57話 生徒会対抗祭決着! 残り十秒の攻防戦!
試合時間残り十秒――
ヴェルフェ∶54−54∶アスタリーナ
ビジーのインターフェアにより同点となったヴェルフェチームは真壁のタイムアウトによって休憩を取っていた。
全員タオルで汗を拭き、クリスから渡された水を喉に流し込む。
水をひと息に飲み干したヴェルフェがふぅっと息をつく。
「やっとここまできたな……」
「はいっ! あと一息ですよっ!」
「ボクたちけっこーがんばったからね!」
「そろそろ連戦連敗にストップをかける時だヨ」
「うむ……」
ちらりと時計を見る。残り時間は十秒。そしてインターバルの時間は一分だけだ。
残り十秒で得点を決められるか……?
うぅむと唸り、真壁のほうを見る。真壁は審判たちと二言三言言葉を交わしているところだ。
「――ルール上、問題はありません」
「わかった。ありがとう!」
踵を返してベンチへと戻る真壁の目をヴェルフェは見逃さなかった。
……あやつめ、何か策を思いついたようじゃな。
「みんな、作戦を説明するぞ! 時間があまりないからよく聞いてくれ」
チーム全員がこくりと頷き、真壁の立てた作戦に耳を傾ける。
「……なにか策を弄するつもりですわね」
水を喉に流し込み、タオルで汗を拭いながらアスタリーナが言う。
「ですが、最後に勝つのはあたくしたちですわ。皆さま、最後まで気を抜かずに一点でも獲得しますわよ! 最悪、延長戦に入れば勝機はありますわ!」
キャプテンの言葉にチームが「はい!」と答える。
「――と、これが俺の作戦だ」
作戦を聞き終えたチームは神妙な面持ちだ。
「なるほど……それなら勝てる可能性はあるな」
ヴェルフェが指を顎に当てながら。
「面白い。やったろうじゃん!」
ティアがばしっと拳を掌に叩き込む。
「さすがは真壁殿、いつもながら策士ですね。私も気を引き締めてかからねば……!」
エリザがぐっと拳を握る。
「ああ、みんな頼むぞ。いいんちょ、変身はあと何回できる?」
作戦の要である吸血鬼を見る。
「あと一回というところね……」
血液パックをずずっと飲み干す。真壁はそれに対してこくりと頷く。
「OK。みんな、この作戦は各自がちゃんと役目を果たせば必ず勝てる! 残り十秒で決めるぞ!」
全員がおおっ!と鼓舞するかのように応えた。そして肩に手を回して円陣を組む。
「絶対に勝つぞ! ヴェルフェチームファイオーッ!」
ピーッとホイッスルが鳴り、インターバルの終了を告げた。各選手がコートへと入っていく。
『残り時間十秒です! はたして勝利の魔神はどちらへ微笑むのかー!?』
観客席からはアスタリーナチームとヴェルフェチームを応援する声が半々だ。
アスタリーナチームはビジーをベンチに残して出場する。対してヴェルフェチームはヴェルフェ、テン、エリザ、ティア、そしてスカーレットだ。
ピーッとホイッスルが鳴り、試合の再開を告げる。
ボールはコート外からラウラがスローインで投げ、アスタリーナが受け取った。
「さあソッコーで行きますわよ!」
――残り九秒
ドリブルしながらフロントコートへと突入し、テンとエリザがディフェンスとして立ちはだかる。
きゅきゅっとシューズを鳴らし、素早くあたりを見回す。
その間、どむどむと上下に動くボールに手が伸び――――
「甘いですわね! スティールは対策済みですわよ!」
ヴェルフェからボールを獲られまいとかわす。だが、次の瞬間ボールは手から消えた。
「なっ!?」
「へへっ! 盗みはあたしの専売特許だよ!」
『ティア選手、目にも止まらない早さでボールを奪いました!』
「くっ! よこしなさい!」
アスタリーナがボールを奪い返そうとするが、ティアが投げるのが早かった。
「エリザ頼んだよ!」
「承知!」
バウンドパスを受け取ったエリザが言う。
――残り七秒
「あんたの相手はこのあたしだよ!」
マーニャが十数本の腕をエリザの持つボールへと伸ばす。だが、やすやすと取られる女騎士ではない。
巧みな体捌きで次々とかわしていく。
「さっさとそのボールをよこしなっ!」
痺れを切らしたマーニャが闇雲に腕を振るう。やがて手に感触があった。
「取った!」
すぐさまパスを渡そうと――――
「バカ! ボールはあっちだ!」
「え?」
ラウラが指さす方を見るとボールはテンのほうへパスされていた。
「それじゃあたしが手にしてるのは……?」
手に持ったものに目をやる。
「おい。乱暴に扱わないでくれ」
マーニャの手のなかで首だけのエリザが文句を言う。
「くっ! ハメられた!」
すり替えられた首を投げ飛ばそうとするが、首無しのエリザが掴み、元の位置に戻す。
――残り五秒
エリザからパスを受け取ったテンはドリブルしながらフロントコートを目指す。
ゴールポストの周りにはクロエとゴラミーが塔のように立ちはだかっていた。
「ゴラミー! クロエ! 死守しなさいっ!」
「ゴルルルーーッッ!」
「いかせはしないよ!」
テンは頭のなかで素早く算盤を弾きながら計算する。
「位置ヨシ! 角度ヨシ! 距離ヨシ! 見えたヨ! 勝利への道ガ!」
ボールを頭上に構え、ゴールポストに狙いをつけてシュートを――――
ゴラミーとクロエのふたりが腕を伸ばしながらブロックを。
だが、目の前のキョンシーは前方でなく横へと投げた――
どういうことですの……!?
アスタリーナが目を横にやったとき、フリースローサークルの上空をヴェルフェが駆けるのが見えた。
「なっ!?」
アスタリーナが目をみはるなか、ヴェルフェは見えない階段を登るかのように駆け、テンからのパスを受け取った――
「よっしゃ! アリウープ成功だ!」
真壁が拳を握りしめながら。
「バカな!? 魔法は禁止されて――」
アスタリーナが目を凝らしたとき、ヴェルフェの足元に黒いものが見えた。
コウモリだ。むろんコウモリに身を変えたスカーレットである。
委員長を足場にしてヴェルフェはゴールポストを目指す。
――残り二秒
「一歩!」
ボールを持ったままカウントする。
「二歩!」
二歩目でぐっと足首に力を入れ、ジャンプを。ゴールポストはもう目の前だ。
「させるものですかぁああああ!」
ジャンプしたアスタリーナがゴールポストの手前でブロックを。
だがそれより高く飛んだ彼女をアスタリーナが見上げるなか、ヴェルフェは両手でボールを持ち――――
「これで決まりじゃあ――ッ!」
ばあんっと豪快にスラムダンクを決めると同時にホイッスルが鳴った。試合終了だ。
ボールがコートに落ち、ころころと転がったのちに止まる。静寂が会場全体を包んだかと思うと、いきなりどっと大歓声が会場全体を震わせた。
『ゲームセットですっ! まさかのヴェルフェチームが勝利しました――――ッ!! 初勝利ですっ!!』
観客席から「ヴェルフェ! ヴェルフェ!」コールが巻き起こり、ヴィクトリアは真壁に抱きつきながら涙を流す。悔し涙でなく歓喜の涙だ。リリアも真壁に抱きつく。
「やったよ! イタルの作戦がうまくいったんだよっ!」
「会長が決めてくれましたよ! 真壁さん!」
ヴェルフェチームは互いにハイタッチを。
観客はチームの垣根を越えて惜しみない拍手を送る。その中にはヴェルフェの父である魔王も拍手していた。
「……よくやった。よく、ここまで頑張ったなあ」
拍手しながらうんうんと頷くその姿はまさに父親のそれだ。
「私はあの子たちならきっとやってくれると信じていましたよ」
魔王の横で学長も惜しみない拍手を送る。
会場全体が拍手に包まれるなか、ヴェルフェはいまだにゴールリングにぶら下がっていた。
「だ、だれかわしを下ろしてくれんか!? わしは高いところがニガテなんじゃ!」
やがてゴールリングを掴む手に限界が来た。たまらずヴェルフェは手を離し、そのまま落下を――
コートにぶつかる前に何者かの手によって受け止められる。
「ぬ?」
「……あたくしたちの完敗ですわ。初勝利おめでとう」
「う、うむ……」
「こんなに燃えたのは初めてですわ。良い試合でしたわね」
見るとアスタリーナチーム全員がこくりと頷く。
「さあ仲間たちのもとへ行ってらっしゃい。あなたには勝利の祝福を受け取る権利がありますわ」
ヴェルフェをコートに降ろしてやると、生徒会長はすぐに仲間たちのもとへと駆けよった。
「おおーい! みんな、やったな!」
「会長!」
「ヴェルフェ!」
チームが出迎える。後から真壁も加わった。
「やったな! お前ならやってくれると信じてたぜ!」
「お主の作戦があったればこそじゃ!」
真壁が彼女を幼児のように抱き上げ、ヴェルフェが腕を天へと伸ばす。
「今日は歴史に残る初勝利じゃーっ!」
「それじゃみんなで胴上げしよーぜ!」
チームが胴上げの準備に入ったのでヴェルフェは慌てる。
「ちょ、ちょっとまて! さっきも言ったが、わしは高いところがニガテ……ああああぁぁっ!!」
小さな体が高く宙へと舞い上がった――。
一方、廊下ではシルヴィーがほくほく顔で歩いているところだ。
「いやー、今日は良いことづくしやなー。試合に勝ったし、臨時収入も入ったし♡」
彼女の手には賭け金の売上金が。
「今夜はこれでぱーっと酒盛りを……」
「シルヴィー先生」
背後から凛とした声が聞こえたのでシルヴィーの背筋にぞくりとしたものが走る。
振り向かなくとも誰かはわかった。
「が、学長センセ……」
「一部の教師が賭博を行っていると聞きました。良ければ私の部屋でお話しませんか?」
学長がにこりと微笑む。優しい声音だが、有無を言わせない圧があった。
「は、はひ……」




