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異世界釣り日誌 ―魔王討伐を拒否して、神から授かった万能釣り道具で、世界中の水辺を旅する放浪スローライフ―  作者: echo
1章

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12話 釣に嵌る勇者

ふと意識が浮上したとき、視界に飛び込んできたのは、高く昇りきった太陽の輝きだった。

 正確な時刻を知る術はこの世界にはないが、あの「太陽っぽい何か」が真上にある以上、おそらく正午を回っている。


「……うわ、マジか」


身体を起こすと、すぐ近くでルフィリアもハッとしたように跳ね起きた。

 昨夜、眠りにつく前は、彼女が「私が朝まで見張っております」と勇ましく宣言していたのだ。だが、俺はそれを制した。役割は違えど、お互いの命を預け合う仲だ。負担は平等であるべきだと、交代制を提案したのだが……。


結局、異世界の極上料理と満腹感、そして釣りという新しい刺激に当てられた俺たちは、二人揃って泥のように眠りこけてしまっていた。


「すみません、和真殿……! また寝過ごしてしまいました。失態です」


ルフィリアが真っ赤な顔をして、自らの不甲斐なさを断罪するように拳を握りしめる。


「いいって。しょうがないだろ、眠いもんは眠いんだ。何なら提案した俺も爆睡してたんだし、どっちもどっちだ」


「ですが、やはり少し気にしてしまいます。もし寝ている間に魔物が現れていたらと思うと」


「めんどくさい奴だな、ルフィリアは。そんなに自分を責めて何になるんだよ」


俺が呆れたように溜息を吐くと、ルフィリアは「ううっ」と唸りながら眉を寄せた。


「また、そんな酷いことを言わないでください。私は真剣に反省を――」


「お互い様。次からは気をつけましょう。これくらいでいいんだよ、反省なんてのは。」


「そういうもの……なのでしょうか?」


「そういうもんだよ。人生は意外とうまくいくようにできているもんだよ。お互い寝たことにもなんかよくわからん運命だか定めがうんたらかんたらでそういう感じだ。」


自分で言っていて適当すぎるなと思ったが、ルフィリアは少しだけ肩の力を抜いた。


「……全く伝わってきませんが、和真殿がそう仰るなら、そういう事にしておきましょう」


「それでいい。よし、とりあえず俺はまた街のギルドに行ってくる。昨日出した月光マスと瑠璃魚の競りの結果を聞きに行かなきゃならないからな」


昨日の前払い金だけで金貨九枚だ。正式な結果となれば、一体どれほどの額になるのか。期待半分、恐ろしさ半分といったところだが、確認しないわけにはいかない。


「和真殿、少しお待ちください」


俺がエレクトラの街へ向かおうと背を向けた時、背後からルフィリアの声が響いた。

 振り返ると、彼女はもじもじと指先を弄りながら、しかしその瞳はどこか熱を帯びて俺を見つめていた。


「……待っている間、昨日教えていただいた釣りをしていてもよろしいでしょうか?」


その言葉に、俺は思わず口角を上げた。


「なんだ、気に入ったのか?」


「はい! とても! 」


彼女の顔には、もう寝過ごしたことへの罪悪感はなかった。代わりに、未知の領域へ足を踏み入れる開拓者のような、純粋な好奇心が溢れている。


「それはよかった。ほら、昨日のセットだ」


俺は万能釣り道具から、昨日彼女が使っていたロッドのセットと、練り餌を渡した。


「餌は小さく丸めて針に付けるんだ。あと、無理はするなよ。」


「はい! ありがとうございます、和真殿! 」


鼻息を荒くするルフィリアを河原に残し、俺は再び、エレクトラへと向かって歩き出した。







目的に到着しギルドの扉を潜ると、そこには独特の熱気と、どこか殺気立ったような空気感が漂っていた。


昨日と同じ受付カウンターへと歩を進めると、ふいに一人のギルド職員と目が合った。

「あっ!」

 彼女は俺を見つけるなり、こちらを指差して声を上げそうになった。……が、何かを思い出したようにすぐさま、俺が何かを言う暇もなくバタバタと奥の部屋へ消えていった。



その瞬間、妙な記憶がフラッシュバックする。

 学生時代、クラスであまり話したことのない女子から手を振られ、「え、俺?」と戸惑いながらも一応振り返した。だが、実は彼女が手を振っていたのは俺の真後ろにいた別の女子だった……という、あの何とも言えない恥ずかしさだ。


俺の場合は、その後、ネタになって仲良く話す仲になれたが、人によっては一生もののトラウマになりかねない苦い記憶だ。



待っていると、少しして先ほどの受付嬢が戻ってきた。その後ろには、ギルド長がいた。

 ギルド長は俺の姿を認めると、無言で手招きし、そのまま昨日とは違う、防音の施された裏の応接室へと俺を呼び込んだ。


「おお、よく来たな。待ちかねていたぞ」

「まぁ、他にやることもなかったんで。」


俺が適当な椅子に腰を下ろすと、ギルド長は机を挟んで向かいに座り、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「そうかい、タイミングがいい。ちょうどさっき、全ての競りが終わったところだ」

「それは本当に運がいい。で、結果はどうだったんですか? 昨日の前払いからして、結構期待してるんですけど」


俺の言葉に、ギルド長は重々しく頷き、足元からずっしりと重そうな、少し大きめの革袋を取り出した。それを机の上に置くと、ドサリと鈍い衝撃音が響く。


「これだ。確認してくれ」

「これは……?」

「すべて金貨だ。今回の競り落札額から、うちの手数料と、昨日渡した前払い分を差し引いた残り……。しめて、金貨340枚だ」


「340枚っ!?」


思わず椅子から腰が浮きそうになった。

 昨日もらった9枚ですら、ルフィリアが騎士団の給料三ヶ月分だと震えていた額だ。それが340枚。一気に小金持ちどころか、この街で一生遊んで暮らせるレベルの資産家になってしまった。


「ああ、俺も驚いたんだがな。競り会場の貴族どもときたら、まるで戦場だったぞ。『それは私の晩餐会の目玉だ!』『いや、私の方が先に値を上げた!』ってな。瑠璃魚の鱗と、月光マスの骨……そいつを巡る魔道具師たちの争いも凄まじかった」


「本当に、そんな感じになるんですね。」

「それだけ、お前さんが持ち込んだものが規格外に凄いものだったということだ。鮮度も、希少性もな。正直、エレクトラのギルド始まって以来の最高落札額かもしれん」


ギルド長は感心したように俺を眺め、それから真剣な眼差しで身を乗り出してきた。


「というわけで、和真。これからも良い獲物が手に入ったら、真っ先にうちへ持ってきてくれ。頼むぞ」


商売人としての鋭い光を放つその言葉に、俺は革袋の重みを感じながら、ゆっくりと口を開いた。


「ああ、そのことなんですけど。……ちょっと相談がありまして」


「なんだ、もう持ってこないのか?」


ギルド長が、まるで最愛の孫に去られるような、あるいは金の卵を産む蛾を逃すような、なんとも言えない寂しげな顔で身を乗り出してきた。


「一応旅人なので。一つの場所に定住する予定はないんですよ」


俺が淡々と答えると、ギルド長は深いため息を吐き、椅子の背もたれに深く体を預けた。その拍子に、豪華な椅子がギシリと音を立てる。


「それは、残念だ。エレクトラ始まって以来の逸材だと思ったんだが。まぁ、旅人というものはそういうものか。風の向くまま、水の流れるまま、か」


「ええ。なので、またどこかで何かご縁があったら、ということで」


「ふむ。分かった。無理強いはせんよ。だが、これだけは覚えておけ。お前さんが持ち込む魚は、この街の経済を動かすだけの力がある。どこへ行っても安売りするんじゃないぞ」


ギルド長はそう言って、机の上の革袋を顎でしゃくった。340枚の金貨。重すぎて片手では持ち上げられないほどの「ロマンの対価」だ。


「ありがたく頂いておきます」


俺は革袋をしっかりと抱え、応接室を後にした。


ギルドのホールに出ると、先ほどの受付嬢がまた「あ、あの!」と声をかけてきたが、俺は軽く片手を挙げて応えるだけで、そのまま足早に外へ出た。今度は後ろに誰もいないことを確認してからだ。


外は相変わらずの活気だが、懐の重みが昨日までとは違う。

ルフィリアを待たせている。金貨340枚なんて話したら、彼女は今度こそ気絶するんじゃないだろうか。


そんなことを考えながら、俺は彼女が釣りをしているはずの河原へと向かった。









遠くからでも、彼女の姿はすぐに分かった。

銀髪を揺らし、不慣れな手つきながらも必死にロッドを構え、水面を凝視している。


「あ、和真殿! お帰りなさいませ!」


俺の姿を見つけるなり、彼女はパッと表情を明るくし、大きく手を振った。


「どうだ、釣れたか?」


「それが……和真殿! 見てください!」


彼女が指差したバケツの中には、またしても信じられないような光景が広がっていた。

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