62話 フランケンシュタインの帰還
列車から続々と乗客が吐き出され、入れ替わりに乗客が乗り込むと列車はふたたび汽笛を鳴らしながら煙を上げ、プラットフォームから離れていった。
「みんな、こっちだよっ」
スーツケースを手にしたヴィクトリアがこっちこっちと手を振りながら。
駅舎を出るとそこは石畳が広がり、左右にレンガや石造りの家屋が並ぶ。家屋にはいずれも壁に鉄枠がビスで固定され、金属製の太いパイプが取り付けられている。
また、ドーム状の屋根は鉄板かブリキで出来ているため、鈍い光沢を放っていた。
街を歩いているとときおりどこからか、がしゅんがしゅんと機械音が聞こえてくる。
「すごいな……俺の知っているファンタジー世界とはまた違うぞ」
「ふふんっ。ボクのひいひいそのまたひいじいちゃんが発展させた街だからね☆ ようこそ! ヴェルクハイムへ!」
ばっと両手を広げながら。
「ねぇ、あの子ヴィクトリアちゃんじゃない?」
「ホントだわ。里帰りかしら」
通行人がひそひそと声を交わす。
「ヴィクトリアさんは好かれているんですね」
リリアが周りを見回しながら。
「うむ……じゃが、わしには避けられているように見えるがのぅ」
するとまた通行人のひそひそ声が聞こえた。
「フランケンシュタインの子だわ」
「変人の子がきたぞ」
「近寄らないようにしないと」
ヴィクトリアの周りから通行人がそそくさと避けるように。
「……やっぱここでも変人扱いなのな。ヴィックは。というか、フランケンシュタインの末裔だし」
「むしろ当然の反応で安心したヨ」
「皆さん、ここで固まっては目立って警護に差し障りが出ます。すぐにこの場を離れたほうがよいかと」
エリザが先に進むよう促す。
「それじゃボクに付いてきて! 家に向かうがてら案内するよっ」
ヴィクトリアを先頭にして一行は街なかを歩く。ときおりヴィクトリアがガイドよろしく説明を挟む。
屋台もちらほらと見え、飲食店の類もあれば、野菜、果物、はては機械の部品を取り扱っている屋台もあった。
「賑やかな街じゃな」
「でしょー? もともとこの街はなんにもなかったけど、先祖が代々少しずつ開拓していっておおきくしたんだよっ」
ふんすっと自慢げに胸をそらす。
「ヴィクトリアさんの家まではまだかかるのでしょうか?」
リリアがふうっとひと息つきながら。
「だいじょーぶ! ここまできたらもうすぐ――」
先を続けようとしたところへ、突然爆発音が響いた。全員が音のしたほうを見ると、街の奥のほうに建つ建築物――城を思わせる屋敷の煙突や窓から黒煙がもくもくとのぼる。
あたりを見回すと通行人含め、屋台の店主はまたかとでも言うようにやれやれと首を振る。
「もしかして……いや、もしかしなくてもだけど、あの家か?」
「うん。あれがボクの家だよ」
◇◆◇
依然としてもくもくと黒煙が立ち昇る屋敷の扉が勢いよく開け放たれ、そこからゴーグルを付けた三十代の女性がごほごほと咳き込みながら出る。
「くそ! 薬品の比率を間違えたかな?」
顔は煤だらけで真っ黒だ。手袋のまま、ぱたぱたと煙を追い払うようにすると目の前に誰かが立っているのが見えた。
「だいじょぶ?」
煙と曇ったゴーグルのレンズ越しでは不明瞭だが、その声は聞き間違いようがなかった。
「その声は……」
すぐさまゴーグルを外す。来訪者を認めると目の周りだけ白く痕になった顔がたちまち破顔した。
「ヴィクトリア! あたしたちの最高傑作!」
「ただいまっ! かあちゃん」
久々に帰ってきた娘を力強く抱きしめる。そして屋敷のほうを向いて声を張り上げた。
「あんた! はやくこっちきて! ヴィクトリアが帰ってきたよ!」
すると煙の中から、手で煙を払うようにしてごほごほと咳き込みながら出てきた。
年は三十代といったところか、鼻の下を左右にぴんと上に伸ばした紳士風の細身の男性だ。これまた顔を煤だらけにしている。
「ヴィクトリア!」
「ただいまっ! とうちゃん!」
父も娘を力強く抱きしめてやる。
「元気だったかい?」
「うん!」
「待ってくれ。測定してみよう」
母の横で父が胸のポケットからモノクルを取り出して右目に取り付けた。
そして娘であるヴィクトリアを頭から爪先まで舐めるようにモノクルで覗く。
「脈拍、血圧ともに正常。心拍が少し高いようだが、これは久々の再会による高揚感と見て大丈夫だろう」
「あんたはすぐに機械で測定するんだから!」
ばしっと夫を軽く叩く。
「あいかわらずだね。とーちゃん」
和気あいあいと再会を喜ぶ三人の前にクリスが失礼しますと挨拶を。
「そうだっ! ボクが造った人造人間を紹介するね! クリスって名前だよ☆」
「ご主人様のご両親にお会いでき、光栄です」
メイド服のスカートの裾をつまみながらぺこりと典雅にお辞儀する。
その仕草に両親は目を丸くした。
「すごいじゃないか! こんなになめらかに動くなんて!」
「動力は……これは魔鉱石か!」
「でしょ? 魔鉱石を効率的に各パーツに伝導させることによって――」
「お取り込み中、失礼する」
割って入ったのはヴェルフェだ。
「魔界王立パンデモニウム女学園にて生徒会会長を務めるヴェルフェゴールと申します。副会長のヴィクトリアにはいつも世話になっております」
ぺこりとお辞儀をしながら。
「生徒会の会長さん?」
「会長がなぜこちらに?」
父がモノクルで会長を覗き込むように。
「手紙にも書いたけど、魔鉱石について相談に来たんだよ」
ヴィクトリアが代わりに答えた。
「とにかくみんな入って。ここじゃなんだから中に入って詳しい話を聞きましょう」
母がヴェルフェとその背後にいる一同に中に入るよう促す。




