美少女がゴブリン令嬢と呼ばれる世界
そして今日も夜会帰りに、美少女……この世ではかなり不細工に位置するゴブリン令嬢と揶揄されている少女を見つけてしまい、俺は固まった。
やべぇ!! この世界のゴブリン、とんでもなく美しい可能性でてきた……!!
隠れている美少女と、目が合った。
トゥンク。これが恋の予感?!
今まで何度か見かけたことのある女の子だ。十代半ばから後半。同年代で、いつも人から粗雑に扱われている。
ゴブリン令嬢と呼ばれていることは知っていたが、この世界が美醜逆転と知った今は、正真正銘、彼女の容姿を揶揄する意味で使われていたのだと気付いた。
見かけるたびに不愉快でその呼び方を叱責してきたし、嫌がらせしてた奴らを追い払ってはいたけど、彼女自身とは交わす言葉も一言二言で、まともに声をかけたことはなかった。
だってこのゴツくてでかくて強面凶器みたいな俺が近づいたら、絶対びびるだろ? 下手に声かけたら、いじめていた奴ら以上に怖がられる案件じゃん!!
と、思って、こんなかわいい子を怖がらせたくなくて、今まで近づいたことがなかったんだけど。
だがしかし。俺は美形である。
大事なことなのでもう一度声を大にして言う。
俺はこの世界で美形だ。ゴリラの中でもイケメンゴリラ顔だ。数多のイケメン顔の中でも、この国一番の美形と言われる男である。
……やべ。これはイケるんじゃないか?
俺は、人生イチ、爽やかイケメン顔を気取って声をかけた。
「……君、そんなところでどうしたんだ? 大丈夫か?」
イケメンを自覚した俺は強い。
俺は堂々と一人片隅で隠れている美少女に声をかけた。
なんせ彼女は子豚ちゃんじゃない、唯一の恋愛対象である。気合も入るというものだ。
え? ギリ普通体型の範疇に入る下級貴族がいただろって? あー! あー! きーこーえーなーいー!!
俺は! 美少女と! 知り合いになりたい!!!! どうせなら!! かわいい女の子がイイ!! この世界でしか通用しない、この最強美形イケメンゴリラ顔を!! 最大限に!! 活かしたい!!
彼女は、ぽーっと俺を見ていたが、声をかけるなりハッとして顔を隠すようにうつむいた。
目元を隠す前髪、顔の輪郭を隠すように頬に添えられた手、細い身体を隠すように丸まった背中。
意味がわかれば、彼女が自分の容姿を恥じていることがわかってしまう。
こんなにかわいいのに、この世界では、彼女は醜いと言われているのだ。
ぱっちりとした大きな目はギョロギョロとして気持ち悪いと言われ、あごが細くすっきりとした綺麗な輪郭は、細くてとがったあごが化物のようだと言われ、細い身体は骸骨のようで気味が悪いと言われる。
これまで妬みを含んだ悪口と思っていたこれらの言葉は、全部本気でこの少女にぶつけられていたのだ。
毎度見かけると蹴散らしてはいたが、今となっては、もっとちゃんと関わっていたらと悔やまれる。助けはしても、まともに近づかず、ろくに話しかけもしない俺の態度も、きっと、彼女を傷つけただろう。
だって彼女は、俺の視線から逃げるように身を隠そうとしてるから。
自分の容姿に自信ない気持ちは、俺もわかる。だって俺ゴリラだもん。俺も自分の容姿に自信なかった。それでも堂々としていられたのは、家の権力と、周りも似た感じの不細工ばっかりだったからだ。だから、彼女と相対すると、怖いとか、ゴリラ来んなとか思われたくなくて、近寄れなかった。いや、ゴリラこの世界にいるのか、知らんけど。
本当は、仲良くなりたかった。イケメン気取って、「君は俺が守るから安心して(キラッ)」とかやりたかった。
そして、今、その時が来た。
俺はイケメン。この世のルールがわかったからには、ガンガンいくぜ!!
「だい、……だいじょうぶ、です」
か細くかわいい声が聞こえる。かわいい。
いつも思うが、この子の声は、本当にかわいい。
いつもなら、ここで「そうか、気をつけるんだよ」とかって去っていたけど、今日は、距離を詰めていく所存!!
心配してるのを前面に!! 優しい俺を売り込んでゆく!!
「今日も絡まれていたのか?」
きっと逃げてこの端っこに身を縮込めていたのだろう。
いつも建物の隅に隠れていた彼女を見つける度、心配していたのだ。今日はそこに踏み込んでゆく。きっと許される。伊達に俺はゴリラの中でもイケメンを気取っていない。
「家まで送ろう。……俺はゴンザレス。侯爵家の長男だ」
「わ、わたくしは、伯爵家が三女、ミリーナと申します。……あ、の、お気持ちだけ、ありがたく戴きます。わたくしなどのような者に、あなたのような尊いお方のお手を煩わせるわけには……」
ミリーナちゃんか、名前もかわいいな。
無事自己紹介をして、伯爵家なら縁づくのにも問題はないとか、未来を妄想しつつ、三女? アレ? 長女と次女って……と、記憶を探って、見分けが付かない小豚ちゃんずの中から見分けは難しいとあきらめ、伯爵家の令嬢なのに、ここまで卑屈なの、ヤバくない? と心配でたまらなくなる。顔を隠しながら、焦ってるの小動物っぽくてかわいいけど。
とりあえず、俺は「君はかわいい」モード全開でいこうと思う。そんで、俺はミリーナちゃんの容姿を悪く思ってないって、感じてもらいたい。
俺を、怖がらないで欲しい。
できるだけ、柔らかい声になるように気をつける。慣れないことだけど、俺はやれる。だって俺、国宝級美形だしな(そこまで言われてない)。
「君だって、尊い伯爵家の令嬢ではないか」
「わ、わたくし、は……っ」
「いつも、気になっていたんだ。こんなに小さくてすぐに壊れてしまいそうなのに、一人でがんばっていただろう? 君の助けになりたいと思うのは、迷惑だろうか」
「そんな……!!」
悲しそうな素振りをすれば、釣れた。よし。イケる。
ぱっと顔を上げたミリーナと目が合う。大きなぱっちりとした目が俺を見た。その瞬間、慌てて顔を伏せた。
「どうかしたのか?」
「も、申し訳ございません……!!」
何が??
「私のような者から見られると、気持ち悪かったですよね……!! 申し訳ございません!!」
嘘だろ? この美少女がそこまで卑屈になるほど?? 今までどんだけひどい言葉をぶつけられてきたんだよ……。泣ける。
俺がこの国基準の美少女たちに子豚だの風船だのボンレスハムだの思ってたのはこの際いい。基本口に出してないし。幸い、どれも、褒め言葉だったし。
え? 待てよ。じゃあ、細くて折れそうとか、悪口になっちゃう感じ?? いや、どうなんだ?? でも可能性あるぞ??
異世界こえぇぇぇ! 何が罵倒になるかわっかんねぇぞ、これ!!
でも、まあ、気持ち悪いとか、見るなとかはダメだ。細かろうが太かろうが、人を傷つけるためにぶつける悪意は不愉快だ。
こんなかわいい子が悪意にさらされるとか、かわいそうすぎる。
え? 俺? 見た目で判断してますが、なにか?
まあ、それはそれ。
とりあえず、このこの状況は把握しておきたい。だって、俺、この子助けるヒーローになりたいし。
持っててよかった最上級の美貌とおうちの権力。
「俺は気にならなかったが、誰かにそんなことを言われたのか?」
「わ、わたくしの目は、きもちわるい、と……」
か細い声は、今にも泣き出しそうに震えている。
わかる、自分の不細工なところ口に出すって、それだけでしんどいよな。
だがあえて。
「見せてもらえるか?」
「お、おゆるし、くだ、さい……!!」
無理に見たら、泣いてしまいそうだな……。しかし。
「ミリーナ嬢、見せて欲しい」
問答無用に彼女の手を押さえて顔を上げさせた。
ぱっちりとした目が少し伏せられ、潤んだ目元から涙が一筋こぼれた。
「君の目は、とても綺麗だな」
「……え?」
伏せていた目が上目がちに開いて俺と目が合う。途端にまた伏せられる。
まつげが長い。前世の人形(やたら美人なドール)みたいなバッサバッサの目だな。ノーメイクでこれはすごい。
ちっちゃい顔に、大きな目は、前世のアイドルのようだ。
褒め殺しにする気満々でいたけど、そんな浅知恵吹っ飛ぶくらい、かわいい。
「……かわいい」
ヤバ。思わず声に出た。
慌てて手で口を塞ぐと、ぽかんとした顔で彼女が俺を見た。
お。これはいけるか? よし、俺のイケメン顔が唸るぜ! 笑顔なんかつけちゃったりして、大丈夫?
「前から思っていたが、君は、かわいいな」
「……え?!」
彼女の顔が真っ赤になった。
うおぉぉぉぉ!! イケメンゴリラ顔効果、すげえぇぇぇぇ!
ミリーナちゃん、かわいいーーー!!




