59話 フランケンシュタインの赤ちゃん①
パンデモニウム女学園食堂――
その日も食堂は学生たちが談笑しながら昼食を摂っていた。
食事を載せたトレーを持ちながら真壁は空いている席を探す。
そこへ「イタルー!」と声をかけるものが。
「よ、ヴィック」
「ここ空いてるから座っていーよ☆」
トレーをテーブルに置き、椅子に腰かける。
その後は談笑しながらの食事といういつものお決まりのパターンだ。
「というわけでバスケを教えてほしいって要望が後を絶たなくてさ」
「そりゃこないだの生徒会対抗祭で活躍したし。まあボクもそこそこ活躍してたけどね。あ、そうそう実は頼みごとがあるんだけど……」
「頼みごと? いいぜ。俺でよければだけど」
ヴィクトリアがやったとガッツポーズを。
「頼みごとってなんだ?」
「それは――」
◇◆◇
「おいおい……まじでここを整理するのか?」
ヴィクトリアの研究室兼自室にて真壁は薬品棚を前にしてこぼす。
棚には大小さまざまなガラス容器に入ったおびただしい数の薬品が並んでいる。
「うん! もういらない薬品を処分するから仕分けしてほしいんだ。はいこれリストね」
処分する薬品が書かれたリストを手渡される。リストには番号と薬品の中身が記載されていた。
「容器にラベル貼ってあるから、リストを見ながら仕分けてね☆ ボクはむこうの棚を整理してくるから」
「はいはい」
ヴィクトリアが別の棚へ向かい、ひとり残った真壁はため息をつく。
「この量じゃ一日で終わらねーぞ……」
手始めに一番上の棚から始めていく。ラベルに書かれた番号を確認し、リストと照らし合わせる。
だが、リストに該当の番号は見当たらない。
「あれ? このリスト間違ってるんじゃないか?」
ヴィクトリアを呼ぼうとしたとき、窓から稲光が轟く。その光を受けた薬瓶のひとつが目に入った。琥珀色をした薬品だ。
気になったのでラベルの番号とリストを照らし合わせて見る。
リストの横には――――
『透明になれる薬』
次の瞬間には素早く手に取り、その場を後にしていた。
その頃、ヴィクトリアは棚から不要な部品を選り分けているところだ。
「ご主人様、このリスト間違っているようです」
クリスが新たに魔鉱石を手に入れたことによって流暢な言葉で話す。
「え? そうなの?」
クリスからリストを受け取って一覧に目を通す。
「あ、ホントだ! これイタルに渡すやつだ!」
真壁に正当なリストを渡そうとするが、すでにもぬけの殻だ。
「あれ? どこ行ったんだろ」
「先ほど部屋を出ていかれました。棚にあった薬品を持って」
クリスが薬瓶が置かれた場所を指さすが、当然ながら消えている。
「クリス、ここにあった薬品って、何かわかる?」
クリスが棚を見回して分析し、すぐに解析が終わった。解析結果を聞いたヴィクトリアはすぐにその場を後にした。
「マズイよ! あの薬は――――」
◇◆◇
一方、真壁はしばらく走ったのちに息を整え、薬品のラベルをもう一度確認する。やはりリストには『透明になれる薬』と表記されていた。
思わずごくりと唾を飲む。
「やべぇ……思わず手に取っちまった」
……どうする? 今ならまだ引き返せるぞ。
ごくりと生唾を飲み込む。
いや、バカか!? 俺は!
「こーいうのは決まってろくでもない結果に……」
だが、そう言う真壁の脳内では透明人間になったときのことを思いを馳せていた。
……よく考えたら、ここ女学園なんだよな。
「……こんなチャンス、二度とないかもしれねーし」
その先に待つ男のロマンに思いを馳せたとき、薬瓶を握る手に力が込められる。
「でも、あいつの発明品だしなぁ……いや、ヴィックを信じろ! 俺も男だ! 覚悟を決めろ!」
きゅぽんと薬瓶のコルクを外す。そして口に付けて傾ける――
頑張れ! 真壁頑張れ! 俺は今までよくやってきた!! 俺はできる奴だ!!
中身が口内へと流れ、そのままごくりと飲み込む――。
「ふぅ……」
半分ほど飲んだところでひと息つく。今のところ変化は見られないようだ。
試しに自分の身体に触れるが、なんの変化もない。
「……失敗作だったのか?」
その時だ。どくんと心臓が早鐘を打ったのは。
「な、なんだ……? これ……」
たまらずに胸を手で押さえるが、その間も心臓は早鐘を打つ。
「ッ! む、胸が……っ! く、苦し……!」
体温が上昇していき、自らの肉体が変化を遂げていくのがわかる。
あまりの痛さに真壁はたまらず叫びをあげた。手にしていた薬瓶が手から落ち、砕け散ると同時に窓から雷鳴が轟く。
◇◆◇
「イタル! どこなの!? 返事してっ!」
ヴィクトリアが真壁の名を呼びながら廊下を駆ける。スカーレットの「廊下は走らない!」の声も無視して。
「イタルー!」
ふと十メートル先に何かが床に落ちているのが見えた。近寄ってみると服のようだ。しゃがんでつまんでみる。
「これって、イタルの制服だよね……?」
ゴロゴロと雷鳴が轟き、制服の下で何かが動くのが見えた。おそるおそるとめくってみるとそこには――
「だぁー」
素っ裸の赤子がはいはいをしながらヴィクトリアに近寄る。
「……やっぱり赤ちゃんになっちゃったか」
赤子となった真壁を抱き上げると窓からふたたび雷鳴が轟いた。




