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間章 テイルズ・オブ・マジックストーン


 人知れずの奥深き辺境の地――

 そこに堅牢な石造りの円形状の建物はあった。

 正面の扉がコンコンとノックされ、しばらくするとそこから胸元まで(ひげ)を伸ばした、老人が姿を現した。

 ローブを身に着けたその姿はまさに賢者という出で立ちだ。


「客人とはめずらしいですな。して御要件は何ですかな?」


 来訪者から目的を聞いた老人は『魔鉱石』という単語を聞くなり、目を見開いた。

 もっとも老人の両目は綿毛のような眉毛に隠れていて見えないが。

 

「なんと、魔鉱石のことを知りたいとは……まだまだ若いのに感心じゃな」


 さあどうぞと来訪者の三人を中へと招き入れる。

 そこは天球儀を中心にして年代物の書架が円形状に並び、革の背表紙の本や擦り切れて古くなった巻物が保管されていた。

 星座や星々が描かれた天井の下、老人は案内を。


「ここには古今東西の書物や地図が保管されていましてな……ここにないものはないと言われているほどですじゃ」

「すごいっス! こんなにたくさん本があるのはじめて見たっス!」


 来訪者のひとりの少女の声が辺りに響いたので読書台にて本を読んでいた学者と研究者が顔を上げる。


「ほっほっほ。元気なのは結構なことですが、ここではお静かに願えますかな?」

「す、すみませんっス!」


 ふたたび読書台から何人かが顔を上げたので、少女はしまったとでも言うように口を押さえる。

 少女の身なりは武闘家なのか、道着を身に着けていた。


「す、すみません……騒がしくしてしまって……リンさん、図書館では静かにしていないとだめですよ」


 リンという武闘家の少女の横で青い髪の少女がぺこぺこと頭を下げながら。

 こちらは対照的に回復士(ヒーラー)の清楚な服装だ。


「僕の仲間が失礼をいたしました。この通りです」


 来訪者のリーダーらしき男がぺこりと頭を下げる。その時、はじめて彼が背中に剣を差していることに気づいた。


「先ほど、ここにないものはないとおっしゃいましたが、魔鉱石に関する書物もこちらにあるのですね?」

 

 若きリーダーの問いに老人がこくりと頷く。


「もちろんです。さ、こちらへどうぞ」


 ◇◆◇


 老人の案内で一行は図書室の奥へと進み、通路に出ると頑丈な錠で閉ざされた扉の前まできた。


「魔鉱石自体稀有(けう)な存在ゆえ、それに関する資料も貴重なのでこうして厳重に保管しておりますのじゃ。ええと鍵はどれだったかな……」


 老人がベルトに通してある鍵束からこれでもないそれでもないと選別を。

 やがて目当ての鍵が見つかり、堅牢な錠の鍵穴に差し込んで回そうと――――


「あ、あれ? おかしいな……この鍵で合っているはずなのじゃが……」

「もしかして経年劣化で錆びてしまったのではないでしょうか?」

 

 回復士の少女、セシリーが錠を見ながら言う。彼女の言うとおり、錠はあちこちが錆びてしまっていた。


「ちょっとどいてください」


 リーダーが扉の前に歩み寄り、背中に差した剣に手を回す。鞘から引き抜かれた剣はランプの光を受けて鈍く光る。


「そ、その剣はまさか……」


 老人が言い終わらないうちに錠は剣によって真っ二つに斬られ、ごとりと鈍い音を立てて落ちた。


「これで入れますよ」


 リーダーが剣をぱちりと鞘に納めながら。

 

「あ、あなたは……いや、貴方様は勇者様であられましたか……」

「ええ……でも僕はその呼び名が好きじゃないんです」


 勇者、レックスはにこりと微笑む。


 ◇◆◇


 老人を残して勇者一行が足を踏み入れたのは書物庫だった。ひんやりとした空気が足元から伝わり、かび臭いにおいが鼻をつく。

 老人いわく、目当ての資料は奥にあるのだそうな。

 

「リン、ここからは僕とセシリーだけで行くからここで待っててほしいんだ」


 レックスが新たに加わった仲間に告げる。


「りょーかいっス! 怪しいやつが入ってこないか見張ってるっス!」


 ばしっと拳を(てのひら)に叩きつけると、見張り番よろしく仁王立ちになった。

 レックスはよろしくと言い置いて先を進んだので、セシリーが慌てて後を追う。


「あ、あの、よろしいのでしょうか? 私たちだけで……」

「狭いところに三人はムリだよ。セシリー。それともイヤかい?」

「そ、そういうわけではないのですが……きゃっ!」

 

 レックスがいきなり回復士の形の良い尻に触ったのだ。


「もうレックスさま!」

「ごめんごめん。それより見えてきたよ」


 レックスが指さす先には確かに魔鉱石に関する書物が納められた書架が。と言っても貴重なためか、やはり数は少ない。

 レックスはそのひとつを手に取り、傍らに椅子があったのでそこに腰かけた。


「セシリー、ここに座って」


 ぽんぽんと自らの(もも)を叩く。セシリーは最初は遠慮するが、レックスが催促するようににこりと微笑んだので結局座ることにした。

 いずれにしても椅子は一脚しかないのでそうするしかないセシリーは失礼しますと言ってちょこんと座る。


「読んでみて」


 そう言ってさっき取り出した本を渡す。


「私がですか……?」


 セシリーの問いに勇者は頷く。


「きみに読んでほしいんだ。きみの綺麗な声は記憶に残るからね」


 声を褒められたセシリーはかあっと顔を紅くする。


「そ、それでは読みますね……」


 ぺらりとページを開く。最初のページは魔鉱石が描かれた絵だ。そばに説明文が書かれている。


「古語で書かれていますね……寺院で少しだけ習ったのである程度はわかりますが」


 文字に細い指を当て、翻訳しながら読んでいく。


『――魔鉱石は太古より存在し、魔力を秘めた石のことである』

「基本的なことだね」


 先を続けてと言われたので続きを読む。


『魔鉱石は永年の時をかけて魔力が浸透され、輝きを放ったときにはじめて魔鉱石と呼ばれる』


 セシリーの背後でレックスはうんうんと頷き、翻訳しながら読んでいるセシリーの身体に手が伸びる。


「きゃっ!」

「どうしたの? 続けて」

「は、はい……『石は魔物の死骸や魔法使いないし、魔導師が戯れに放った魔法の魔力を吸収しているものと……』んッ!」


 敏感な部分に触れられたのか、朗読をやめる。


「だめだよ途中でやめちゃ」

「で、でも……」


 困惑するセシリーの耳たぶに息がふーっと吹きかけられた。

 

「ああっ!」

「ほら、先を続けないと」

「は、はい……」

 

 気を取り直して翻訳を進める。


「『――魔鉱石は数が多ければ多いほど魔力が増大され』んッ!」

「そこは飛ばしていいよ。重要なところだけでいいからさ」

「つ、続けます……『しかし、魔鉱石は構造上、不安定な部分が多く……』」

「どうしたの? セシリー」

「この記述によれば、魔鉱石は衝撃を加えると爆発するとあります……」


 爆発と聞いてレックスはぴくりと眉を動かす。


「なるほど……ブルジア王国で爆発したのはそのせいか」

「はい……それも数が多ければ多いほど爆発の規模も大きくなるようです」

「ふーん……まあ魔鉱石自体レアだからね。大規模な爆発が起きるほどの量なんて……」


 レックスがなんとなく壁のほうを見る。いきなりがたりと立ったので、セシリーは慌てて立ち上がった。

 

「ど、どうしたのですか?」


 だが、レックスはそれに答えず壁の方へ歩く。やがて壁の前でぴたりと止まった。


「これは……」


 ランプで照らすとそこには年代物の羊皮紙が掛けられていた。羊皮紙は天井から床まで長く伸びており、色褪せてあちこちが擦り切れてしまってはいるが、どうやら地図のようだ。


「地図のようですね」

「みたいだね。でもこれは地図というよりは洞窟の内部図みたいだ」


 ランプをさらに近づけ、細部を調べる。左端の洞窟の入口から右端の最奥部まで舐めるように。

 

「これは……」


 レックスが最奥部の部分を指さす。そこには色褪せてはいるが、もともとは淡い青色で描かれたであろう結晶の絵が。

 

「これって……もしかして魔鉱石でしょうか?」


 レックスがうんと頷く。


「魔鉱石に関する資料がここにあるくらいだからこれは魔鉱石がある洞窟で間違いなさそうだね」


 とんとんと地図を指先で叩くように。そしてランプを上に向けると、そこには洞窟の名前が記されていた。

 名前とともに描かれたものを認めたとき、レックスはにやりと口を歪めた。


「さてと、知りたいことは手に入れたし、行こうか。セシリー」

「え、あ、はい……」


 レックスがその場を去ろうとしたのでセシリーも去ろうとする。ふと、気になったことがあり、足を止めて地図の方を振り返った。

 ランプを高く掲げ、レックスが見たものを見ようと――――


「セシリー? 置いていくよ」

「す、すみませんっ。いま行きます!」


 くるりと(きびす)を返して、たたたっと後を追う。

 あとに残されたのは静寂だけだ。壁に掛けられた羊皮紙の地図の上部には洞窟の名前が。


水晶竜(クリスタルドラゴン)の洞窟』


 その名前を(ドラゴン)が枠のように囲んでいた。


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