63話 フランケンシュタインの館
ヴィクトリアの母に招かれて一行は屋敷の中へと入る。煙は窓が開け放たれているのでいくらかましになってきた。
豪奢なシャンデリアが大理石を照らし、奥には二階へ続く階段が。古城の醸し出すたたずまいに一行が目を見張ると、ボーンボーンと辺りに響く音でびくりと肩を震わせる。
壁際の天井まで届く柱時計の時報だ。ぴたりと音が止むと、コチコチと時を刻み始める。
「さあみんな、長旅で疲れただろ? お茶を入れるから食堂へ」
母が食堂へ案内しようとしてはたと気づき、くるりと振り向く。
「そういえば自己紹介がまだだったね。あたしはヴィクトワールだよ」
よろしくねとウインクをひとつ。傍らで父がこほんと空咳を。
「私はヴィクター・フランケンシュタイン十五世だ。かの名門フランケンシュタイン一族の末裔である。我が一族の歴史は――」
「あんたはいつもムダな長話するから!」
ヴィクトワールがばしっとはたいたので、モノクルがぽろっと外れた。
「先ほども自己紹介しましたが、わしはヴェルフェゴールですじゃ」
「私はリリアです。生徒会で書記を務めてます」
「ワタシはテンだヨ。会計を担当してるネ」
「俺は真壁です。雑務係やってるっす」
最後にエリザが前へと進み出る。
「学園で風紀委員長ならびに一行の警護を務めるエリザです。お見知りおきを」
ぺこりと頭を下げるが、勢いが良すぎたのかぽろりと首が外れた。
エリザがわたわたと首を拾おうとするが、ヴィクターが拾うのが早かった。
「こ、これはどういう原理なんだね!? 首が取れてもまだ生命活動が維持できているとは!」
「接合部は磁石になってるのかい?」
夫婦揃ってエリザの頭部を仔細に観察する。
「あ、あの……私はもともと首無し騎士なので……できれば元に戻していただけるとありがたいのですが」
ヴィクターの手のなかでエリザが戸惑いながら。
「とーちゃん、かーちゃん! まずはボクたちの話を聞いてよっ」
娘のひと言で夫婦揃ってはっと我に返る。
「そ、そうだったね。まずはお茶にしましょう!」
◇◆◇
食堂に通された一行はそれぞれ食卓につく。すると、がしゃんがしゃんと音が。
全員が音のするほうを見ると、そこには四足で歩く機械仕掛けのトレーがカップを乗せながらやってきた。
「最近発明したばかりの給仕だよ」
ヴィクトワールが自慢げに。
「我々は魔鉱石を使わずに済む機械を発明していてね。これもそのひとつだ」
ヴィクターも腕を組みながら自慢げに言う。
全員に茶が振る舞われると、焼き菓子を手に茶を啜る。
「それで、ここに来たのは魔鉱石についてだったね」
「はい。こちらにいる真壁さんが元の世界に戻るために必要なんです」
ヴィクトワールの問いにリリアが答えた。夫婦揃って「ふむ」と指を顎に当てる。
「まずは事の発端から詳しく聞かせてくれないかね?」
ヴィクトリアが転移装置を発明し、そのせいで真壁が魔界に転移され、それから魔鉱石を探していることをかいつまんで説明した。
「――ということで、爆発してなくなっちゃった分の魔鉱石を探しているんだ」
娘の言葉にこれまた夫婦が揃って「ううむ」と唸る。
「魔鉱石が爆発する性質を持っているなんて聞いたことないねぇ」
「私もだ。おそらく魔鉱石は不安定な分子構造をしているのかもしれん。しかし……」
「しかし?」
ヴィクターがふるふると首を振りながら溜息をつく。
「先祖が代々必死に集めてきた魔鉱石が飛び散ってしまうとは……」
「そ、そりゃボクだってまさか魔鉱石が飛散するとは思わなかったんだよっ。こうしてイタルを元の世界に戻すためにみんな頑張ってるんだからさ……」
「うむ……」
父が真壁のほうを向く。
「マカベくんと言ったね?」
「は、はい。真壁至です!」
いきなり声をかけられたので思わず声が上ずった。
「この度は娘の発明が多大な迷惑をかけてしまったようだね。悪気があって召喚したわけではないが、謝罪させてほしい」
すまないとぺこりと頭を下げ、ヴィクトワールも頭を下げる。
「あ、いや気にしないでください! 最近ここも悪くないんじゃないかって思ってるんで……」
「そうだよ! 学園もイタルが快適に過ごせるよう色々と取り計らってくれてるし!」
「お取り込み中すまないが、魔鉱石を新たに発見するのは困難をきわめると聞きましたのですじゃ。お二人から助言をいただきたく、今回参ったのです」
うむーとヴィクターが髭に触れながら唸る。
「魔鉱石自体、極めて貴重な存在ゆえ、我々も詳しくは知らないのだよ。その性質はいまだに謎が多くてね」
「そういえば世界のどこかに図書館があって、そこに世界中で一冊しかない魔鉱石について書かれた本があるとは聞いたけどね……」
ヴィクトワールが頬に手を当てながら。
「あたしたちよりもっと適任者がいるわけだし、彼に聞いたほうが早いと思うね」
「適任者?」
ヴィクトリアを除く全員が首を傾げる。
「適任者というと……ああ! ヴィクター大じいちゃんか!」
ヴィクトリアががばっと立ち上がったので全員が彼女のほうを見た。
「だいじいちゃんってなんなんだ? ヴィック」
「そりゃ初代のフランケンシュタイン博士だよっ! ほら前に言ったじゃん? じいちゃんはこの世界の転移者の第一号なんだよ」
「そういえばそんな事言ってたな……」
ヴィクトリアの転移装置によってこの世界に飛ばされた際にヴィクトリアから聞いたことを思い出す。
「ちょっと待つネ」
テンが挙手を。
「初代のフランケンシュタイン博士がここに来てから少なく見積もっても三百年は経ってるヨ」
「確かにそうですよね……ということは記録が残っているということでしょうか?」
テンの横でリリアが顎に指を当てながら不思議そうな表情を浮かべていると、夫婦が揃って笑った。
「記録もなにも、フランケンシュタイン博士はまだ存命だよ」
「この屋敷で一緒に住んでるからね」
夫婦の衝撃的な発言にざわざわとざわめく。
「これから博士の部屋に案内しよう。付いてきてくれたまえ」
ヴィクターが席を立ったので全員が慌てて席を立ち、後に続いた。
残された手がかりを手に入れるために――――




