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55話 死闘! 第四クォーター開始!


 ピーッとホイッスルが鳴り、第三クォーターの終了を告げ、各選手が休憩を取るためコートの外へ出た。


『残るは第四クォーターです! 泣いても笑ってもこれで勝負がつきます!』


 ヴェルフェチーム全員どかりとベンチに腰を下ろし、肩で息をしながら汗をぬぐう。

 

「なんとか……ここまで食らいついてこれたな」


 ヴェルフェが得点板を見上げながら。


 ヴェルフェ∶22−46∶アスタリーナ


「ああ、だが状況は厳しいぞ」


 ちらりとアスタリーナチームのほうを見る。前半の余裕は消え失せ、作戦を練っている様子だ。

 弱点を利用されたことも感づいているだろう。


「いいですわね? 甘く見ないで手を抜かずに勝ちに行きますわよ!」


 全員がはい!と答える。


「闘志に火を付けちまったな……」

「のぅ真壁、ほかに策はないかのぅ?」


 ヴェルフェの問いに真壁は首を左右に振るのみだ。


「はっきり言って今のところはない」

「そうか……じゃが、今回のわしらは今までにないほど善戦しておる。これもお主のおかげじゃ」

 

 礼を言うぞと言われ、真壁は思わず頬をぽりぽりと掻く。


「おぅ……でも負けたら魔鉱石が手に入らなくなるけどな」

「うむ……」


 真壁はチームを見回す。もともと体力のある者以外は疲労困憊といった(てい)だ。

 特にスカーレットは魔力を使いすぎたのか、青白い顔をしながら血液パックをストローで直に飲んでいる。

 そこへ真壁に声をかける者が。


「真壁殿」

「どうした? エリっち」

「次は私を出させてほしいのだが」

「……大丈夫か?」


 パスを受け取っただけでも首が取れる女騎士を不安そうに見つめる。

 だが、女騎士は「お任せください」と頷く。


「もう二度と首が取れるようなヘマはしません」

「……わかった。頼んだぞ」


 その時、ホイッスルが鳴った。インターバルの終了だ。


「……よし! 最後のクォーターだ! メンバーは――」


 アスタリーナチームはビジーをベンチに残して出場し、対するヴェルフェチームはヴィクトリア、テン、リリア、ティア、そしてエリザだ。


「足引っ張るんじゃないよ」

「言われずとも!」


 ティアとエリザがポジションにつき、ボールを受け取ったアスタリーナがシューズをきゅっきゅと鳴らしながらヴィクトリアとリリアのボールを奪う手をかわす。


「……ッ! 前半とは動きが違いますわね!」

「ヴィック、リリア! ハンズアップだ!」

 

 真壁の指示通りにふたりが腕を高く上げる。


これでは向こうにパスできませんわね……! こうなったら!


 ボールを片手で持って高く上げ、パスの体勢に入る。それをふたりが阻もうと腕を上げ――


「かかりましたわね!」

 

 高く上げた腕を素早く後ろに回して横にパスした。


「うそっ! フェイント!?」

「それもノールックパスです!」


 アスタリーナから十数本の腕のうち二本でボールを受け取ったマーニャはすぐさま周囲を見渡す。

 ゴール下にはラウラとクロエがいた。その傍らにはティアとエリザが。

 女騎士の姿を認めたとき、マーニャはにやりと口を歪める。そしてボールを勢いよく投げた。

 だがそのボールは味方でなくエリザのほうへ向かっている。


「しまった! 手が滑ったぁ!」

「パスミスか!?」


 ヴェルフェがベンチからがたりと立つ。

 

「いやわざとだ! エリっちのファウル狙いだ! エリっちよけろーっ!」


 真壁が避けるように叫ぶが、当のエリザは動かない。それどころかボールを受け止める構えを取っている。


「エリザ! あたしが……!」


 ティアが取ろうとするが、距離的に間に合わない。それでもなんとか腕を伸ばそうとするが、エリザがボールを受け止めるのが速かった。

 

「ッ! またファウルに……!」

「真壁! 見よ!」


 思わず目を閉じる真壁にヴェルフェが指さす。

 見るとボールを受け止めると同時にくるりと後ろ向きに一回転し、首が外れることなくそのまま着地した。


『おおーっと今のはなんだぁーッ!?』

「なんなんだ今のは!?」

「でかしたエリザ! 回転することによって勢いを殺したんじゃな!」

「いいぞ! 原理はよくわからんが、そのまま攻めろ!」

「承知!」

 

 すぐにドリブルし、ディフェンスをかわしながらゴールポスト目指す。


「ゴルルルーーッッ」


 最後の砦であるゴラミーが待ち構えていた。


「騎士の心構えそのひとつ! 困難なときこそ冷静であれ!」


 ジャンプシュートを決めようとするエリザのボールを奪わんと手を伸ばす。だが、するりと外れた。


「ゴルッ!?」

『エリザ選手、ただのジャンプと見せかけて後ろ向きのジャンプだーっ!!』


 女騎士の放ったボールはゴーレムの頭上を越え、そのままゴールポストに吸い込まれた。


『エリザ選手初得点ですっ! これで24−46です!』

「なんなんじゃ今の技は!?」

「『フェイダウェイシュート』だ! 教えてないのにいきなり成功させるなんてスゲーよ! エリっち!」

「さすがだねっ! エリっち!」


 エリザが拳をぐっと握って答え、すぐにディフェンスに戻った。

 その後もヴェルフェチームは快進撃を続け、ついに30点台に届いた。

 シュートを決めたヴェルフェチームがハイタッチを交わすなか、アスタリーナチームは不安そうにキャプテンを見つめる。その顔には前半の自信は消え失せていた。

 全員の視線を浴びるアスタリーナはふるふると首を振る。そして落ち着きなさいとでも言うふうに両手を前に出す。


「まだ慌てるときじゃありませんわ。さあオフェンス行きますわよ!」

「……はい!」


 ボールを受け取ったラウラがドリブルしながら八本の脚で果敢に攻めていく。

 

「さすがに速いな! クモのモンスターだけはあるってことか!」


 真壁の目の前でディフェンスがどんどんかわされ、最後はアスタリーナにパスされる。


「今回もあたくしたちが勝ちますのよっ!」


 そのまま叩きつけるようにしてダンクを決めた。


『決めたーっ! アスタリーナ選手、追撃を許しません!』


 ヴェルフェ∶30−48∶アスタリーナ


「焦るなっ! 時間はまだあるぞ!」


 真壁が手を叩きながらオフェンスに回るよう指示を。


「頼んだよテン!」

「ラジャー!」


 ティアからパスを受け取ってスリーポイントシュートの体勢に入り、シュートする。


「させるか!」


 マーニャが十数本の腕をいっぱいに伸ばす。それでわずかにだが、ボールに触れた。

 

「まずイ! 軌道が狂ったヨ!」


 テンの言うとおり、ボールはゴールポストへ向かってはいるがややずれているようだ。

 やがてボールはリングに触れ、そのままくるりと回る。


「入れ――!」

「入らないでくださいまし!」


 ボールは一周したのちにころりと外へ――


「リリア! リバウンドだ!」

「はっはいっ!」


 ちょうどゴールポストの下にいたリリアに指示を飛ばす。

 アスタリーナチームのブロックをかわしてジャンプしたサキュバスの手にボールが触れる。

 触れると同時にトレーニングした記憶が思い起こされた。

 

『――いいか、レイアップシュートのコツは置いてくるって感じだ』


「ボールを置いてくるように――」


 激しいブロックのなか、柔らかいタッチでボールを置いてくるように――――


 さくっ。


 荒々しいダンクとは違って優しい音がゴールを告げた――


『リリア選手決めました――! 初得点ですっ!』


 ヴェルフェ∶32−48∶アスタリーナ


「やった! やりましたよっ! 真壁さん!」

「よくやった!」


 その時、どっと観客席が()いた。


「ヴェルフェ! ヴェルフェ!」


 さっきまでアスタリーナチーム一色だった観客席がいつの間にか半分ほどヴェルフェチームを応援している。


「すごいなぁ……ボクだって……!」


 観客席が沸き立つなか、ヴィクトリアはひとり拳をぐっと握って闘志を燃やす。


「さあオフェンス行きますわ! 点差をさらに広げますわよ!」


 ふたたびラウラがドリブルし、さっきと同じようにアスタリーナにパスを――

 だが、ボールは彼女に手には渡らなかった。

 

「取った!」

「なっ!?」


『ヴィクトリア選手まさかのスティールだーっ!』


「ヴィック!? 無茶だ!」

「ボクだってこれくらい……!」


 完全にノーマークだったため、ディフェンスはがら空きだ。難なくゴールポストの近くまで来る。


「これで2点……!」


 リリアが決めたのと同じようにレイアップシュートを。


「そうはさせませんわ!」


 追いついたアスタリーナがジャンプしてブロックを――――


 だが勢いがつきすぎたのか、アスタリーナの腕がヴィクトリアの腕に触れた。

 そのためバランスを崩し、ボールとともにコートに落下する。

 同時にホイッスルが鳴った。


「ハッキング! アスタリーナ選手!」

「くっ!」


 審判が片方の手でもう片方の手首を叩く。

 

『おおっと! アスタリーナ選手ここにきてファウルですっ! しかもフリースローが与えられるのでこれは痛いぞーっ!』


 審判がボールを拾い、ヴィクトリアに渡そうと――


「ねぇ、どうしたのあれ?」

「なんかヤバいんじゃない?」


 観客席がざわざわとざわめく。


「ヴィック……?」


 当のヴィクトリアはコートに倒れたまま動かない。足首を手で押さえているように見える。


「だ、大丈夫なのか?」

「レフェリータイム!」


 心配するヴェルフェとスカーレットをベンチに残して真壁がタイムを宣言し、ヴィクトリアのもとへと駆け寄る。

 彼女のもとにはすでにチーム全員が集まっていた。


「大丈夫かい?」

「立てますか!?」

「お前らどけ!」


 真壁がかがみ込み、彼女の足首を見る。それは素人でもわかるくらいに腫れていた。着地の際に足を捻ったのだろう。


「ヴィック!」

「だ、だいじょぶだよ……っ!」

 

 にっと笑うが、その笑顔は明らかに無理しているように見えた。


「このくらいへーき……ッ!」


 立とうしたところ、バランスを崩したのを真壁がすかさず支える。


「選手交代だ。ヴェルフェ頼む!」

「う、うむ!」


 ベンチから立ち上がってコートへ。


「ヴェルフェ、代わりにフリースローを頼む。クリス、ヴィックを運んでやってくれ」

「カシコマリマシタ」

 

 クリスがヴィクトリアを抱きかかえ、真壁たちはコートを後にした。

 ヴェルフェチーム全員が得点板を見上げる。依然として点差は離れていた。


 ヴェルフェ∶32−48∶アスタリーナ


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