ネズミ、トカゲ、ヘビ、カエル……そして猫
かわいいと言われて動揺したミリーナちゃんが、オロオロとして言い訳のように訴え始めた。
「わ、わたくし、昔から、ネズミのようで汚いとか、トカゲのようできもちわるいとか、ヘビみたいだから近寄らないでとか、カエルみたいにはねてきそうで怖いとか、言われて……」
褒められるとつい否定したくなるの、あるよねー。俺も顔が良いって言われる度に、なに言ってんだ、こいつ? ってなるもん。
にしても、ネズミ。トカゲ。ヘビ。カエル。
確かに俺の感覚でも、どれも罵倒系の比喩なんだけどさぁ。
ただ、ちょっと思うんだけど。
どれも目が黒目でまん丸くてかわいい顔のヤツじゃねぇか。
ネズミというよりこの子はハムスター系だけど、爬虫類系のあいつらも、どう考えてもハムと同系統の、めちゃくちゃかわいい顔してるよな?
「……俺は、ネズミもトカゲもヘビも蛙も、かわいいと思うが……」
でもたぶん、これ、褒め言葉じゃない。さすがに俺でもわかる。
かわいいと思うのは本心だけど、それを似てると言われるのは駄目だよなぁ……。
かといって否定したところで、俺自身が比喩対象に憤りを感じてないから、無意味だし。
傷付けるために悪意でそんなことを言ったヤツはむかつくが、なんか、あえてのように、あのかわいい顔の爬虫類もってきた気持ちに、ちょっと憎めない感情が……。
いやでも、いくら似てるからって、俺も「ゴリラかよw」って嗤われたらくっそむかつくし、やっぱ駄目だよな。
いや待てよ、心底ゴリラ素敵って思ってる相手から「ゴリラみたいです」って言うのは、微妙な気持ちにはなるけど、セーフだぞ……?
困っていると、ミリーナちゃんもちょっと困った顔して俺を見ていた。
「……かわいい、ですか? あの、ぎょろぎょろした目が、ですか? じゃあ、ゴブリンとかお好きですか……?」
あ、やっぱり、ゴブリン令嬢って呼び名、気にしてるよな。
ゴブリンかわいい説が持ち上がった昨今。さっき、記憶をサルベージして我に返ったんだけど、ゴブリンは、ゴブリンだったわ。あいつらかわいくねぇわ。普通に化物だったわ。動揺しててちょっと、頭がバカになってたわ。
てか、こんなかわいい子に、ゴブリンはないだろう。ホントあいつら、最悪だな。
「ゴブリンは別物だろう。あいつらの目はぎょろぎょろしてるが、ミリーナ嬢は全然違うだろう。君の目はくりくりしていて黒目がちでつぶらな目がぱっちりしていて、見つめると吸い込まれそうなほど綺麗な目をしてるじゃないか」
がんばって言葉を尽くしてみた。この世の褒め言葉、怖すぎるから、言葉選びも必死である。
どこまでがセーフでどこからがアウトかわからない。
頼む、セーフであってくれ。
なんだよ口説くだけでこの綱渡り感。
「口も、大きい、ですし……」
……どこが?
実はこの世界、日本のおちょぼ口メイクに近いものがスタンダードだ。全てのパーツが小さくて、広々とした肉付きのいい顔面に、小さいパーツがちまちまきゅっとしているのがイイっぽい。
うーん? いや、おちょぼ口が愛らしいみたいな趣味はそれはそれとして、それと君の口が大きいというのは違うんじゃねぇかな?
俺が首をかしげると、彼女も困ったように首をかしげる。かわいい。
「普通だと思うが? 俺の方がずっと大きいぞ」
俺がパカっと口をあけてみせると、彼女がくすっと笑う。かわいい。
たぶんだけど、顔のバランスなんだよな。
そりゃあ、小豚ちゃん達は顔の面積広々なんだからいろんなパーツが小さく見えるだろう。そうなると小顔のミリーナちゃんは、色々なパーツが大きく見えるのは間違いない。
でも顔立ちもパーツの形も大きさもめちゃくちゃ綺麗なバランスだ。
ぱっちりとした黒目がちな目はかわいいし、細いあごも、柔らかそうなほっぺも、形のいい唇も、全部かわいい。
「俺は、君の顔はかわいいと思う」
何度でもはっきりと彼女に伝える。だって俺は超絶イケメンだから許されるのだ。
あと、この国の褒め言葉、俺には難しすぎる。ストレートにすぱっと褒めるのが一番。
ストレートすぎて嫌味に取られかねない可能性もあるが、それはもう、受け取る側が卑屈なのが悪い。……やべ、この子、卑屈だった。
冷や汗がダラダラ出る。
でも意外にも、彼女はおそるおそる俺に尋ねてきた。
「……ネズミは、かわいい、ですか?」
「は? あ、ああ」
「トカゲも、ヘビも、カエルも、ですか?」
「そうだな。かわいいな」
「目元が、ですか?」
「目もかわいいが、目と口のあの配置は愛嬌があっていい」
真顔で頷いていると、彼女はぽかんとして、それから、おそるおそる首をかしげた。
「……猫、は……?」
猫。ああ、猫な。
猫、この世界では、めっちゃ嫌われてるんだよ。悪魔の使いってな。割と物語でも悪者扱いで、不吉な動物とされている。嫌われている動物の象徴だ。
でも、この国いる猫、美猫ばっかりなんだよ。目がぱっちりしてて完全に美少女顔だ。めちゃくちゃかわいいのに嫌われていて、マジで理解できない。
つまり、この世界の猫というのは、彼女のような……。じっとミリーナちゃんを見る。
「猫は、家で飼ってずっと側に置いておきたいくらい、かわいいな」
真顔で頷くと、クスリと彼女が笑った。
「ゴンザレス様、変わったご趣味ですね」
クスクスと彼女が楽しげに笑う。
「わたくしの顔、きもちわるく、ないのですか?」
笑っている顔がほんの少し泣きそうに震えて、自分で前髪を開いて目元を見せた彼女が、俺を真っ直ぐに見た。
「かわいい。君は、とてもかわいい」
「ありがとう、ございます……」
彼女は、俺を見たまま、うれしそうに笑って、ぽろぽろ、ぽろぽろと涙をこぼした。




