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59話 フランケンシュタインの赤ちゃん④

 

 風呂から上がり、制服からパジャマへと装いを変えたヴィクトリアは寝室へ向かう。

 ベッドにはすでに真壁が眠りについていた。これまた起こさないようにゆっくりと横になる。

 

「おやすみイタル」

 

 そして目を閉じて眠りにつく。



 ――――どのくらい時間が経ったろうか。深い眠りのなか、微かに聞こえる泣き声でヴィクトリアは目を覚ました。

 やはり横では真壁が泣きじゃくっているところだ。


「またか……」

 

 依然として泣き声をあげる真壁を抱きかかえ、よしよしとあやすが、泣き止む気配はない。


「もう勘弁してよぉ……明日また寝不足になったらレポートのおかわりだよ……」


 そこへ泣き声を聞きつけたのか、クリスが入ってきた。


「クリス、なんとか泣き止む方法考えてよっ」

「ご安心ください。こんな事もあろうかと思ってミルクを用意しました」


 そう言ってミルクの入った哺乳瓶を差し出す。


「さすがクリス!」

 

 すぐさま哺乳瓶を真壁の口へと。ニップルと呼ばれる部分を咥えると泣き止んだが、すぐまた泣き声をあげた。


「ええっだめなの!?」


 何度試みてもいやいやと首を振る。


「クリス、どうすればいい!?」

「落ち着いてくださいご主人様。分析してみます」


 クリスの両眼が青く輝き、泣き止まない真壁を観察するように分析を。

 やがて終わったのか、こくりと頷く。


「何かわかったの?」

「ご主人様、真壁様は実物の()を欲しておられているようです」

「ちち……? それってお父さんってこと?」


 クリスがふるふると首を左右に振る。


「違います。ちちとは乳房、つまりおっぱいのことです」

「おっぱい……」


 抱きかかえている真壁に目をやる。


「えっと……ちょっとまって。ボクまだ母乳でないよ?」

「母乳が出なくとも実際に乳首を吸わせれば安心すると判断します」

「そ、それじゃ誰か代わりに……そうだ! クリスがやればいいんだよっ」


 ふたたびクリスが首を左右に振りながら。


「残念ながら私の乳房は人工皮膚です。実物に近い感触ですが、真壁様を安心させることはできません」

「んじゃ生徒会の誰かに……」

「その提案も却下します。ヴェルフェ様とテン様は充分な膨らみが不足しています。リリア様は膨らみは充分にありますが、危険な予感がします」

「じゃだれにやらせればいいのさ!?」


 だが、クリスはそれに答えず、ただまっすぐ創造主であるヴィクトリアを見つめるだけだ。


「……まさか、ボクがやれと?」


 返答のかわりにこくりと頷く。


「ご主人様には程よい膨らみがあります。何より同じ人間として安心させることができる可能性は高いと判断します」

「そ、そう言われても……」


 その時、真壁の泣き声がより大きくなった。


「ご主人様、決断を」


 クリスと真壁を交互に見やり、ごくりと唾を飲み込む。


「こ、今回だけだよ……」


 パジャマのボタンを外すとそこから乳房が露わになる。そして桃色の先端を真壁に近づけると――


「んっ!」


 思わずびくりと肩を震わせる。泣き声は止み、ちゅぱちゅぱと吸う音に取って代わられた。


「泣きやんだね……ちょっとくすぐったいけど」

「脳波の安定を計測しました。これでもう大丈夫だと判断します」


 やがて満足したのか、乳首から口を離してうとうとする。ふたたび眠りに入った真壁を寝かせ、自らも横になった。

 真壁を抱きしめるようにし、やがてヴィクトリアも眠りにつく。


「お二人ともレム睡眠に入られたことを確認しました」


 クリスはこくりと頷き、親子のように眠るふたりに毛布をかけてやったのちに寝室を後にした。


 ◇◆◇


 翌日。


「おいっすー」


 放課後、生徒会室に入るなり真壁が適当に挨拶を。


「呑気なやつじゃのう……二日間赤子になっていた身とは思えんわ」

「当分赤ちゃんのままのほうがよかったヨ」

「無事に元の姿に戻れてよかったです! ……ちょっと寂しいですけど」

「わりーわりー。ていうか、薬のんだ後の記憶がないんだよ。まさか赤ちゃんになってたとはな」

 

 悪びれもせずに頭をぽりぽりと掻く真壁にヴェルフェがふぅとため息をつく。


「二日間ヴィクトリアが面倒を見てくれたのじゃぞ。彼女に礼のひと言くらい言わんか」

「俺がヴィックの部屋で目を覚ましたのはそういうことか。ありがとなヴィック!」

「う、うん……べつにいいよ」

 

 そう言うとヴィクトリアは顔を赤らめながら自らの胸に手を当てた。どくどくと脈打つ動悸が伝わる。

 ちらりと真壁のほうを見ると昨夜のことがまた思い起こされ、じわりと乳首が熱くなる感覚が。

 未知の体験にヴィクトリアは胸に当てた手をぎゅっと握る。


「では全員揃ったから会議を始めるぞ。今日の議題は……聞いているのか? ヴィクトリア」

「へ? あ、う、うんっ! ばっちし聞いてるよ! それで議題はなんだっけ?」

「まったくお主は……もっと副会長としての自覚をもってじゃな……」

 

 その日もいつも通り会議は行われた。そして翌日、ヴィクトリアの両親から一通の手紙が届いた――


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