな甘みを漂わせつつ香辛料の辛さも感じられる……未だかつて体験したことのない味だ。見た目よりはましだったけど。

「それにしても、前からずっと疑問だったことがあるんですよね」

 くつろいだ様子のラファエルが唐突に切り出した。

「浄化の力を持つのは聖女だけ。そして聖女は必ず教会の関係者、それもある程度高位の信徒かその家族の中から現れるんです。一人の例外もなく、です。だから教会は聖女の素質を持つものを幼少のうちに保護することができる。僕たち魔術師も、独自に一般の信徒を調べてはいるのですが、その中に浄化の力を持つ者は一人もいなかった」

 そこでラファエルは私を見つめた。

「そうなると、浄化の力が教会という組織に関係している可能性が否定できないんです。だから僕たちは教会についても調べているのですが、一般の信徒に聞き込みをするぐらいしかできることがなくて。教会の礼拝には入れないし、高位の信徒と話す機会はないし」

 ラファエルが頭を下げる。

「ですので、良ければあなたが教会について知っていることを何でもいいので話してくれませんか?」

「何でも、と言われても……」

「本当に何でもいいんですよ。他愛のないことでも、話しているうちに見えてくることがありますから。そうですね、ならばまずは教会のしきたりや教えについて話してくれませんか? 基本的なものでいいんです。他の信徒から聞いた話と照らし合わせていきますから」

 実のところ私は教会内での階級は司祭相当の下っ端だ。聖女といっても、その辺は特別扱いされていない。だから言われるまでもなく基本的なことしか知らない。とりあえず、思いついたものをそのまま言ってみることにした。

「まず思いつくのは、教会は空の青を服の色などによく用いるとか、空を飛ぶ鳥の翼の意匠をよく用いるとか、でしょうか」

「あなたの服もそうですね。青地に翼の刺繍が見事です。教会内の階級によって意匠が異なったりするのですか?」

「はい、上になるほど装飾が複雑になりますね。私のものは司祭の略装を元に少し手を加えています」

 手を加えたのはナタリアだ。教会の制服たるローブは一応改造が許されているのをいいことに、彼女がより可愛らしく改造したのだ。その時に私のリクエストで隠しポケットがあちこちに付けられている。

「あとは救世主の話もありますね……世の万色が乱れ、調和と安寧が失われていた頃。救世主は舞い降りて万色をあるべき姿に分けた。救世主は青の子らに世の守りを託し、また飛び去って行った。今も救世主は世を見守っている、というお話ですね。この救世主の背には大きな白い翼があったとも言われています。それもあって、教会は翼の意匠を多く用いるのです」

「その話、子供向けの絵本で見たことがあります。元は教会で語り継がれていたものだったんですね。ということはただのおとぎ話ではなく……翼のある人か……もしかして……」

 あ、またラファエルが自分の世界に入った。うつむいて何事かつぶやいている。こういう時はそっとしておこう。しかしこんな話がほんとに役に立つのかなあ。

 しばらくしてラファエルが顔をあげた。

「本当にありがとう、セレスティナ。さらに考えが深まりました」

「いえそんな、私は教会の言い伝えなどはあまり知らなくて。力になれたなら幸いです。大司教猊下ならたくさんのことをご存知なのでしょうが」

「大司教猊下ですか。叶うことならぜひ一度お会いしたいですね。かえすがえすも教会と魔術師の塔との関係があまりよくないのが口惜しいです」

 心から残念そうに言うと、ラファエルはうなだれた。教会と魔術師の塔との関係、そんなに悪いのかな? 私は聖女ではあるが教会の運営とかには関わってないのでそういったことにはうといのだ。

 さらに教会に伝わる伝承や組織についての話を続けた後、ラファエルに送られて自室に戻った。研究、無事に進むといいな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ