56話 ヴィクトリア負傷!? 絶対絶命のヴェルフェチーム!
「タダノネンザデス ホネニイジョウハアリマセン」
クリスがベンチに座るヴィクトリアの足首に湿布を貼り、その上に包帯を巻いていく。
巻き終えると真壁のほうを見上げる。
「デスガ コレイジョウノプレーハ キケントハンダンシマス」
「そうか……」
顎に手を当てながら少し考え、ヴィクトリアの前にかがむ。
「大丈夫か? ヴィック。痛かったら無理はするな」
ヴィクトリアは痛みに堪えているのか、深呼吸しているようだ。
「だいじょぶだよっ! こんなのなんともないって!」
そう言ってにかりと笑う。次にベンチの背に手をかけながら立つ。
「顔洗いたいからトイレ行ってくるね」
「あ、ああ」
無事なほうの足でなんとか歩きながらトイレへと向かうヴィクトリアの姿は痛々しそうだ。
真壁がコートの方を向くとフリースローが始まるところだ。
ヴィクトリアの代わりに出場したヴェルフェが審判からボールを受け取る。
「シュート二本です」
審判が指を二本立てながら。
「うむ」
ボールを両手に持って正面のゴールポストを見つめる。ヴェルフェからゴールまでの左右には両チームメイトが彼女の一挙手一投足に注目していた。
さらに観客席からはざわざわとざわめきが。いずれも練習にはない緊張感がただよっている。
ふーっと深呼吸をひとつしてからゴールポストを見上げながら構えを。
ヴィクトリアがつないでくれたこの流れ、止めるわけにはいかぬ!
ぐっと足首に力を入れてジャンプ。そして押し出すようにボールを投げ、全員がボールの行方を目で追う――――
ばすっ。
ボールがゴールポストを抜けると同時に観客席からどっと歓声が沸き起こった。
『決めたーっ! ヴェルフェ選手まずは一本目を決めました!』
ヴェルフェ∶33−48∶アスタリーナ
◇◆◇
その頃、ヴィクトリアは痛みにこらえながら通路を歩いているところだ。
壁に手をつき、ふーっとひと息つく。するとコートの方から歓声が聞こえてきた。
「……会長、決めてくれたんだね」
壁に背を預け、そのままぺたりと座り込む。依然として痛みは治まらない。
「…………なんでこんなときに……」
包帯が巻かれた足首を見ながら。
「みんながんばってるのに、ボクだけ……」
無事なほうの足を曲げ、膝に顔をつける。
「シュートも決められなかったし、ブロックだって満足にできなかったし……くやしいよ……」
ぽたりと大粒の涙が落ち、ヴィクトリアの顔を濡らしていく。
「ボクは……役立たずだ」
ぎゅっと目を閉じると、足音が聞こえてきた。目を開けるとシューズの爪先が目に入る。
「やっぱここにいたか」
「イタル……」
ヴィクトリアが顔を上げると、心配そうに見つめる真壁が。
「やっぱり痛むのか?」
「あははっ。へーきだって! ちょっと疲れたから休んでただけだよっ」
そう言って笑う彼女の顔は涙で濡れ、無理に笑っているのがありありと見えた。
「立てるか?」
ほら、と手を差し出す。
「……うん」
差し出された手をつかみ、壁に手をつきながら立ち上がる。すると真壁が腕を肩に回してくれた。
「肩くらいなら貸すぞ」
「ん……ありがと」
通路はふたりの足音のみが響くのみで、会場からは依然として歓声が聞こえてくる。
「……なぁヴィック」
「ん? なに?」
「さっき、自分のことを役立たずだと言ってたけど、そんなことはないぞ」
「そ、そうかな?」
真壁がこくりと頷く。
「毎回お前の発明に助けられてるし、実際ヴィックがいなかったら魔鉱石集まらなかったろーし……それに」
「それに?」
ヴィクトリアが真壁のほうを見ながら。
「今回、試合に負けて魔鉱石が手に入らなかったとしても……」
ちらりとヴィクトリアの顔を見る。言葉の続きを待っているのか、こちらを覗き込む。
「あー……やっぱなんでもないわ!」
自分でも歯が浮きそうなセリフが出そうになるのをこらえてごまかす。
「それより痛くないか?」
「んー……さっきよりはちょっとマシになってきたかな?」
「そっか。じゃこのまま会場まで歩くぞ」
「うん……」
……肩じゃなくて、おんぶだったらよかったのに……。
「ん? なんか言ったか?」
「んーん、なんでもない」
やがてふたりは通路から会場へと出た。コートでは今まさにヴェルフェが二本目のシュートを放そうと構えているところだ。
『ヴェルフェ選手フリースロー二本目も成功なるかー!?』
だが、いっこうに放つ気配がない。構えたままゴールポストを凝視するだけだ。
アスタリーナチームとヴェルフェチームともにリバウンドを狙うべく待ち構えていた。
「……まずいな、ガチガチに固まっちまってる。5秒以内にシュートしないとファウルになるぞ」
それでなくともヴェルフェは五本に一本はやっと入るくらいの腕なのだ。
真壁がヴィクトリアを座らせようとしたとき、いきなりヴィクトリアが立った。
「会長ーっ! 周りなんか気にしないで打ってーっ!」
「ヴィクトリア!?」
ボールを構えたままヴィクトリアのほうを見る。足首を負傷した副会長が頷く。
「早くしないとファウル取られるよー!」
「……うむ!」
意を決したのか、ジャンプしてボールを押し出すように放つ――――
全員の目がボールに注がれるなか、ボールはボードに当たって弾かれ、リングをゆっくりぐるりと回る。
両チームがボールの行方を追う。
一周、二周……
「入れ――――っ!」
ヴィクトリアがあらん限りの声で叫ぶ。やがてボールは動きを止め――――
――――――さくっ。
『決まった――――っ! ヴェルフェ選手、二本目も決めました! これで2点獲得ですっ!』
ヴェルフェ∶34−48∶アスタリーナ
『ヴェルフェチームこのままこの勢いで勝つかー!? あっと、アスタリーナチーム選手交代です! ラウラ選手と入れ違いにビジー選手がコートに入ります!』
エンドラインからのスローインでボールを受け取ったアスタリーナは相手チームの勢いを絶つべく攻めていった。
『アスタリーナチーム果敢に攻めていく――!』
アスタリーナチームが点を入れるとヴェルフェチームは負けじと食らいついていく。
そのなか、テンがスリーポイントシュートを決めた。
ヴェルフェ∶52−54∶アスタリーナ
『ついに2点差まで追いつきました! どちらが勝つのかわからなくなってきたぞーっ!』
ボールを受け取ったクロエはドリブルしつつ、単眼をこらしながらどう攻めるか考えようと――
「足元注意じゃ!」
『ヴェルフェ選手のスティールだー! 鮮やかな奪還ですっ!』
「おバカ! あれほど言っておいたのに……!」
「ティア! パスじゃ!」
「おう! 任せな!」
バシッと音を響かせながら受け取り、すかさずゴールポスト目指す。狙いはもちろんスラムダンクだ。
「これで同点――」
ボールがゴールポストに入る寸前、いきなり弾かれた。見るとビジーが見えない腕でブロックしたのだ。
「なっ!」
「でかしましたわ! ビジーちゃん!」
だが、その時ホイッスルが鳴った。
「な、なんじゃ? ファウルか?」
ヴェルフェだけでなく全員がざわめく。身体中に無数の眼が生えた審判が前に進み出る。
「インターフェアの可能性があります」
次に両手で丸を描くように。
『どうやらファウルの可能性があるようです! 水晶球による判定が行われますっ!』
「インターフェアってなんだっけ?」
ヴィクトリアが真壁に問う。
「インターフェアってのはボールがリング上にあるときにボールやゴールに触れることなんだ。判定が難しいんだよ。俺のいた世界じゃVTR判定するんだけどな」
「だから水晶球を使うんですのね」
スカーレットが血液パックを持ったまま言う。
「ああ。見ろ水晶球だ」
真壁の言うとおり、審判のもとへ水晶球が運び込まれ、審判が手をかざすと映像が現れた。
ティアがダンクシュートを決めるところだ。審判の無数の眼がぎょろぎょろと一点に注がれていく。
チームだけでなく観客席に座る全員が固唾をのんで見守る。そのあいだも映像は流れ、ボールが弾かれたところで停まる。
細部を確認した審判が頷き、コート全体に響くような声で結果を伝えた。
「ビジー選手の手がリングに触れていました。インターフェアです。よって――」
ばっと腕をヴェルフェチームのほうに伸ばす。
「ヴェルフェチーム2点獲得!」
『おおーっと! ヴェルフェチーム2点獲得しました! これで同点ですっ!』
ヴェルフェチームだけでなく真壁が「よっしゃ!」とガッツポーズを取り、その後ろでヴィクトリアとスカーレットがハイタッチを交わす。
そのなか、ビジーはとぼとぼとアスタリーナのほうへ近づき、ばっと頭を下げる。
「ご、ごめんなさい……! 落ち着いてプレーしていればこんなことには……」
ふたたびごめんなさいと頭を下げる。と、透明の両肩に手が置かれた。
顔を上げるとキャプテンがふるふると首を左右に振る。
「謝ることじゃありませんわ」
「で、でも……」
「あなたはよくやってますわ。ナイスプレーですわよ。さあ顔をお上げなさい」
「先輩……」
アスタリーナがこくりと頷き、次に時計に目をやる。試合時間は残り十秒だ。
「あと十秒ありますわ。ヴェルフェチームはもう体力の限界が来てますし、そこを突けば勝機はありますわよ」
できますわね?と問うと、目には見えないが、「はい!」とこくりと頷くのが見えた。
「よろしい。さあ残り十秒で攻めますわよ!」
アスタリーナチームがおう!と鬨の声よろしく雄叫びをあげる。
その時、真壁が「タイムアウト」と審判に宣言を。
「最後のタイムアウトになりますが、よろしいですね?」
「ああ」
審判がこくりと頷き、ホイッスルを吹く。
「タイムアウト! 一分の休憩です!」
各選手がベンチに戻り、座ってつかの間の休息を取る。
「審判」
「なんでしょう?」
「ちょっと確認したいことが――」




