61話 蒸気列車で行こう!
曇天のなか、ボォーっと煙突から勢いよく煙を吐き出すと機関車は走りだし、駅のプラットフォームから離れていく。
車輪と車輪をつなぐスポークスと呼ばれる棒ががしゅんがしゅんとリズミカルに円を描くように動き、レールの上を進む。
がたんごとんと揺れる車内では車掌がコンパートメントの扉をノックし、「切符を拝見」と乗客から切符を受け取って確認する。
「結構です。よい旅を」
切符を返し、隣のコンパートメントへ。これも扉をノック。
がちゃりと扉が開かれ、そこから姿を現したのは青い髪をしたメイドだ。
「何か御用でしょうか」
その整った顔立ちに車掌は見とれるが、すぐに職務に戻った。
「き、切符を拝見します」
すると用意していたのか、すでに全員分の切符が渡される。
行き先と枚数を確認し、部屋内にいる人数を確認。メイドも含め、間違いなく七人全員揃っていることを確認してから「よい旅を」とその場を後にした。
青い髪のメイド――クリスが全員の切符を返す。
配り終わるとクリスは扉の横で直立不動の姿勢を取った。座席は三人掛けで、対面するように配置されている。
「なあ『ヴェルクハイム』まであとどのくらいかかるんだ?」
ワイシャツの上にジャケットを羽織った真壁が問う。ジャケットは腰の丈まであるのでガンベルトに収めたリボルバーは見えない。
「えっとね、あと一時間ってところだよ!」
ヴィクトリアが地図を見ながら。彼女もまた旅装束に身を包んでいる。
「まだかかるのか……」
真壁が窓枠に肘をかけながらため息をつく。窓の外は荒野が延々と続く。
学園から馬車で出発し、駅のある最寄りの街まで着くとそこから鉄道に乗り換えてやってきたところだ。
「そういえば、ヴィクトリアの故郷を訪ねるのは初めてじゃな。ヴェルクハイムは人間界の街としては魔族に理解があると聞いておる」
ヴェルフェが腕を組みながら言う。
「じゃが……リリアよ。外出着を仕立ててくれたのは嬉しいが、このデザインはどうにかならなかったのか?」
彼女が身に包んでいるのは太陽の光を遮断するケープをもとに仕立てられた服だ。
普段の外出着では光を遮断出来ないのでリリアに作ってもらったのだ。
頭にはボンネットと呼ばれるつば広の帽子を被り、フリルやレースがたくさん付いた服を着ている。
彼女の小柄な姿と相まって人形のような可愛らしい姿だ。
「よく似合っていますよ! 会長!」
そう言うリリアの服も自ら仕立てたものだ。同じようにつば広の帽子を被っている。
「ワタシの服は故郷の服に似てるから気に入ってるヨ」
これまたテンが身に着けている服も古代中国の宮廷衣装のような装いで袖が長く取られている。
頭にはお椀型の帽子の代わりに三角形の笠を乗せていた。
「気に入っていただけて嬉しいです! 皆さんのイメージに合わせて作ってみたんです」
「その理屈で言うと、わしは幼女だと思われていることになるがのぅ……まあせっかく作ってくれたことじゃし、当分は我慢しよう」
「会長、会長はどのような格好をしてもお似合いです!」
扉に近い席に座るエリザが言う。彼女は相変わらず旅装束の上に甲冑を身に着けている。
「うむ……エリザよ。お主にはいつも警護を任せてしまってすまんな」
「とんでもない。私は会長はじめ学園の生徒を守る立場にあります。私の剣は会長を御守りするためにありますから」
胸当ての前でぎゅっと拳を握りながら。
「でも今回ティアが一緒に来れないのは残念だったな。彼女がいれば充分な戦力になったのに……」
「しかたないヨ。彼女は図書委員だから本の整理で大わらわだからネ」
真壁の言葉に女騎士はふるふると首を振る。
「あの泥棒猫の手を借りずとも私一人で充分です!」
どんと胸当てを叩くが、やはりぽろっと首が取れた。
「気合十分なのはわかるが、首が取れるクセはなんとかせんとのぅ……」
「め、面目ありません……」
外れた首を戻しながら言う。
その後はしばらくの間歓談したり、カードゲームに興じたりと時間が過ぎていく。
「んー……こっちか? いやそれとも……」
真壁の手がテンの持つ二枚のカードの上で右往左往する。
「早くするネ」
「わかってるっての」
急かすテンの顔からどちらがババなのか読み取ろうとするが、無表情なので読めない。
「ん〜っ! こっちだ!」
だが、引ったくるように取ったカードは勇者の絵札だ。むろん魔界ではババにあたる。
「だぁーっ! ババかよ!」
「次はワタシの番だヨ」
「あっおい! まだシャッフルしてねーっての!」
真壁が抗議するもテンは何のためらいもなくカードを引き抜く。
「これであがりだヨ」
「クソ! やってられっか! こんなゲーム!」
手元に残ったババを叩き捨てるように投げる。
「まあまあ、それよりもうすぐヴェルクハイムに着くよっ」
真壁が窓を開け、そこから外を見るとヴィクトリアの言うとおり駅のプラットフォームが見えてきた。
レンガ造りのアーチ状をした建築物の駅は正面に歯車をあしらった飾りが付いている。その奥には様々な形の煙突が伸びているのが見えた。
「うおーっ! あれがヴェルクハイムか!」
「うん! ボクの生まれ故郷だよ☆」
真壁の横からヴィクトリアがひょこっと顔を出しながら言う。
一行を乗せた列車は次第にスピードを緩め、がしゅん、がしゅんと音が小さくなると同時にホームに到着した。




