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異世界釣り日誌 ―魔王討伐を拒否して、神から授かった万能釣り道具で、世界中の水辺を旅する放浪スローライフ―  作者: echo
1章

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1話 魔王討伐よりも、釣り

マズメ:夜明け前後と日没前後の、魚の活性が急激に上がる時間帯。

ルアー:金属などで作られた疑似餌。

フィッシンググリップ:釣り上げた魚の口を挟んで持ち上げるためのツール。

プライヤー:釣りに特化した多機能なペンチ。

ロッド:釣り竿の事です

そう。俺は、死んだ。


時間は午前五時を回ったところだったか。

愛車の軽ワゴンは、国道を滑るように走っていた。助手席には、昨日届いたばかりの新作ルアーが、パッケージの中で出番を待ちわびて輝いている。

 フロントガラスの向こう、空に浮かぶ雲が僅かに黄色くなり始め、群青色の闇がゆっくりと溶け出していく。


「朝イチのマズメは、あのポイントだな……」


 俺の心は、これから始まる至福の時間への期待で満ち溢れていた。


その時だ。急カーブの向こうから、猛スピードでセンターラインを越え、逆走してくる、いかにも輩が乗っていそうな、黒塗りのワンボックスカー。


「っ、おい――!?」


ブレーキペダルを床まで踏み込む暇もなかった。

次の瞬間、視界が真っ白に染まり、潰れるフロントガラス、ひしゃげる鉄板の嫌な音が全身を貫いた。

俺の軽ワゴンが紙屑のように丸まっていく、スローモーションのような感覚の中で、最後に頭に浮かんだのは


「ああ、あのルアー、まだ一度も投げてねえな……」


という、呆れるほど呑気な、そして釣り人としてあまりに切ない未練だった。






次に目を覚ますと、そこは真っ白な、重力すら感じられない空間だった。

目の前には、自らを神と名乗る怪しいおっさんが立っていた。

死に際には、三途の川の向こう側に先祖たちが手招きしているのが見える、なんて話をよく聞く。目の前の男に覚えはないが、もしかしたらはるか遠い、先祖のそのまた先祖かもしれん。

「まだこっちに来るな」とか言って、元の世界に押し返してくれたりはせんのか……。

そう考えると俺はまだ死んでないのでは? とも思ったが。


「……お主、もう死んでおるぞ」


心を読まれたのか、全く信用できないが自称神の言うことをとりあえず信じることにした。


「あ、やっぱり。あのワンボックス相手じゃ、俺の軽じゃ無理ですよね」


五体満足で立っている自分に違和感を覚えながらも、俺は意外と冷静だった。


「死んだことは理解したようじゃな。お主に頼みがある。これからお主をアステリアという大陸に送る。そこでは今、魔王という邪悪な存在が復活し、世界を闇に包もうとしておるのじゃ」


ああ、RPGでそんな設定のゲームあったな

いろんな世界線があるとされているし、実際、はるか昔に何かがちょっと違っただけで、そういう過酷な運命を辿る世界線になることもあるんだろう。


「はぁ、大変そうですね」


「他人事のようじゃな。その世界にはいくつかの国があるが、中心となる王国は腐敗し、王たちは私利私欲のために民から重税を搾り取っておる。騎士たちは疲弊し、魔王に立ち向かう力も残っておらん。お主にはそこで、魔王を討伐してもらいたい。そのための特別な能力を一つ授けよう」


「魔王討伐? いや、無理です。絶対嫌です」


俺の即答に、自称神の顔が固まった。


「な、なんじゃと? 聖剣でも魔法でも、好きな力を一つ選べるのだぞ?」


「剣とか魔法なんて使い道わかんないし、疲れるだけじゃないですか。俺、二十八年間、仕事と釣りの往復だけで生きてきたんですよ。セカンドライフくらい、好きなことだけしてたいんです」


「好きなこと……?」


「釣りですよ、釣り。もし異世界に行けってんなら、魔王を倒す剣じゃなくて、一生釣りに困らない道具をください」


神様は呆れ果てたように溜息をついた。だが、俺の釣りバカぶりに毒気を抜かれたのか、やがてニヤリと笑った。


「ふむ。他にも転生者は送っておるし、お主のような変わり種が一人くらいいても退屈はせんか。よかろう、お望みの道具を授けてやろう」


そう言って渡されたのが、足元に置かれた一つのカバンだった。


「このカバンが釣り道具ですか?」


足元に転がった、くたびれた布製のショルダーバッグ。お世辞にも神が用意した道具には見えない。


「その通りだ。そのカバンはお主が思い浮かべた釣り道具を自由に取り出すことができる」


「やば!」


思わず声が漏れた。脳裏には、現役時代に喉から手が出るほど欲しかった高価なロッドや、リールの数々が、それらがすべて、願うだけで手に入る? 魔王を倒す聖剣よりも、俺にとってはよっぽど価値のある最強の武器に思えた。


「容量はどれくらい入るんですか?」


「釣り道具であればなんでも入る。容量は気にしなくていい」


マジか!じゃあ、予備のラインも、ルアーボックスも、重たいおもりも、全部詰め込めるってことか。遠征のたびにパッキングで悩んでたあの苦労は一体なんだったんだ……


釣り人なら誰もが経験する荷物の重さという呪縛。そこから解放されると知った瞬間、俺の脳内はすでに異世界の未知のポイントへのシミュレーションで埋め尽くされていた。

 だが、ここで一つの懸念が浮かぶ。


「じゃあ、釣った魚はどうするんですか?」


「カバンから釣りで使う入れ物を出せばよいじゃろ」


「それだと結構な荷物になりません? 別の世界の魚がどれくらいの大きさかわかりませんし。いっそのこと、魚も直接入れられるようにしてくれません?」


俺はここぞとばかりに食い下がった。

釣った魚を新鮮なまま持ち帰る。それは釣り人にとっての矜持であり、同時に最大の悩みでもある。巨大なクーラーボックスを抱えての移動は、スローライフどころか苦行だ。

ここで引いちゃダメだ。神様が機嫌を損ねる前に、利便性を極限まで高めておかないと!


神様は、眉間にしわを寄せて俺を見下ろした。その目は「こいつ、本当に世界を救う気ゼロだな」と呆れ果てているようだったが、同時にどこか、欲望に忠実な俺を面白がっているようにも見えた。


「全く、わがままな奴だ。仕方ない、魚も直接収納できるようにしてやる。鮮度もそのまま、時間も止まるような設計にしてやろう」


「ありがとうございます!」


やった。勝利だ。

 無限のタックルボックスに、無限のクーラーボックス。これでもう、俺の旅を阻むものは何一つない。


「もうこれ以上は聞かんからな! さっさと行け!」


神様が指を鳴らすと、真っ白だった世界がゆっくりと暗転し、深い闇へと落ちていった。




「う、お……」


まぶたを叩く陽光に目を細めながら、ゆっくりと身体を起こす。

鼻をくすぐったのは、元の世界では感じたことのない、さわやかな草の匂いだった。


「ここが、別の世界か……」


周囲を見渡せば、そこは草原だった。

 遠くには天を突くようにそびえ立つ、巨大な樹木。その葉は元の世界のどれとも違う、異様に濃い緑色をしている。空気は驚くほど澄んでおり、都会の排気ガスに慣れた肺が、あまりの酸素の濃さに驚いているようだった。遠くからは、聞いたこともない鳥のさえずりが聞こえてくる。


だが、今の俺にとって、この世界の絶景だの魔王だのはどうでもいい。

まず確認すべきは、唯一の相棒だ。


「あった。これだな」


足元に、あのおっさんから手渡されたカバンが転がっていた。

見た目は、少し使い古されたような、布製のショルダーバッグだ。大きさは一般的な通学カバンより一回り大きい程度。正直、ここにロッドだのリールだのがすべて収まるとは思えないが。


「まずは、ロッド……一番使い慣れてるやつがいいな」


半信半疑のまま、カバンの中に手を入れ、高校生のころから愛用していたのルアー用のロッドを思い浮かべる。

すると、指先にひんやりとした、しかし慣れ親しんだ硬質な感触が触れた。


「マジかよ……!」


引き抜くと、そこには2ピースのロッドが、完璧な状態で収まっていた。カーボン特有の織り目、グリップの質感、そのすべてが俺の記憶通りだ。

 続いて、リール。これも思い浮かべるだけで、カバンの奥から手に吸い付くように現れる。

 さらに、ライン、お気に入りのルアーが詰まったボックス、フィッシンググリップやプライヤーまで。


「本当に何でも出てくる。しかも、俺の持ってたやつだけじゃないな、これ」


試しに、現役時代には手が出せなかった最高級モデルのロッドを想像してみると、それすらも新品の状態で取り出すことができた。

 釣り人にとって、これ以上の天国があるだろうか。

 一生、釣具のメンテナンスや買い替えに悩む必要がないのだ。


さらにおっさんの「おまけ」も確認する。

 万能釣り道具のカバンの底は無限に繋がっているのか、腕を突っ込んでも底に触れない。ひんやりとした冷気が漂っている。ここに釣った魚を放り込めば、鮮度を保ったまま運べるというわけだ。


「さて……」


道具の確認を終えた俺の耳に、さらさらという心地よい水音が届いた。

草原の先には、日の光を反射してキラキラと輝く大きな湖が見える。


「まずは一投、試させてもらうか」


俺はワクワクを抑えきれず、カバンを肩にかけ直し、湖畔へと歩き出した。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

趣味の釣りで新しいの書くことにしました。

できるだけ初心者や、やったことない人でもわかるように書きます

用語については一応前描きに簡単な説明を書くようにします

これを読んで釣りに興味を持ってくれると嬉しいです

そして、釣りをすると、この万能釣り道具が釣り人からしたらどれだけ素晴らしいものなのかわかるようになります。

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