受け入れるには、時間がかかる
なんということでしょう。
美醜逆転とか、なんの冗談……。
この世界の真実に気付いたその夜、俺は寝込んだ。
アホみたいに丈夫な身体の俺が寝込んだことで、家族には心配をかけた。
ア●パ●マ●みたいな姉と母が心配そうに見舞いをしてくれ、父が割れあごの濃い顔で、優しく微笑んで頭を撫でてくれた。
世界が濃すぎて、俺は目を閉じた。
よもや大人の仲間入りした十代後半にもなって、常識が覆る現実と対面するとは思いもしなかった。
ずっとブサイクだと思っていた自分が実は美形だと気付いてしまった。なんだよこの罰ゲーム。
この割れあごイケメンゴリラ顔が、最上級のイケメン、だと……?
ゴリラの中ではイケメンだと自認はしていたが、まさか人類のなかでもイケメンだとは思うまい。
俺の親族集まったら、割れあごの濃い男連中勢揃いで心底むさ苦しいんだが、アレが? 最上級の? イケメンの? 集まり……?
アレが……?
しかもあいつら揃いも揃ってナルシストで、めちゃくちゃ服がフリフリして胸元チラ見えしてて、キモいんだぞ?? アレが??
俺が首まできっちり絞まるシャツを好んで着るせいで
「お前は硬いなぁ!! ははは!! その堅物具合が、また世の女性を虜にするんだろうな!」
とか言われてたけど、もしかして、マジで本気で言ってたりした……?
あの胸元チラ見えのフリフリ、もしかしなくても、セクシーアピールとして、成功してるヤツだったりするのか……?
地獄が深まってきた。
嘘だろう……?
そりゃ、俺が人を見た目で判断しない、女性に興味も見せない硬派な男扱いになるわけだよ……。
バカ言うな。思いっきり見た目で判断してたわ。子ぶたに言い寄られても、興味わかなかっただけだわ。
「○○家のお嬢さんの腕とか、まるで赤ちゃんの腕のようにぷにっとしてらして、本当に愛らしいこと」
なんて紹介されても。
ああ、あの輪ゴムを二段付けた腕な。乳児の輪ゴムはかわいいが、十代半ばの輪ゴムの腕をかわいいと思う趣味はないわ!! 痩せろ!! お前の健康のためにも痩せろ!!(*輪ゴム:赤ちゃんのぷにぷにの腕の脂肪が段になって輪ゴムを嵌めているように見えること)
「確かにこんな風にふくよかな腕は、赤ちゃんくらいしかいないと思っていました」
としか、返しようがないだろう!!
そこで、キャッと頬を染めて照れる子ぶたに、何を思えと!!
ふくよかな腕という返答が、頬を染めるほどの褒め言葉になるのか。そうか……。
という、常識のギャップに、喋るのが怖くなったこれまでの日々。
そしてどう考えても暴言なのに喜ばれるって事は、何が地雷かわからないということで、無言を決める。という無限ループで、俺は無口な硬派、喋るとさらっと洗練された褒め言葉を言う貴公子……という評価になっているらしい。
褒めてねぇんだわ。
貴族の遠回しトーク、怖い。
これまでの日々で、容姿に関して疑問に思っていたあれやこれやの謎が解けてゆく。
俺がうらやましいほどイケメンと思ってた伯爵家三男の友人。
「君がうらやましいよ」
なんて言われて、ふざけんな、うらやましいのはこっちだ。って思ってたけど、細いのがコンプレックスなのも、女顔が嫌だつってんのも、男としてわからんでもないし、俺が体格に恵まれてるのも事実だし、いかにも男らしいゴリラ顔だし、コンプレックスってそんなもんだよな、と、下手に自分を卑下するのも、あいつの容姿を褒めるのも違うと思って、容姿には言及せずに励ました事とか。
……セーフ。ギリギリセーフ!! 自虐慰めしてなくてよかった!!
そもそもこの世界、ゴリラいるのか?! ゴリラいたら、イケメン動物って、大盛り上がり必至じゃねぇか!
美醜逆転つっても、決定的に美醜の価値観が違うというわけではないのが、また微妙なところで。
例えば、男だと鼻筋が通ってるだとか、彫りが深いだとか、左右対称の美しさだとかは、前世の美醜基準と変わってなかったり、理解の範疇だったりするものもあるんだよ。
そこに、毛深いだとか、顔が四角いだとか、その中でも割れあご最高だとか、骨張った顔の骨格がいいとか、たぶん、そのあたりが加わってくることで俺のドン引き要素が加わるわけだ。
だから、美形とされる傾向はある程度わかるけど、細かい美醜の感覚は、俺には全くわからない。




